些細な出会い、大きな変化。
「・・・来ねぇな」
共同での暗殺、ということで1人忍が来る。
と、聞いていたのだが・・・
どうも、その忍が来ない。
容姿は、黒髪に紅蓮の瞳。
最近噂になってる期待の新人?とかなんとか、だそうで。
「・・・まあ、興味ねえけど」
にしても、来ないとなるとバックれでもしたのだろうか。
別に珍しくもないことだが、それならばさっさと1人で暗殺を終わらせて帰りたい。
「新人だしなぁ・・・まあ、調子に乗りたい時期くらいあるよな」
そう思った矢先、
「っ…は、ぁ"……っ、くそ…」
近くで呻き声にも似た苦しそうな声が聞こえる。
誰かと屋根から見下ろしてみれば・・・噂の彼だ。
「・・・よお、怪我してんの?」
屋根から飛び降りて近寄ると、彼は目を丸くした。
「えっ?あ・・・いや、これくらい・・・平気です」
見ると左腕をやられたようだ。
傷口の近くを右手で爪を立てるようにして強く掴んで痛みを抑えようとしている。
「いや、手当てしねえと悪くなる。見せてみな」
「・・・はい」
誰にやられたのかは聞かない。
興味もない。
こいつも忍だし、同情を求めたりはしないだろう。
無言のまま手当てをしていく。
「あっ・・・あー、えっと、」
「ん?なに」
沈黙に耐えかねたのか彼が口を開く。
「貴方は・・・その、」
「あぁ、俺な。俺はジャン。君と共同で暗殺の任務を遂行する“はずだった”」
「・・・すみません、注意が足りなくて・・・」
「いや、いいぜ。バックれずに来たのは偉い。放棄する奴のが多いしな」
そう言って手当てを手際よく終わらせる。
傷は深い方ではあったものの、それなりの処置はしたから治りはそこまでかからないだろう。
「よし、終わったぜ」
「・・・ありがとうございます」
「おう」
彼の表情は曇っている。
どうかしたのか、と聞こうか迷っていると、
「本当に・・・すみません。あの、まさか俺が貴方と共同で任務ができると思っていなくて・・・その、浮かれてました」
そう言われて頭を深く下げられた。
驚いて声も出なかった。
「・・・それはいいけどさ、君って俺のこと知ってたのか?」
一瞬は黙ってしまったものの、すぐにそう聞いた。
さっきのは初対面の相手に名前を聞いたというより、確認だったのか。
勘違いした。
彼は静かに頷いて続けた。
「有名です。その、幼い時から1人だけで何人もの集団を相手にできたとか・・・大名の右腕、とか・・・」
「・・・ぁー、」
そういやそんな噂あったな、と思いながら頭を掻く。
「憧れてました」
「え」
「やっと会えた・・・」
思わず頬が緩んだ表情、とは此れのことだろう。
彼はそんな表情をした。
「・・・君、名前は?」
「あっ、すみません・・・カナ、です」
「カナくんか。
あー、敬語やめていいぜ?それと、俺のこと呼び捨てにしていいから。
堅いのは抜きにしよう」
「えっ・・・」
「俺さ、君の憧れだったらしいけど・・・そんなに凄くない。
まあたしかに、さっきの幼い時からなんちゃら・・・とかは事実っちゃそうだけど」
彼は納得のいかなさそうな表情をした。
そんな彼に苦笑する。
「・・・なら、ジャ・・・じゃ、ん」
「そうそう、それでいいぜ」
ガチガチになっている彼にくすくすと笑いながら答える。
「これ、から・・・よろしく、ジャン」
「おう、宜しくな。カナくん」
ーーこのあと、まさか自分が彼を気に入るとは思ってもいなかった。
「ジャン!やっと帰って来たっ!!また遊郭か!?」
「だから仕事だって・・・」
ーーそして、彼に叱られることになるということも。