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5◆終息

 

 

 

 バステトたちも状況を飲み込めず、唖然としていた。

 気づくと、そこには黒焦げの死体が転がっていて、続いて敵が撤退して行くのだ。

 ルシュルは、負傷者の存在を思い出し、安全な場所に移動させる。そこに、バステトの少年に抱かれたブチがやってきた。

 ブチは少年の腕から跳び降り、かわいい顔が台無しだな、とルシュルの顔にできた傷を舐めた。

「バステトは女も戦士なんだ。だから平気だよ」

 ルシュルは誇らしげな顔を返した。そして、目尻に涙を溜めて微笑んだ。

「アルガイオス様……ありがとう」

 それに倣ったかのように、他のバステトたちがブチに謝意を述べ始める。

「アルガイオス様のお陰で命拾いしたぜ」

「アルガイオス様、超カッコ良かったんだよ! 体から、こうぶわー!って光が出て、ドーン!ってっ」

「アルガイオス様は英雄だな」

「英雄?」

「勇者様ってことだよ」

「勇者!? アルガイオス様、すっごーい!」

 少年がはしゃぎ、大人がブチを称えた。

「それにしても、何だって犬っころは戦を仕掛けてきたんだ?」

 バステトの男がぼやいた。

「さぁな。俺らの食料でも狙ってたんじゃないか?」

「なんて浅ましい奴らだ!」


 ◆


 避難場所をつくり、怪我人の治療が一通り終わった夕方。ブチは、バステトたちに家に帰ると告げた。

「ほんとに帰るの?」

 仲良くなったルシュルが、寂しげに眉を下げた。

 ここは旨い飯をたらふく食べられ、バステトたちは自分を敬い、大事にしてくれる。だが、危険の多い場所でもある。

 連日の戦闘で少し気が滅入ったブチは、安全な人間の家が恋しくなった。

「ずっと村にいてよ」

 懇願するルシュルにブチは、また遊びに来ると答えた。

「じゃあ、道案内させて!」

 そうして、ルシュルに抱られながら、ブチは例のクスノキに向かった。

 クスノキの前に立つと、ブチは首をかしげた。

 表皮がいろんな植物にまみれた、太く大きなクスノキ。木の根っこにはちゃんと穴がある。 この木の下を潜ったのは間違いないはずなのだが、向こう側にあるはずの境内の拝殿がなく、森が続いていた。

 万一に場所を間違えた可能性を考え、ブチはルシュルに訊いてみた。

「え、この穴から来たの? 建物……そんなの見たことないよ。ここら一帯は森のはず……」

 分からないことは深く考えないブチは、来たときと同じ順路を取ることにする。

「……アルガイオス様は本当に不思議なヒトだね」

 根っこの穴を覗くブチに、細い声が届く。

 振り返ると、寂しげな顔をしたルシュルがいた。夕焼けを背後にしたその姿は憂いを帯びて、ブチの胸を締め付けた。

「また逢える、よね?」

 多分、な。そうとしか言えないブチは、自分の小さな体を悔やんだ。もっと大きければ、彼女の今にも泣きそうな大きな瞳を舐めて慰めてやるのに、と。

 そんな心内を隠し、ブチはルシュルに短い別れの挨拶をして、真っ暗な穴の中を潜った。


 潜り抜けると明るい青空が拡がり(・・・・・・・・・)、明度差にブチは目を細める。

 目の前には来た時と同じ境内で、あの二匹の猫がブチを見て驚いた顔をしたいた。

 前と違い、境内には人間の子供もいた。女の子が三人集まり、ゴム紐を挟んでは飛び跳ねている。

 どこからか、食べ物の匂いが漂ってきた。

「ご飯よー」

 遠くから女の声がして、ゴム跳びをしていた女の子の一人が「はーい」と返事をした。

 のんびりとゆったりとした空気。平和な様子に、ブチは知らず知らずに固まっていた体と精神がほぐれていくのを感じた。

 ああ、夕飯をあちらで食べてこれば良かった、とブチは惜しむ。

 この旨そうな匂いは自分の物にならない。家に帰れば、用意されるのは風味の欠片もない小粒の固形物。たまに、人間の残り物が少しのみ。

 思い出して、ブチは旨い物を思うように食べられたバステトの村が早くも恋しくなった。

 しかし、魔物やら敵対勢力に囲まれ、心身ともに疲弊したバステトたちの側にいるのは暫く勘弁したい。落ち着いたらまた行ってみよう。

 そう決めて、ブチは慣れない町をうろちょろしながらも家を見つける。

 玄関の扉に猫用の出入り口があり、それを潜ると、ブチは手馴れた様子で玄関の端に置かれていた濡れたタオルで足裏を拭って家の中に入った。

 見慣れた家具と新しい家具が混じり、大量にあったダンボールはほとんど消えていた。

「あ、ブチ! お母さーん、ブチが帰ってきたー!」

 幼い男の子がブチに駆け寄り、抱っこする。嫌がったブチが捩って逃げた。

 母親がやってきて、「ほらね、言ったでしょ」と微笑んでから愚痴った。

「大忙しだった片付けが終わった後に帰ってくるなんて、猫は気楽でいいわねぇ」

 ブチは、それに「みゃー」と返した。

 ここの人間は暢気でいいな、と。

 そして、新しい家の中を探索するために、のっそりと歩を進めた。


 おわり

◆あとがき◆


 お読みいただき、ありがとうございました!


◇猫獣人と犬獣人のイメージについて◇

 猫獣人と犬獣人の出てくる作品に、


   猫獣人 = 性格がよい、正直者

   犬獣人 = 悪どい、悪者


 て、のをちょくちょく見かけますが、その度に「逆でしょ!」と思ってました。

 そんな私が、自分のイメージで書いたのがこの小説です。因みにこんなイメージ。


  猫獣人 = 個人主義、自由奔放、自分本意

  犬獣人 = 連帯主義、規律を守る、正直者


 全ての子がそうだとは思いませんが、ステレオタイプはこんな感じ。

 賛同いただけなかったら、そう感じる人もいるってことで~(汗)


 しかし、あれですよね。


   猫 = 可愛い 

   犬 = 格好いい、クール


 なイメージもあるから、可愛い女の獣人をヒロインにすると猫になって、結果、「猫獣人 = 性格がよい、正直者」になっちゃうのかな~。


 可愛いは正義!

 猫のかわゆさには勝てないよね!

 と言いつつ、飼ってるのは犬な私でした(笑)

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