エピローグ
『これを見ているということは、僕は死んでいるのだろう』
ラッセルの遺書には、今回の一件のことが全て書かれていた。
コルネロ商会、サヴェイ商会がやってきたこと。資金の動きを含めた商会の全てが書かれていた。そして、最後にはこう綴られている。
『借金をした僕はもはや死ぬか、自分の家族を売るか、それとも……誰とも知れない他人を売るしか選択権がなかった。だったら、選択肢は一つしかないだろう?
だから、この街では大切な物を奪われる前に、僕は奪う側に回ったのだ。
――――ラッセル・サヴェイ』
GM/ザイン 「――要するに、ラッセルは借金を理由にコルネロに、遠からず全てを奪われることが分かっていた。……つまり、この一連はあの男が仕組んだ結果だったというわけさ」
マリー 確かに、最後は自分の娘を人質に取られていたぐらいだからねぇ。何をされてもおかしくはないか。……あの外見に似合わず、ラッセルもしたたかだったってことかい。
GM/ザイン 「“猟団”の連中に、形勢が不利になれば自分とコルネロを殺す契約までしていたからな。……ま、もっとも今回の結末はラッセルとしては、成功とは言い難かっただろうがな(苦笑)」
メルト ……。
GM/ザイン 「さて、これでコルネロ商会もサヴェイ商会も解体。ま、財産なんかは各組織が没収という形で落ち着きそうだ。
それと――ユリフィーユ・サヴェイは“シルバーフォックス”が引き取る形になる」
メルト ……そうか。
GM/ザイン 「まあ、安心しろ。あの娘ほどの外見なら、“碧の森”で働ける。あそこなら、ひどいことにはならないさ」
マリー 一番妥当な所じゃないかねぇ。
GM/ザイン 「ラッセルがやった事前の手回しで、ユリフィーユ・サヴェイ個人が背負う借金なら、なんとか返済できる範囲だ。まあ、うまくいきゃ数年で完済できるはずさ。今回の一件の中じゃ、悪くはない話だ」
メルト ……悪くない、か。確かに、そうなるだろうな(苦笑)。
マリー なにを気にしているんだい、坊や? ま、なんならあの娘の客にでもなってやりな。そうすりゃ、返済も早くなるさ。
メルト いや……そういうことじゃない。なあ、あいつは……ユリはなんて言っている?
GM/ザイン 「今の状況を受け入れているさ。まあ、諦めているとも言えるがな」
マリー なんにせよ、この話はもうお終いさ。そこに、あたしらの出番はない。
メルト (呻くように)俺は――――
事件のすぐ後のこと――――
GM/ユリ 「(死んだラッセルに対して)……お父さん、わたしは……他の人を犠牲にしてまで、守って欲しくはなかった……一緒に頑張れれば、それだけでよかったのに(涙)」
メルト 一緒に、頑張れなかった状況だったんじゃないか……な。
GM/ユリ 「それはわたしが弱かったから、ですか? わたしじゃ、お父さんの力になれなかったらから?」
メルト そ、れは(言葉に詰まる)。
GM/ユリ 「わたしは守られるばかりだったから、それに甘えていたんですよね。この街に来て、メルトさんにも助けてもらって……わたしはいつも、こうなんですね。これからも、きっと……。だから、一人ぼっちになっちゃったんですね……」
これは、5年前のこと――――
GM/リリアハート 「(病床に伏せながら)お兄ちゃんに……誰かを犠牲にしてまで、守って欲しくはなかったよ……」
メルト だが、俺にはそれしかできなかった! それだけしか、お前を守る手段がなかったんだ……お前を治療できる金が、他になかったんだ!!
GM/リリアハート 「(ふるふると首を振って)違うんだよ、お兄ちゃん……。兄妹で一緒に生きられれば、それだけで幸せだったんだよ……わたしたちは幸せになれたんだよ」
メルト ……リリア……お、俺は今までなんのために……なんのために俺は……。
GM/リリアハート 「だから、お兄ちゃん……ごめん、ね。わたしが弱くて、ごめん」と涙を流す。
「わたし、本当の意味で……お兄ちゃんと一緒に生きたかったよ……――――」
それが、妹との最期の会話。
メルトローズの全てが否定された言葉。
そして、メルトローズが殺し屋をやめるきっかけとなった言葉。
10年前の“迷宮大活性”で孤児となった二人の関係は、ここで終わった。
そして、今。
妹と同じこの街に似つかわしくない、澄んだ瞳を持った少女がいる。
家族と一緒に生きたかったと言った少女がいる。
(また、俺は繰り返すのか?
