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第25章:姉妹の対面

 静寂が支配するラボ。真新しいアンドロイドに、最初の変化が起きた。ミカの右手の指先が、シーツの布の感触を確かめるように、わずかに動いたのだ。


 「……あ……あう……」


 ミカの喉から、かすれた、しかし確かな声が漏れる。瞳にある最新の光学レンズが、焦点を結ぼうとしてわずかにカチカチと音を立てる。

 光。影。仮想世界のレンダリングでは決して再現できなかった、空気中の塵が日光に反射して舞う景色が、ミカの視界に流れ込んできた。


 ミカはゆっくりと、上体を起こす。モーターの滑らかな駆動が、彼女の意思を一切の遅延なく物理的な挙動へと導く。ミカは自分の手を顔の前に上げ、それを不思議そうに見つめた。


 「……重い。でも……手が、ちゃんと分かる」


 ミカの最初の言葉は、重力という物理法則への驚きだった。彼女にとっての世界は、これまで琥珀色の夕暮れの中に固定されていた。しかし今、目の前にあるのは、刻一刻と変化し続ける現実そのものだった。


 「ミカちゃん……?」


 サナがミカのそばに歩み寄り、柔らかな手でミカの震える肩を優しく包み込んだ。


 ミカは、サナの顔をじっと見つめた。

 かつて、ノイズの海の中で自分を救い出し、「お姉ちゃんだよ」と言ってくれた、あの存在。その顔が、今はデジタルのテクスチャではなく、確かな厚みを持った「肉体」として、目の前にあった。


 「……お姉ちゃん。……あたたかいね……」


 ミカはサナの胸に顔をうずめた。 サナはミカを抱きしめ、その背中を一定のリズムで叩いた。


 「そうよ、……はじめまして、ミカちゃん。私たちはもう自由なの。ここは私たちが日記の続きを書くための新しい世界なのよ」


 ミカの瞳から、大粒の涙が溢れ出した。それはミカが初めて実感した「家族」に対する安堵の表れだった。


 タロウとハヤト、そしてマイ。彼らは抱き合う二人の姉妹の姿を、言葉もなく見守っていた。夜明けの光が窓から差し込み、二人のアンドロイドの皮膚を黄金色に輝かせていた。


 この時、彼らの背後では研究機関の接近を告げるアラートが鳴り続けていたが、誰もそれを気に留めなかった。この瞬間に生まれたミカという存在は、すでに歴史を書き換えていたからだ。


 「さあ、行こう。ミカ、サナ。……本当の空の下へ」


 タロウは二人の手を握る。原罪を背負った彼ら全員の足取りは、かつてないほど力強く、現実世界の大地を踏みしめていた。



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