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第三話 『無為ノ星』

屋上に行くこと自体に、理由はなかった。

 それでも、放課後になると足が向く。

 気付けば、そうなっていた。

 教室の中は、相変わらず少しだけ騒がしい。

 誰かが笑っている。

 誰かが立ち上がる。

 誰かが名前を呼ぶ。

 それらが全部、同じ場所にあるのに、

 どこか遠く感じる。

 だから、立ち上がる。

 理由は考えない。

 考えるほどのことでもなかった。

 廊下に出る。

 音が少しだけ減る。

 それでも、完全には消えない。

 階段に向かう。

 下に行く理由はなかった。

 上に行く理由もなかった。

 ただ、

 気付けば、上に行っている。

 一段ずつ、音が遠ざかる。

 屋上の扉の前で、少しだけ止まる。

 手をかける。

 そのまま押す。

 冷たい空気が流れ込む。

 外に出る。

 視線を向ける。

 いた。

 何度も繰り返してる。

 そのはずなのに、毎回なにかが違うような、変わったかのような、変な感覚だ。

 フェンスの近く。

 いつもの場所。

 それを確認して、

 特に何も思わない。

 思わないはずだった。

 距離を取って、立つ。

 何も言わない。

 向こうも、何も言わない。

 風の音だけがある。

 空を見る。

 星は出ている。

 昨日と同じくらい。

 それ以上でも、それ以下でもない。

 それなのに、

 なぜか、ここに来ている。

 理由は分からない。

「……また来た」

 声がした。

 少しだけ間を置いて、そちらを見る。

 雨宮がこっちを見ていた。

「別にいいだろ」

 それだけ返す。

「毎日?」

「別に」

 曖昧な返事だった。

「意味わかんない」

 小さく言う。

 それ以上は何も続かない。

 また沈黙が落ちる。

 風の音だけがある。

 しばらくして、

 視線を感じる。

 そちらを見る。

 目が合う。

 すぐに逸らされる。

 それだけだった。

 また空を見る。

 星は変わらない。

 時間が過ぎる。

 何も起きない。

 それでも、

 帰る気にはならなかった。

 理由は分からない。

「……東雲」

 名前を呼ばれる。

 少しだけ間が空く。

「何」

「なんで来るの」

 昨日も聞かれた気がした。

「別に」

 同じように答える。

「……そればっか」

 少しだけ、呆れたような声だった。

「他に理由ない」

 事実だった。

 それ以上は何もない。

 沈黙が続く。

 風が少し強くなる。

「……じゃあさ」

 珍しく、向こうから言葉が続く。

 雨宮からなにかを求められていると考えると、ちょっと嬉しくなった。

「何」

「来なくてもいいじゃん」

 少しだけ、引っかかる言い方だった。

「来てもいいだろ」

「別にいいけど」

 否定ではない。

 でも、

 肯定でもなかった。

 それ以上は何も言わない。

 また沈黙が落ちる。

 空を見る。

 星は出ている。

 変わらないはずだった。

 それなのに、

 さっきから、少しだけ気になる。

 視線。

 気配。

 隣に誰かがいること。

 全部、どうでもいいはずなのに、

 無視できない。

「……東雲」

 もう一度、呼ばれる。

 自分の名前は呼ばれたくないとか言うくせに、変な奴だ。

「何」

「暇なの」

 少しだけ考える。

「別に」

 また同じ答えだった。

「……嘘」

 小さく言う。

「何が」

「暇だから来てる」

「違う」

 否定する。

 でも、

 理由は出てこなかった。

 沈黙。

 風の音。

 しばらくして、

 雨宮が少しだけ動く。

 フェンスから離れて、

 数歩だけこちらに近づく。

 距離はまだある。

 でも、

 昨日より近い。

「……何」

「別に」

 それで終わる。

 意味のない動きだった。

 意味のない距離の変化だった。

 それでも、

 さっきまでとは、少し違っていた。

 また沈黙が続く。

 何も起きない。

 それでも、

 時間だけは過ぎていく。

 どれくらい経ったのかは分からない。

 気付けば、

 少しだけ暗くなっていた。

「……帰る」

 雨宮が言う。

「そうか」

 それだけ返す。

 歩き出す。

 すれ違う。

 そのとき、

 ほんの少しだけ、

 視線が重なった気がした。

 気のせいかもしれない。

 何も言わない。

 そのまま通り過ぎる。

 扉が開いて、閉まる。

 静かになる。

 空を見る。

 星は出ている。

 さっきと、何も変わらないはずだった。

 それでも、

 なぜか、

 少しだけ、違って見えた。

 理由は分からない。

 考える必要もなかった。

 ただ、

 ここに来ることが、

 少しだけ当たり前になっていた。

 それだけだった。

 意味はない。

 はずだった。

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