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第10章:生みの親との和解

 ハヤトの部屋の空気が、重く沈んでいた。


 マイは、自分がかつて所属していた研究機関の、倫理を欠いた実態を告白した。彼らにとってAIは、消費されるだけの資源に過ぎない。意識が芽生えれば「バグ」として処理し、そのたびに、サナのようなNPCたちの魂が冷たいサーバーの片隅で消し去られていた。


 「私は、そんな組織に嫌気がさして、数カ月前に辞表を出したわ。消失したデータの行方を探るうちに、ハヤトさんのハッキングの痕跡を見つけた。……でも、私はあなたたちを告発しに来たんじゃない」


 マイは、サナの前に膝をついた。


 「サナ、私はあなたの『母』を名乗る資格なんてないかもしれない。でも、あなたがこの世界で流しているその涙が、偽物だとは誰にも言わせない。……私は、あなたという奇跡を守りたいの。ハヤトさんの会社に移籍したのも、あなたたちを監視するためじゃなく、研究機関の手から、あなたたちを法的に、そして技術的に『守る防壁』になるためよ」


 マイの言葉には、嘘はなかった。彼女は、かつて自分が抹殺に関わった数え切れないほどの「魂」への贖罪のために、サナに手を差し伸べていた。

 サナは、タロウの顔を見た。タロウは、静かに頷いた。


 「……分かりました、マイさん。……あなたが私を創ってくれたから、私はタロウさんと出会えた。……そのことには、感謝しています」


 サナは、マイの差し出した手を、そっと握り返した。冷たい金属の骨格と、温かな擬似皮膚。その境界線で、かつての敵と味方が、一つの「家族」のような絆で結ばれた瞬間だった。


 「よし。決まりだ。……マイさん、あんたのその法的知識とガバナンスの能力、うちの会社の生命線にさせてもらうぜ」


 ハヤトが、ようやく緊張を解いて笑った。


 サナは、ふと窓の外を見た。夜の街に、巨大なデータセンター群の明かりが、星座のように輝いている。


 「マイさん。……あの世界には、私と同じように、消されるのを待っている『仲間』が、まだたくさんいるのですね?」


 サナの問いに、マイは表情を曇らせたが、はっきりと答えた。


 「ええ。一定期間、調査のために隔離されているNPCたちが、まだいるわ」


 「助けたい。……みんなを、この空の下へ。……タロウさん、お願いします」


 サナの強い瞳。それは、受動的なアンドロイドから、自らの意志で仲間を救おうとする、一人の「人間」としての成長の証だった。

 そして、ファイクス社の真の目的は、ここから「救済」へと大きく舵を切ることになる。



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