表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

プロローグ1 覚書始まり 師匠との対話 魔法使いの割合の話

ある晩のこと。夢の中にちいさい丸坊主の男が出てきた。面識はない。

男は自分のことを「魔法使い」と紹介し、私のことを「俺の不肖な弟子」と言った。

洗いすぎた小豆色ジャージに首巻タオルという恰好でかなり怪しい。

そういう、頭の設定がアレ系の人と関わるとロクなことにならない。

無視して下を向き、とにかく目を合わせないようにした。


カチリと音がして煙草の煙が漂ってくる。私は思わずにらみつけた。


「まぁ話しだけでもとりあえず聞いていってくれ。

ファーストコンタクトやねんから。

あのな、もし人間10人おるとしてな。魔法使いの割合って大体どのくらいやと思う?」


答える必要はなかった。大体言っていることがおかしい。男は構わず話し続ける。


「実は、10人中なんと、8人の人間が魔法のチカラを持っているのです!!

すごいやろ?すごい確率やろ。

まぁ後の2人は絶対に魔法使いにはなれへん、俗に言う天才っていう人たち。

特別な運動神経や鋭い感覚、並はずれた記憶力や集中力を持っている人たちのこと。

特別な能力持ってるから、魔法なんて必要ないということやねんけどな。

知らんかったやろ?人間ってそんな生き物やねん。」


やっぱりこの人アレな人だ。それともなんか別の宗教の人?

そういう人がなぜ私の夢の中に出てくるのだろう。

今日はそういう不思議な人に会った記憶はない。私の疑念に構わず男は私の頭上から話し続ける。

タバコのスモーキーバニラの香りが私にまとわりついてくる。


「まぁ聞いてくれや。で、な。残り8人のうちの3人は、

俺らが棲む世界でない世界が見える人たちのこと。

世間にいる霊能力者とか言う人たちの中にそういう人が多い。

まぁ偽物もかなり多くて胡散臭いねんけど、本物が言っていることは一つだけ。

じっと話聞いていたらおのずと見分けがつくものや。

俺らは100年足らずしかこの世界にしかいられへんけど、最後はみんなが戻る場所や。

興味があるなら話聞いといて教えてもらっても損はないし。」


男は私の視線の先に移動するためにしゃがんできた。

私は避けようと立ち去ろうと思ったがなぜか足が動かない。

横を向いて視線を避けることしかできなかった。


「そう嫌わんといて。信じられへんやろうけど、基本の話やから。

で、今の霊能力者と天才の話で5人やん?この5人のうち4人が!

すごい魔法をもってるねん。4人もやで。何やと思う?」


うっとおしい。

目をつぶろうとした私の目の前に、男は4本の指を突き出した。


「生きていく事自体が魔法になってしまうおトク体質な人たちなんよ。

ただ日々湧く問題に対して自分の知恵を絞って考えて、生きていく事が発動条件。

この魔法の力が一番怖いのは、この力は生き物同士をつないでいく、っちゅーところ。

この人たちが作りだすえにしの魔法はとにかく強力でなぁ。

どんな天才でもな、両手で抱えられることしかでけへんけれども、

たくさんの人間が一つの目標に向かった時のチカラっちゅーのは半端やないやろ?

結局は天才も自分と志を同じくする、おトク体質のためにチカラを使ってしまう。」


男はタバコの火を消して携帯灰皿の中に入れた。

今度はポケットからガムを取り出して噛んでいる。


「たとえば、どんな魔法を自分が持っているか自覚ない人っていうのは大抵、

この縁を作る魔法を持っている人たちや。確率的に多いし強力な魔法や。

発動する人たちってのはあまり多くないんやけどね。一旦発動すれば強力や。

強大になればなるほど、天才達が自分のために能力を精いっぱい使ってくれたりする。

天才みたいに能力を維持する努力も必要ないからローリスク。これはちょっとすごいよ。

まぁ、世の中は大抵、そういう縁の魔法を持ったやつらの作るチカラの輪が

幾重にも複雑に絡まっているもんらしいで。せやから。」


男はガムを噛みながらまた、ポケットから点火前のタバコを取り出す。

私に勧めるような動作をしたが断った。男は肩をすくめた。


「明日の朝になっても俺のことを覚えているとしたらやで。

もう少しやけにならんと日々を着実に生きてくれへんかいな。

大概の人間が生きてるだけで魔法使いや。

あぁあとひとつ、言い忘れたことがあった。あと一人の話や。」


点火前のタバコを1本、月の光に向けた。

タバコと男の坊主頭が同化して光っている気がした。


「10人中9人の説明はしたやん。あとの1人のことやねんけど。

後の1人っちゅーのはそれ以外の魔法を持つ魔法使いのことやねんで。

詳細な内訳はまた機会があったら説明するな。まぁ今日はとりあえずココまで。

翌朝君がまた俺のことを覚えていたらまた会えるやろ。

ほな、またな。俺は今日、君と話せてよかったで。

不肖の弟子やけれど俺が一旦面倒みるって決めたんや。とことん面倒みたるからな。」


男は私の顔を見てもう一度ニコりと笑って手を振って立ち上がった。

月の光が一層まぶしくなり、男の姿は消えて私は夢から覚めた。



起きて数分後に日常の一般的な「やるべきこと」の洪水に飛び込む私には、

夢の中の話なんて考える余裕はなかった。しかしその夢は忘れられずにいた。

その後も、この男は度々私の夢の中に現れて色々な話をしていくようになった。

日々の仕事で体力を使って疲れているのですぐに眠れる。

だが眠ると今度は魔法使いの弟子としての講釈が始まるのだ。

友人知人に話をしたら「疲れているんじゃない?」と心配をかけてしまいそうだし、

「お薬をもらってくれば」なんて病院受診を勧められたりすると面倒なので相談できない。

しかし色々なことを頭の中にしまいこむことにも結構疲れてきてしまった。


そこで小説を書くことを思いついた。

小説として記録するだけなら、誰にも迷惑や心配をかけることはないし、

頭にしまい込んだものを一旦整理して外に出すことで、

少しはさっぱりするかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