第一章
ナインテイルの東地区を仕切るのは、“シルバーフォックス”と呼ばれる盗賊ギルドである。
その組織はどちらかというと古い体質で、仲間同士の“忠”を大事にしているという点で、ナインテイルの中では安全な部類だと言える。
ただし、それはあくまでも“シルバーフォックス”内部へ対してのみであり、外部に対しては苛烈なことで知られていた。
娼館街の一角に建てられた冒険者の宿“朝露の薔薇亭”。
この大通りにある娼館の全てはもちろんのこと、この冒険者の宿もまた“シルバーフォックス”の庇護を得るために上納をしている――――
メルト (カランカランと扉の鈴を鳴らして、店に入る)やあ、こんばんはステラ。
GM/ステラ 「あら、メルト。いらっしゃい♪」と“朝露の薔薇亭”の女マスターが笑顔で出迎えてくれる。
――――冒険者の宿“朝露の薔薇亭”。
この店がラクシアにある普通の『冒険者の宿』とは大きく異なる点がある。
それは、ここの女マスターが元娼婦であり、“シルバーフォックス”の幹部に身請けされたこと。また、そんな経緯から1階の酒場は冒険者だけではなく、娼婦たちの憩いの場にもなっていた。
そして、通常の依頼だけではなく、時折“シルバーフォックス”からの依頼が入る部分も特徴と言える。
この店での揉め事は“シルバーフォックス”の耳にも届くため、今までに大きな問題が起きたことはない。
エルフゆえに、その若さと美貌の衰えが見えない女マスターのステラは、この界隈では有名人であった。
GM/ステラ 「……あらぁ? 後ろにいる子、随分と扇情的な格好しているけど、どうしたの?」と、メルトの後ろに隠れるようにいるユリフィーユを見る。
メルト ああ、さっきそこで知り合ったんだ。俺のトモダチ(にっこり)。
GM/ステラ 「(眉をひそめて)ともだち? ……まあ、ここはこういう街だから、自衛は義務みたいなものよね(苦笑)」
メルト (ため息混じりに)よくある話っちゃあ、話だけどな。……それで、悪いんだけどさ。この子に着るものとか貸してやってくんない?
GM/ステラ 「ええ、それはかまわ……」
メルト (発育途中のユリと、エルフのステラの胸を見比べて)……うん、これなら着れそうだな。
GM/ステラ 「(にっこりと微笑んで)――えいやっ!」とメルトをお盆で殴って(笑)。「あなたもこっちへいらっしゃい。いつまでもそんな格好じゃ恥ずかしいでしょ?」と所在なさげに立っていたユリフィーユに声をかける。
/ユリ 「あ、はいっ。す、すみません」
/ステラ 「(ユリの顔を見つめて)……ふぅん。メルトが人助けだなんて珍しいとは思ったけど……。(意味ありげに微笑んで)まあ、そういうことならしょうがないか。可愛い子だものね♪」と、その言葉に照れるユリフィーユを奥の部屋へ連れて行く。
メルト (見送りながら)んじゃ、俺は適当に飲んでるから。
GM/ステラ 「はいはーい。じゃあ、店番とかお願いねー」
GM では、その少し後。
マリー・マリス(以下、マリー) (カランカランと扉を開けて)はーい、坊や。
メルト (勝手にグラスを空けながら)よー、マリー。いらっしゃい。
マリー ……なんで、坊やが店員の真似事なんかしているのよ? ステラは?
メルト いや、実はさっき――(事情を説明)――それで、服を借りているところだ。
マリー (いぶかしむように)坊やが、人助け? なに、その子は美人だったの?
メルト ま、そんな所だ。
メルトローズに話しかけてきたのは、マリー・マリスというエルフの女性である。
二人は冒険者の仲間・相棒のような関係になる。
この辺りで“朝露の薔薇亭”の女マスターとは別の意味で名の知られたエルフ――マリー・マリスは一見すると冒険者よりも娼婦と言った方が通りはいいような外見であった。
エルフに似つかわしくない豊満な胸に、太ももを大胆に見せる深いスリットが入った服。
武器と言える武器を持っておらず、唯一、妖精神アステリアの聖印がその胸に埋もれかかっていることから神官であることは分かる。
しかし、その外見に油断した者はすぐさま後悔することになるだろう。
彼女の実力は無手にこそあり、特にその投技は芸術とも言えるほどである。たまに娼婦と勘違いをして声をかけた愚かな男が、宙を舞うこともしばしばあった。
マリー・マリス――“猛毒の花”の二つ名で呼ばれる実力派の冒険者だ。
メルト (どことも知れぬ方向へ、キメ顔で)ただ、俺はマリーが実はいい奴だってことを知っている――――
一同 誰に向かって言ってるんだよ!?(笑)
メルト ……読者?(笑)
マリー 坊や、酔っぱらっているみたいね(笑)。
メルト (聞いていない)つまり、オッパイ魔人に悪い奴はいないってことだ!
