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第六話 「逸視ノ星」

屋上に行く回数は、少しずつ減っていた。

 意識して減らしたわけではない。

 気付けば、そうなっていた。

 放課後になる。

 いつも通り、誰かが笑っている。

 椅子の音がして、鞄を持つ音がして、

 それぞれが帰っていく。

 その中で、

 動かない時間が、少しだけ増えた。

 立ち上がる理由が、前よりも曖昧になる。

 屋上に行く理由も、

 同じように曖昧になっていた。

 あの日から、

 雨宮は、あまり来なくなった。

 最初のうちは、気にしていなかった。

 来ない日もある。

 それだけのことだった。

 でも、

 続くと、

 少しだけ、引っかかる。

 理由は分からなかった。

 ある日、

 階段の前で、足が止まる。

 上に行くか、

 下に行くか。

 どちらでもよかった。

 少しだけ考える。

 考える必要はなかった。

 それでも、

 その日は、上に行かなかった。

 その日は、行ってはいけない気がした。

 廊下を歩く。

 音が残る。

 教室のざわめきが、

 少しだけ近く感じた。

 違和感があった。

 理由は分からない。

 そのまま、帰る。

 外に出ると、

 空はまだ明るかった。

 時間が余っている気がした。

 何をするでもなく、

 歩く。

 足は、特に目的もなく動く。

 途中で、

 ふと、

 考える。

 何か、悪かったのか。

 思い出そうとする。

 屋上でのやり取り。

 言葉。

 沈黙。

 どこかに、

 引っかかるものがあったはずだった。

 でも、

 はっきりとは分からない。

 思い出せないわけではない。

 ただ、

 それが“何か”までは、届かない。

 少しだけ、違和感が残る。

 その違和感が嫌いだった。

 ずっとどこか自分の首を絞めるような、そんな感覚を思い出すから。

 だから、

 それ以上は考えなかった。

 考えようと思う理由が、なかった。

 次の日。

 屋上に行く。

 扉を開ける。

 いない。

 風の音だけがある。

 空を見る。

 星は出ている。

 前と同じはずだった。

 それでも、

 少しだけ違って見える。

 少しだけ立って、

 すぐに降りる。

 それが何日か続く。

 行って、

 いないことを確認して、

 帰る。

 それだけの繰り返し。

 意味はなかった。

 ただ、

 やめる理由もなかった。

 ある日、

 屋上に行かなかった。

 理由はなかった。

 ただ、

 行かなかった。

 雨宮のために、屋上に行っているのか?

 そんな疑問が、脳裏によぎった。

 教室に残る。

 誰かが話している。

 その中に、

「最近、雨宮さ」

 名前が混ざる。

 少しだけ、耳に残る。

「普通に話すようになったよな」

「別に普通レベルじゃないだろ、前が酷すぎたから相対的にマシに見えてるだけじゃね」

 それだけだった。

 特に気にする必要はなかった。

 ただの会話だった。

 それでも、

 少しだけ、

 引っかかった。

 理由は分からない。

 そのまま、帰る。

 外に出る。

 空は暗くなり始めていた。

 街灯が点く。

 道を歩く。

 足は止まらない。

 頭の中に、

 さっきの言葉が残る。

 意味はない。

 はずだった。

 それでも、

 消えなかった。

 少しだけ、

 考える。

 何か、違っていたのか。

 何か、言うべきことがあったのか。

 何か、しなかったことがあったのか。

 分からない。

 分からないまま、

 歩く。

 前を見ている。

 周りも見えているはずだった。

 車の音。

 光。

 人の気配。

 全部、そこにあった。

 それでも、

 どこか、

 ずれていた。

 考え続ける。

 何が悪かったのか。

 どうすればよかったのか。

 答えは出ない。

 出そうとも思っていない。

 ただ、

 引っかかりだけが残る。

 そのまま、

 一歩、下を見たまま踏み出す。

 視界の中で白と黒が交互に現れる。

 光が、近づく。

 音が、遅れて届く。

 何かが、

 速く、

 近づいてくる。

 視界の端で、

 それを捉える。

 でも、

 はっきりとは見ない。

 見る必要がないと思った。

 考え続けていた。

 さっきのことを。

 屋上のことを。

 雨宮のことを。

 その間も、

 光は近づく。

 音が大きくなる。

 それでも、

 視線は動かない。

 考えることを、

 やめなかった。

 だから、

 気付かなかった。

 隣から、

 光を飛ばしながら向かってくる、

 トラックに。

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