同じことを繰り返して、また、失うのか?
俺は――――)
メルト (力強く)俺が……俺が、ユリフィーユ・サヴェイを身請けする。
マリー な、坊や……! 何を言っているんだい!?
メルト いや、決めたんだ。俺は、ユリを背負う。
マリー 同情のつもりなら、やめておきな! お互い不幸になるだけよ!?
GM/ザイン 「メルト……この額の他人の借金を背負うって意味が分かっているのか?」
その後、マリーもザインも色々と言っていたが、すでにメルトローズの耳には届いていないようだった。
「――――いいだろう。メルト……この借用書にサインしな。“シルバーフォックス”に借りる意味。そいつを身に叩きこんでやる」
結局、このザインの一言で、話がまとまる。
借用書にサインをしてからも、マリーはずっと不機嫌を露わにしていた。
…………。
……。
GM というわけで、色々と手続きがあるので、メルトはユリフィーユに会いに行っている。それで、一人去ろうとするマリーに。
/ザイン 「よお、仕事上がりに“朝露の薔薇亭”で一杯どうだ? 馬鹿なメルトに乾杯でもしてやろうぜ」
マリー はっ、馬鹿に乾杯なんざ、する気にもならないね。一度ぐらい死んでも、あれは治らないレベルの大馬鹿さ。
GM/ザイン 「やれやれ、ご機嫌斜めだな。……で、どうする?」
マリー ……まあ、いいさ。まずい酒でも飲んで、全てを忘れることにするよ。
GM/ザイン 「はは、そうだな。だったら、このクソったれな街にでも乾杯するか」
マリー ――そいつは、いいわね。
……。
…………。
GM/ユリ 「ねぇ、メルトさん」
メルト ……ん?
GM/ユリ 「メルトさんとなら、わたし……一緒に頑張れると思います」と、メルトにもらったブローチを握りしめる。
メルト (そんなユリフィーユを見て)そうだな……頑張って、いこうか。
GM/ユリ 「はいっ――――あ、それと仕事ならもう見つけてきましたよ!」
メルト 早いな!? まだ、1日も経ってないぞ(苦笑)。
GM/ユリ 「とある冒険者の宿で、ウェイトレスを募集していましたから(微笑み)」
メルト あー、なるほど……んじゃ、これから挨拶もかねて“朝露の薔薇亭”に行くか。
GM/ユリ 「はい、メルトさんっ」
――――無法都市ナインテイル。
この街で生きるのは冒険者だけではなく娼婦、ヤク中、傭兵、殺し屋――そして、蛮族たち。そんな場所だからこそ、ここで暮らす者たちは昨日よりも明日よりも、今日を生きている。
彼らは、ここで今を生きていく…………。
ソードワールド2.0リプレイ・ナインテイル
Trafficking――END
最後までお読みにいただき、誠にありがとうございました。
これで、ナインテイルのリプレイはひとまずの完結となります。
この街でやりたいネタはまだありますので、機会があれば続きも書けたらいいなと思っております。その際は、再びお読みいただけると嬉しいですね!
それと、「TRPG ONLINE」で始まったばかりのリプレイ投稿で、気になった事(誰か分かったら教えてください!)をここでとりあえずメモとして追記しておきます(2014/9/20現在)。
1 文字の「太文字」「大きさ変更」「中央寄せ、右寄せ」ができなさそうなんで、どうもリプレイの文章が淡白になりがち?
2 ルビは「ひらがな」「カタカナ」とかだけで「漢字」はダメっぽい(最大10文字)。
3 イラストも左寄せだけかな。
4 「TRPG ONLINE」での「小説家になろう」にある「章管理」設定の仕方が分からない……(ないのかも?)。
5 リプレイの最新投稿の一覧に、「最終更新日」「全何部」「文字数」の項目がないと更新内容が分かりづらいね。
6 「小説家になろう」で検索する際は、キーワードかあらすじに「TRPG」「リプレイ」があると探しやすいな!
7 「小説家になろう」は他サイトの重複投稿を許可しているけど、あらすじには『重複投稿』と明記が必要。
後で、追記をちょこちょこ変更していきます。