GM もはや、セクハラだよ! というか、メルトはもうイケメン路線は捨てたか(笑)。
では、なんかオッパイについて熱く語るメルトたち(マリー:あたしは語ってないよ!(笑))の所へ、ステラとユリフィーユが戻ってくる。
/ステラ 「お待たせ。美人さんを連れてきたわよ♪」とユリフィーユを手前に出す。
マリー (ユリの顔を見て)――――……っ。
メルト (笑顔で)ああ、似合ってるねその服。
GM/ユリ 「い、いえ、そんな……(顔を赤くして、もじもじ)」
マリー ……そういうこと(ため息)。
GM/ステラ 「マリーもいらっしゃい。今夜はお客が少ないから、ゆっくりしていって」と店内を見回すと、普段よりも少ない感じ。
メルト ん、今日はなんかあったっけ?
GM/ステラ 「たぶん、今夜は娼館が賑わっているだけでしょ」
メルト なるほど。……で、俺はユリちゃんを家まで送っていけばいいわけ?
GM/ステラ 「あら、話が早くて助かるわ♪ ちなみに、ユリちゃんの家は上級区らしいから、よろしくね~」
ちなみに、上級区とはちょっとした丘の上にある富裕層の住宅街のこと。ナインテイルでも数少ない治安のいい所だね。
メルト (納得顔で)ああ、やっぱりというか――ま、なんにせよ、帰る家があるってことはいいことだ。
マリー (皮肉めいた笑みを浮かべて)それで、そのお嬢さまがこんな危険な所でなにをしてたんだい?
GM/ユリ 「(少しびくびくとしながら)あの……わたし、市場で買い物をしていて……」と簡単に説明してくれる。ユリフィーユは、先月にナインテイルに来たばかりの商人の娘らしい。
それで、今日は市場で買い物がてら散歩をしている内に道に迷ってしまって、気がつくとあんなことになってしまったようだ。
マリー (興味無さそうに)へえ、そいつは災難だったわね……。
GM/ユリ 「(空気が若干悪くなるのを感じて)あの……すみません」
マリー なんで、あたしに謝るの?
GM/ユリ 「いえ、その……(おろおろ)」
メルト おいおい、マリー。その辺にしておけよ(苦笑)。
マリー (メルトをちらっと見て)……(お酒を飲む)。
GM/ステラ 「(やんわりと割って入って)さて、そろそろ時間も時間だから、家の人も心配しているでしょうし、メルトはユリちゃんを送ってあげて」
メルト りょーかい。エスコートは任せておけよ(と、ユリに微笑む)。
GM/ユリ 「(顔を少し赤らめて)は、はいっ――――あ、この服、必ずお返しに来ますから!」
/ステラ 「お古だから、別に気にしないでいいわよー」という感じで、メルトとユリは店から出て行く。
GM/ステラ 「……マリーがなにを言いたいのか分からなくもないけど、ユリちゃんは悪くないわよ?」と、お酒を持ってくる。
マリー (グイッと酒をあおって)あの馬鹿がっ。
GM/ステラ 「(苦笑いを浮かべて)メルトも、色々と思う所があったんでしょ。だから、あんな珍しいことまでしたんだし」
マリー だから、正真正銘の馬鹿野郎なんだよ、あいつは。
GM/ステラ 「ま、馬鹿なのは否定しないわ。でも、今回のことでなにか変わるきっかけになってくれればいいんじゃない?」
マリー ……変わる、ね(苦笑)。
GM/ステラ 「そういうのは大事でしょ。特に、男の子には」
マリー (ため息を少しついて)今夜はお酒、どんどん持ってきて。気分でも治すわ。
GM/ステラ 「はーい、まいど~♪」