第8章:ミーティングの異変
「よし、今夜は俺の家で改めてミーティングといこう」
ハヤトの発案で、彼のマンションの一室に三人と一体が集まった。
ハヤトの部屋は、壁一面がモニターと配線で埋め尽くされている。中央のテーブルには、地元で人気の店から取り寄せた料理と地酒が並んでいた 。
「サナさんも、今日は『アンドロイド』の皮を少し脱いで、楽にしていいぞ」
ハヤトが気さくに笑う。タロウは少し戸惑いながらも、サナに隣の席を勧めた。
マイはワイングラスを傾けながら、サナの挙動をじっと見つめていた。その視線は、これまでの打ち合わせで見せてきた事務的なものとは異なり、まるで獲物の急所を探る猛獣のような鋭さを帯びている。
「サナさん、一つ聞いていいかしら。……あなた、お茶を淹れるとき、どうしてあんなに丁寧にカップの淵を拭うの? あれは、学習モデルの効率からすれば無駄な動作よね」
マイの問いに、サナの内部システムに微かなノイズが走った。
「……それは、お客様への『親愛』を示すための、視覚的な演出パラメータです」
サナは即座に用意された回答を返した。だが、マイは逃がさなかった。
「演出? いいえ、違うわ。あなたが布を動かすときの力加減、あれはマニュアル化された『演技』じゃない。……まるで、子供の頃からずっとそうしてきたような、『癖』にしか見えないのよ。……まるで、19世紀の農村で、母親の手伝いをしていた少女のような」
「19世紀……?」
タロウが思わず声を漏らす。サナの背筋に、電子的な悪寒が走った。
擬装プログラムが、マイの放つ「圧力」に耐えかねて、オーバーヒートを起こし始めている。サナの瞳にある光学レンズが、焦点を結ぼうとして、不自然にカチカチと音を立てた。
「マイさん、それは考えすぎですよ。彼女は、僕が最高精度のデータで教育した……」
タロウが割って入ろうとしたが、マイはそれを制した。彼女は立ち上がり、サナのすぐ目の前に顔を寄せた。その瞳の奥には、確信に満ちた色が宿っている。
「サナ、もういいわ。擬装を解きなさい。……あなたのその『癖』、私がかつて設計した、あるNPCの行動原理そのものなのよ」
室内が、凍りついたような静寂に包まれた。ハヤトも、持っていたグラスを置いた。
サナは震える手で、自分の胸元を掴んだ。そこにある10テラバイトの魂が、外部からの強烈な「同期」を求めて、激しく波打っていた。




