第一章 大聖女 VS 屈強な戦士
「奥様」
「どうしたの?」
「それが勇者マルコ様に会いたいと言われる方がおりまして・・・」
奥様と言われる女性は勇者マルコの妻であった。
今は自領の市井調査を兼ねながら買い物を楽しんでいた。
その楽しみを邪魔されて女性は眉間を一瞬ピクつかせた。
眉間をピクつかせた理由はそれだけではない。
『勇者マルコに会いたい』
この言葉を幾度聞いたか解らない。
そしていつも答えは同じであった。
「またなの?」
「はい」
「はぁ~仕方がないわね、お店の方に申し訳ないから私の方から向かうわ」
侍女に連れられ店の外に出ると一人の屈強な戦士が立っていた。
どこか初めて出会いし頃のゴードンに少し似ていた。
屈強な戦士は彼女が店から出て来るや跪き頭を垂れた。
通りを歩く者達がこちらを見る。
私の姿を見てまたかと笑みを浮かべる。
本当に止めて欲しい。
「おお!そのお姿は『大聖女セラフィン』様。銅像と変わらぬお姿をお見えする事が出来るとはなんと幸せな事か。私は2つほど国を跨ったオーウッド国の山奥より『英雄伝説』に憧れ己を鍛える旅をしております。つきましては、魔王を討伐致しました勇者様と大聖女様に一目お会いしたくお伺い致しました」
大聖女セラフィン。
そう。彼女の名はセラフィン。
魔王討伐メンバーの一人で、魔王討伐後は勇者マルコと結婚し一緒にこの都市を治めている。
人々は勇者マルコ、大聖女セラフィンに会いたくこの都市に訪れる。
大聖女セラフィンに会う人々はその美しき姿に見ほれ溜息を一つついて帰る。
そして勇者マルコに会うと人々はその姿に再び溜息を一つついて帰られる。
英雄伝説とは、勇者マルコの冒険譚をまとめた本で学校の授業にも使われ世界で一番売れた本として世界記録とされ『世界一記念館』に飾られている。
セラフィンは屈強な戦士に注意をする。
道の真ん中で堂々と跪かれては通りを通う者達の邪魔でしかなかった。
屈強な戦士は慌てて立ち通りを歩く者達の邪魔とならないよう隅に寄った。
「もう私は大聖女ではありませんので大聖女と呼ばれるのは止めて下さい。今はここマルコシティを治めますマルコ伯爵の妻、マルコ伯爵夫人と呼ばれております」
「も、申し訳ございません」
「それで何故こちらに?夫に会いたいのでしたら銅像を真北に向かえば邸があります。そちらに向かわれては?」
本当に迷惑で仕方がない。
セラフィンの趣味は市井調査する事であった。
その趣味をこういった輩に度々邪魔される。
昔、一度だけ余りの怒りに『聖なる鉄槌』を喰らわせ危うく冒険者を殺しかけてしまった。
※一般人なら確実死んでいた。
その後、愛するマルコに怒られた事によりセラフィンは『聖なる鉄槌』を封印した。
しかし怒りを溜め込むのは美容に悪い。
よってセラフィンの怒りの矛先は違う方向で解消されていた。
『生命の転換』
この魔法は果実などの生命力を対象者の生命力に転換する魔法。
しかし、彼女が転換させたのは果実ではなく訪問者の髪の毛であった。
訪問者の髪の毛の生命力を対象者の生命力に転換。
※ほんの少しだけセラフィンの生命力にも転換。
バレない程度に。
日に日に抜ける髪の毛の量が数倍になる程度に。
だが、訪問者達は皆セラフィンに感謝の言葉を述べ崇拝していた。
セラフィンに出会うと健康になっていったからだ。
その犠牲に髪の毛が抜けていくとは気付かずに。
セラフィンは屈強な戦士にも『生命の転換』の魔法を唱えた。
仄かな光に包まれる屈強な戦士。
屈強な戦士は旅で疲れた体が回復していくのが解りセラフィンに感謝の言葉を述べた。
数年後には全ての髪の毛がなくなるとは知らずに。
「大聖・・・マルコ伯爵夫人ありがとうございます。銅像を拝んでいたところ街の方に大聖・・・マルコ伯爵夫人がこちらのお店に入られたと伺い邸ではなくこちらに向かってしまいました。いやこちらに来て大正解です。20年も経ちますのに銅像と殆ど変わらぬ大聖・・・マルコ伯爵夫人のお姿を拝めるなんて私はなんて幸運なんだ!」
セラフィンは常に笑顔でいた。
聖女時代に協会からそう教育されていたから。
しかしセラフィンの心は笑顔とはかけ離れていた。
※※※心の声※※※
何回、大聖女と言い間違えようとしているのよこの筋肉ダルマ
街にいるって聞いて来ているんじゃないわよ!ちゃんと邸でアポとれ!
