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世界の終わりの見聞録  作者: ながな
妖精の世界
3/3

あおハル

「だって、蒼羽ちゃんがかわいかったんだもん。寝言で『はるかお姉ちゃん……』とか言ってたし。不可抗力だよ。そうだよ!私は悪くないと思うなー!」


 事情聴取を行ったところ、蒼羽ちゃんは昨夜からずっと抱きつかれていたらしい。よく無事でいたものだ。……無事?ともあれ、正直春花ちゃんのことは、玲乃ちゃんに次いで信用していたが、私に人を見る目は無かったらしい。


「れのもね?蒼羽ちゃんがかわいいのはわかるよ?でも7時間も抱きつくのはやりすぎだと思うの。しかもあんな馬鹿力で。蒼羽ちゃん、全てを諦めたサカバンバスピスみたいな顔になってたよ?」

「もう春花とは一緒に寝ません。今日からは茜と寝ます」


 春花ちゃんがショックを受けている。悲愴な顔だ………過去一じゃないだろうか。あとなぜか玲乃ちゃんも「えっ!」って顔だ。まあしょうがないだろう。


「それじゃあさっさと朝食を済ませて出発しよう。今日こそ人の痕跡を見つけなきゃ!」


 そうして昨晩と同じようなご飯を食べ身支度を整える。……一応言っておくと、朝食の席順は昨日と同じだった。同じだったが、蒼羽ちゃんは春花ちゃんに対してびみょ~に距離を取りながらパンをかじかじしていた……さもありなんといったところか。


「何はともあれ、二日目だね。今日はこっちに進もう!」


 どうやら、昨日の昼間()()()()()をしていたにも関わらず、玲乃ちゃんは道を覚えていたらしい。春花ちゃんと後を追っただけの私ですら途中から分からなくなったというのに。一体どんな方向感覚をしているんだろうか……もしかしてツインテはコンパスの針だったのか………?気になってそのツインテをじっと見つめてしまう。


「……」

「?」


 そういうわけで、コンパ……ではなく玲乃ちゃんの先導で進むことになったのだった。


 前には玲乃ちゃんと澄み渡る青い空、左には蒼羽ちゃんと豊かな緑の木々、そして後ろには春花ちゃんと……闇。そう錯覚させるほどの絶望感が滲み出していた。昨日までの元気はどこへやら。今玲乃ちゃんに写真を撮ってもらったら逆光が無くて綺麗に写るのではないだろうか。……いや、むしろ写ってはいけないものが写る気がする。実際うわ言、どころか呪詛のように「蒼羽ちゃんに嫌われた……蒼羽ちゃんに嫌われた……蒼b(以下略)」と繰り返している。そこで当の蒼羽ちゃんがため息を吐いてから口を開く。


「その『蒼羽ちゃん』って言うの止めてください」


 春花ちゃんの肩がビクンと震える。心なしか歩くペースも落ちた気がする。


「ご、ごめんなさい…………。で、でも反省してるから!蒼羽ちゃんのこと大っ好きだからぁ!もう止めるから許してぇ。……えっぐ………ぐずん」

「そうじゃなくて……その…()()()()()()って……………おばちゃんみたいで嫌じゃないですか」


 蒼羽ちゃんは少しモジモジしながらそんなことを言う。何だこのかわいい生き物。


「だから苗字とか呼び捨てとか……()()()()()とか……そんなふうに呼んでください!」


 恥ずかしかったのか、最後は少し投げやりになりながらそんなことを言う。何だこのかわいい生き物。


「あおちゃん………あおちゃん!」


 春花ちゃんは一気にキラキラと輝き出す。さっきまではとても見ていられなかったが、今は眩しすぎてもっと見れなくなった。写真を撮ってもらっても逆光でシルエットしか写らないだろう。蒼羽ちゃんいや、あおちゃんはそれを見てめんどくさそうな表情だが、ほんの一瞬照れくさそうに笑っていた。何だこのかわいい生き物!


