第二章 かつては英雄だった人
邸の扉が開く。
扉の向こうはテニスコート2つほどの広さがあるエントランスが広がっていた。
屈強な戦士にはエントランスの待合場所に座らせ待ってもらう。
「マルコは何処にいるのかしら?」
「旦那様は中庭で花に水を上げております。お呼び致しますか?」
「いいわ。私が向かうわ。貴女はそちらの方に『誓約書』とお飲み物でも出してあげて」
「畏まりました」
マルコへの謁見を望む者には誓約書を書いて貰う。
セラフィンの魔力が籠った誓約書。
誓いを破ると灰となってしまう誓約書であった。
セラフィンは侍女に屈強な戦士を任せるとエントランスの奥へと向かった。
扉を開けると横に続く廊下の向こうに花々や木々が咲き乱れた中庭が広がっていた。
セラフィンが中庭の外周を少し歩くと花々の隙間から麦わら帽子がヒョコヒョコと動いているのに気付いた、
「あなた、謁見をしたいという方をお連れしました」
「んー!?またかい?すぐ行くから向こうで待てて」
「私も一緒に向かいますのでお待ち致します」
「んー!?ここは日差しが強いから君の肌が心配だよ」
「大丈夫です。いざとなれば治癒魔法で治せますので」
「んー!?そうかい?それじゃ直ぐ終わりにするから一緒に行こう」
「はい」
マルコ伯爵は切りの良い所で中庭の手入れを止めセラフィンと共にエントランスへと向かう。
「あなた、お庭の手入れでしたら私の『生命の転換』で簡単に出来ます。それに庭師の者もおりますので彼らに任せてあなたは無理しないで下さい」
「んー!?セラフィンの『生命の転換』は犠牲となるものが必要だろ。犠牲となったものが可哀そうだからね。それにこの中庭は僕と君との大切な場所だから少しでも僕の手で奇麗にしていきたいんだ」
マルコの言葉にセラフィンは顔を赤く染める。
この中庭はマルコがセラフィンに愛を告げた場所。
二人の思い出の場所であった。
時が半時ほど経っただろうか。
屈強な戦士はこれ以上失礼な事を行うまいと姿勢正しく待っていた。
その間に毛が三本ほど抜けていたが屈強な戦士は気付いていない。
「お待たせしましたわね」
セラフィンの呼び掛けに屈強な戦士は即座に経ち声がする方に一例をする。
「私は2つほど国を跨ったオーウッド国の山奥より勇者マルコ様に憧れ旅をしております。この度はお会い出来て・・・」
屈強な戦士は挨拶の途中で言葉を失う。
屈強な戦士は自身の目を疑ってしまったからだ。
未だに美しき大聖女セラフィンの隣には何かがいる。
もしその何かを例えるとすれば・・・丸だ。
そう丸いものが大聖女の隣にいた。
「えーとその隣にいるものは・・・」
「旦那様です!」
「代理の者ではなくて・・・」
「旦那様です!!」
「マルコ殿が飼われている聖獣ではなくて・・・」
「旦那様です!!!」
「幻覚ではなくて・・・」
「旦・那・様・で・す!!!!」
銅像と明らかに違う姿。
なんというか銅像の人物が中に隠れているのではと疑ってしまう姿に屈強な戦士は戸惑っている。
「んー!?僕に会いたいと言うのは君かい?」
「えっ、・・・あっ、・・・その・・・そのなのですが・・・」
屈強な戦士は田舎で『英雄伝説』を見ながら勇者に憧れてた。
しかし、今の屈強な戦士の脳内は真っ白に塗り潰されていた。
憧れの勇者に対する想いと共に塗り潰されてしまった。
屈強な戦士は目の前に憧れの人物のなれの果てに会いたいという感情がどこかに消えてしまっていたのだ。
「んー!?どうする?握手するかい?それともサインしようか?」
「あっ・・・いえ・・・あの・・・大丈夫です・・・」
屈強な戦士の荷物には英雄伝説の本があった。
もし出会えたら握手をして欲しい。
願えくば自身が持つ本にサインをして欲しい。
しかし、屈強な戦士の願望は奇麗に消え去っていった。
今や何故ここにいるのかも解らない。
「あの・・・私は・・・そろそろ・・・旅の続きを・・・」
「んー!?そうかい?何も出来なくて申し訳ないね」
「あっ・・・いえ・・・それでは・・・失礼しました・・・」
屈強な戦士は足早に頭を下げ邸を後にした。
邸を出る際、屈強な戦士は思わずため息を一つついてしまっていた。
「んー!?何もせずに帰っていったねー」
「はい」
「んー!?帰り際にため息をついていたねー」
「はい」
「んー!?彼は何しに来たんだろうねー」
「はい」
これはいつもの事。
彼等に会いたくて来られた冒険者はセラフィンに見惚れてため息をついたあと、マルコの変わり果てた姿に幻滅してため息を吐いて帰っていく。
マルコは冒険者にしか会おうとしない。
観光客は断っていた。
収入源が減るため。
帰って行った屈強な戦士には待たせている間に誓約書を書かせていた。
『当邸で見聞きした事を他言した場合、天罰を喰らわす』
誓約書のお陰で冒険者によって観光客が減る事はなかった。
観光客は知らない。
かつては英雄だった人の今の姿を。
都市の中央にある銅像の姿をみて人々は妄想してしまう。
今も変わらぬ姿で市井に出歩く姿を見て人々は勇者の姿を更に妄想してしまっていた。
これがセラフィンが市井を出歩く四つ目の理由であった。
あれほどマルコに会いたいと言っていた者がいなくなりエントランスには二人だけの空間ができた。
「んー!?そういえば彼の名前を聞いてなかったよねー」
「はい、必要ない事なので気になさらずとも大丈夫です」
「んー!?彼は君の事をかなり怒らせてしまったようだけど無体な事はしてないよね?」
「はい、彼はこのあと戦士から僧侶へと転職されるはずです」
「んー!?折角だから二人で紅茶でもしようか」
「はい!!誰か紅茶の準備を!私はダージリンで旦那様にはミルクティお砂糖山盛で!それとお茶菓子はチーズケーキがありましたからそれをホールで持ってきて下さい!」
二人は再び中庭へと向かう。
セラフィンはマルコの腕と思わしきものに抱きよる。
歩幅を合わせて歩く二人。
二人は今日も仲良く共に歩く。
二人の思い出の場所である中庭のガゼボで紅茶を嗜むために。
ほのぼのして頂けましたか?
そのうち、かつての仲間や彼女が勇者が好きな理由なども書いていきたいと思います。