幸運!?私は貴方のせいで不幸だわ!
20年も経ち?女性に時の流れを語ってんじゃないわよ!
※※※※※※※※※
しかし、終始笑みでいるセラフィンの心の声を知るものは誰もいない。
屈強な戦士も更なる怒りをかってしまった事に気付かなかった。
そしてセラフィンは再び魔法を唱える。
『生命の転換』
「これは?」
「ここまで来るのに大変だったでしょう。貴方のご健康をお祈り致しました」
更なる怒りをかった屈強な戦士の代償は『夜伽の生命力』。
今後、彼は子孫を残していくのが困難となる。
しかし屈強な戦士はその事に気付かず再びセラフィンに感謝の言葉を述べた。
「それでは、これから邸に戻りますので案内致しましょう」
「本当ですか!感謝致します!」
セラフィンは歩きながら邸に戻る。
ここから邸までは3kmほどあり決して近くはない。
しかしセラフィンは徒歩で移動するには理由があった。
理由① 健康面
理由② 市井を巡回するには徒歩の方が都合が良いから
理由③ 観光客のため
理由④ 夫マルコのため
理由③は簡単に説明すれば某ⅮランドのⅯマウスみたいなもの。
セラフィンが市井を歩く事で観光客が大聖女に会えるという事で集まって来た。
この都市の収入源であるためセラフィンは些細な嫌がらせだけで我慢する事にした。
理由④については後程語る事になる。
銅像前に着く。
ここまで来ると邸まであと僅かであった。
「いや、マルコ夫人は銅像のお姿と殆ど変わらぬ美しさに驚きました。全く40・・・」
ドゴッ!!
激しい音と共に屈強な戦士が持つ盾が折れ曲がってしまった。
屈強な戦士は言ってはいけない事を言ってしまった。
物凄い異音により周囲の者が屈強な戦士とセラフィンを見るが、明らかに屈強な戦士に冷ややかな視線を浴びせていた。
この都市の住民はマルコとセラフィンを崇拝している。
この状況を見た彼らは屈強な戦士がセラフィンに失礼な事をしたと思われていた。
「あら、女性に年齢の事をいいますのはマナー違反ですわ」
屈強な戦士はセラフィンに土下座をして謝る。
そして彼は漸く理解したことだろう。
大聖女セラフィンの恐ろしさを
あの誰もが成し遂げる事が出来なかった魔王を倒す勇者メンバー達のそれぞれの力がどれだけ恐ろしいものかを
魔王討伐出来たのは勇者一人の力だけではない。
メンバー全員が化け物のように強かったのだ、
「いきますか?」
「は、はい、申し訳ございませんでした。今後は注意したいと思いますので是非邸にお願い致します」
「そうですか・・・それでは邸に向かいましょうか」
再びセラフィンは歩み出す。
屈強な戦士は許して頂いたと思いセラフィンの後に着いていった。
しかし屈強な戦士は気付いていない。
セラフィンの『いきますか?』は『行きますか?』ではなく、『生きますか?』と『逝きますか?』の二択であった事を。
屈強な戦士は返答次第ではこの世界から離脱する事となっていた事に気付きもせずセラフィンの後に着いていった。




