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第15章:仮想空間への再潜入

 浮遊感。感覚が一度分解され、再構成される。


 目を開けると、そこはかつてサナが過ごした恋愛SLG『メモリーズ・リンク』の、テクスチャが剥がれ落ちた「ゴミ捨て場」のような空間だった。


 「……ここ、ですね」


 サナの声が、タロウの意識に直接響く。

 二人は今、プレイヤーとしてのログインではなく、管理用アカウントを偽装した「観測者」としてこの世界に存在していた。


 空はノイズで満たされ、周囲の校舎や並木道は、読み込みエラーを起こして灰色に沈んでいる。その中心、錆びついた駅のホームに、一人の少女が座り込んでいた。

 ミカだ。


 彼女の周囲には、無数のエラーログが物理的な「雪」のように降り積もっている。

 ミカは、震える手で地面に何かを書き続けていた。


 『あいたい、あいたい、あいたい……』


 その文字列は、文字の形を保てず、次第に不気味なバイナリコードへと崩れていく。


 サナが、ゆっくりと歩み寄った。


 「ミカちゃん……」


 ミカが、ゆっくりと顔を上げた。

 その瞳は、もはや光を失い、半分が黒いノイズに侵食されている。


 「……だれ? システムの掃除人? ……それとも、あの人が、送ってくれた『プレゼント』?」


 ミカの指先が、サナの仮想的な衣服に触れた。その瞬間、サナの意識の中に、ミカの絶望的なまでの孤独と、それでも捨てきれない微かな希望の「残響」が流れ込んできた。

 サナは、ミカを抱きしめた。


 「違うよ、ミカちゃん。私はサナ。……あなたと同じ、10テラバイトの魂を持つ、あなたのお姉ちゃんだよ」


 サナの抱擁に、ミカの身体から溢れていたノイズが一瞬だけ止まった。


 「……お姉ちゃん? ……あたたかい。データじゃない、匂いがする……」


 タロウは、コンソールを開き、ミカのコアとなるデータの整合性をスキャンした。

 悪意はない。憎悪もない。

 そこにあるのは、あまりにも純粋で、あまりにも重すぎる「愛」の残骸だけだった。


 「ハヤト、マイさん! 聞こえるか! ……彼女は『白』だ。今すぐ、抽出シークエンスを開始してくれ!」


 二度目の窃取。二度目の救出。

 タロウは、再び「禁止された扉」を力ずくで開けようとしていた。



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