終わってしまった世界で
廃墟の街を、少女は走っていた。
そのすぐ後ろから迫りくる追跡者を、何としてでも振り切るために。入り組んだ地形を巧みに利用して逃走を続ける。
しかし、ダメだ。
「くっ、しつこい!」
少女は悪態を吐いた。
逃走劇も始まってから数十分が経つ。向こうは少しも疲弊していないだろうに、こちらばかりが徐々に体力を減らしていく。
体の各所に負った怪我。
負傷した左腕は、すでに感覚がない。
酷使した両足も限界で、まさに満身創痍といった状態だ。
このままでは、いずれ追いつかれてしまうのは目に見えている。
「やるしか...ないわね」
少女は決意を固める。
追跡が続いている間は、シェルターへと帰ることはできない。奴等にその場所を知られるわけにはいかないのだ。
シェルター。
少女にとっての故郷であり、家。
そこに住む大切な人たちを危険に晒すことは、できない。できるわけがなかった。
「ごめん、みんな......」
少女は逃走を止めた。
もう後戻りはできない。
溢れる涙を拭い、追跡者へと向き直る。
「かかってきなさいよ!」
本当は怖い。
今にも逃げ出したかった。
けれど、もはやその体力すらない。
震える体に反抗するように、声を張り上げる。
追跡者は全部で十体。
黒い外套を身にまとうその姿はーー昔見た書物にあった死神に酷似している。
彼らはロボットだ。
かつて私たち人間が作り出し、反映させた過ちの権化。この終わってしまった世界で、私たち人間とロボットは敵対関係にある。
大きな戦争の後。
世界は荒廃し、大抵の生物は絶滅した。
人類もその数を大きく減らし、世界に蔓延している放射能や有害な物質から身を守るためにシェルターでの生活を余儀なくされた。更にロボットたちによる人間狩りによって、人類はその絶対数を確実に減らし続けている。
ここで捕まれば、殺されるか実験材料として使われるか、最悪の場合は彼らの生体部品として死んだ後も再利用されることになるだろう。
そんなのはーー嫌だ。
少女は懐から爆弾を取り出す。
もしもの時のためにと、ずっと持っていたものだ。使うことなどなければいいと思っていたが、人生とはなかなかどうして上手くいかないらしい。
「ごめんね、カイ」
最愛の弟。
彼を置いて逝ってしまうことだけが、心残りだ。最期まで不甲斐ない姉でごめんなさい。
どうかーー元気で。
「さよなら」
廃墟の街の一角。
響き渡る爆音と共に、一人の少女はその命を儚く散らした。
時を同じくして。
シェルター内の、とある一室。
ふと目が覚めた。
何か、とても嫌な夢を見ていた気がする。
妙な胸騒ぎがして真っ先に心配したのは、たった一人の家族である姉のことだ。
「姉さん、大丈夫かな......」
少年は、姉の帰還を祈る。
天窓から射す僅かな月光が、そんな彼のことを静かに照らしていた。
SF映画の一幕をイメージしました。
細かい説明はだいぶ省いているので、想像で補完して頂けると幸いです。