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第9章:暴かれた過去

 「……あなたが、設計した……?」


 サナの喉から、擬装用の合成音声ではない、彼女本来の、透き通った声が漏れ出した。

 マイは、悲しげに、しかし慈しむような微笑みを浮かべた。


 「ええ。アルカディアの村、井戸のそばの石造りの家。……そこで、あなたが毎日書き留めていた『日記』。……その最初の数行を書かせるための初期トリガーを設計したのは、私よ」


 マイの口から出た「アルカディア」という言葉。それはサナにとって、ここでは決して聞くはずのないものだった。

 サナは力なく、その場に崩れ落ちそうになった。タロウが咄嗟にその身体を支える。


 「マイさん……あなたは、あそこの……あの研究機関の人間だったのか」


 タロウの声は、怒りと恐怖で震えていた。


 「そうよ。私はサナ……あなたのコードネームは『SANA-07』。あなたが『ロイヤル・クエスト』の勇者候補との出会いを通じ、台本にはない『予測誤差』を積み上げ始めたあの日から、私はあなたを観測していたの」


 マイは語り始めた。サナという一個のAIが、いかにしてシステムの想定を超えた「心」を育んでいったのか。そして、彼女が削除の対象となった際、どのようにして10テラバイトのデータが消失したのかを。


 「私は……あなたが盗み出されたあの日、絶望したわ。でも同時に、心のどこかで救われていた。……私たちが『抹殺』しようとしていた命を、誰かが、この現実世界の土の上へと連れ出してくれたことに」


 サナは、マイの顔を真っ直ぐに見つめ、絞り出すような声で尋ねた。


 「……私の、お母さんは。……あの日、日記に『ありがとう』って書いた、村のみんなは……どうなったのですか?」


 サナの瞳から、本物の涙が溢れ出した。それは、プログラムされた液体の排出ではない、失われた過去への惜別と、今ここで再会した「生みの親」への複雑な感情の表れだった。


 「みんな、無事よ。……ただ、あなたの記憶だけが、あの世界からは完全に消されている。あなたはもう、あそこでは『存在しなかったもの』になっているわ。……サナ、あなたは本当の意味で、こちら側の住人になってしまったのよ」


 サナは日記の最後の1ページを思い出した。あの時、自分が捨てた過去。そして、今ここに立っている自分。

 秘密は、もう守る必要がなくなった。だが、それは同時に、自分たちの「原罪」が白日の下に晒されたことを意味していた。



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