「あ()()()()()、仲直りできてよかったね!それじゃあ今日からも茜ちゃんはれのと、あ()()()()()は春花ちゃんと一緒のテントね!」

「それとこれとは話が別です。後やっぱりあなたは嫌いです。ウザいです。二度とそのムカつく顔こっちに向けないでください」


 そう言うと、あおちゃんはそっぽを向いてしまう。あ、躓いた。顔を真っ赤にして俯いている!何だこのかわいい生き物!!……おっと危ない、春風春花症候群を発症してしまうところだった。あおちゃん、罪な女である。そこで玲乃ちゃんが何か思いついた様子で春花ちゃんの方を見る。


「そうだ!春花ちゃんのこと、ハルハルって呼んでいい!?」

「いいよ~。でも春花お姉ちゃんって呼んでくれるともっとうれしいな〜」

「ううん、ハルハルが良い!」

「……そっか。あおちゃんととんぼちゃんも、春花お姉ちゃんって呼んでくれていいんだよー?」

「嫌です。春花は春花です」

「私も、今まで通りはるかちゃんで……」

「…………そっか。」

 少し輝きが鈍った気がする。とはいえ、依然物凄い輝きだ。例えるならシリウスからカノープスになったというところだろうか。そこで今一番輝いてる女、春花ちゃんが前方を指差す。


「もうすぐ森から抜けそうじゃない!?」


 指の先を見てみると、木々の隙間に草原が見える。期待に胸が膨らみ、自然と歩幅が大きくなる。その隙間から漏れる光は歩みを進めるごとに急速に大きくなり、遂には私たちを飲み込んだ。


「やっと抜けたー!しかも道だ〜!初めての人の痕跡じゃない!?」

「流石に疲れましたね………ってあれ!建物じゃないですか!?」

「玲乃ちゃんもあおちゃんもお疲れ様!ようやく手掛かりが得られそうだねー。とんぼちゃんは平気だった?」

「何とか……でも、もう限界……ひと休みしよう………?」


 森と草原に挟まれる形で、舗装こそされていないものの確かに道が走っている。また右の方には集落らしきシルエットが見える。慣れない森を歩くのに、想像以上に体力を使ってしまった。はしたないが道の脇にそのまま座り込む。


「……っ……っぷはぁ。ただのぬるい水が、どうしてこんなに美味しいんでしょう!」

「木々に囲まれてるのも風情があったけど、草原と青空にはさまれてのびのびするのも気持ちいいね〜」


 あおちゃんは沢で汲んだ水を感動しながら飲み、春花ちゃんに至っては大の字に寝っ転がっている。私も大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。それを何度も繰り返して体内を新鮮な空気で満たす。火照った血液に風が染み込むようで、何とも心地良い。しばらくそうしていると、玲乃ちゃんが疑問を投げかける。


「のどかだね〜………この世界は既に滅んだ世界なんだよね。植物とか動物とかは普通にいたけど、何をもって()()()としているんだろうね?」


 それは確かに気になっていたことだ。ちらりと集落の方を見る。たまたまかも知れないが、人の影はない。だが、もしそれが偶然でないとすれば


「人類が生存しているかどうか……とかかな」

「やっぱそうなるか。でも、だとするとどうして()()が滅ぶ瞬間に遺物ができるんだろう?()()が滅ぶ瞬間で良い気がするんだけど……」

「あの神様のことです。適当に言ったに決まってます」


 あおちゃんが興味無さそうにそう言う。その可能性も捨てきれないが、何か理由があるような気がしてならない。まあいずれにせよ、今できることは一つである。


「とりあえず今はあの集落に行ってみなきゃね〜。案外生存者がいるかも知れないし」


 春花ちゃんが身体を起こしながら言う。


「それもそうだね。とんぼちゃん、あおちゃん、ハルハル、そろそろ出発する?」


 程よい頃合いだろう。先程までと違ってちゃんとした道を歩けるし、疲労もかなり回復した。何より早く集落を探索したいという気持ちが強かった。


「おっけ~」

「行けます」


 二人も問題ないようだ。私も玲乃ちゃんに頷きを返す。


「それじゃあ出発しよう!」


 そうして、私たちは集落に向かって歩き出した。



「……やっぱり、誰もいないみたいだね」


 玲乃ちゃんが窓から大きな屋敷の中を覗いて言う。ここが最後の建物だった。


「まだきれいだったから、誰かいるんじゃないかと思ったんだけど……」


 荒れた畑に囲まれた集落には四軒の小さい家と一軒の大きい家があった。あとは倉庫のような建物がいくつかあるくらいだ。大きい家にだけ鍵がかけられており、小さい家にはそもそも鍵が備え付けられていなかった。建物には木や石が用いられていて、近代的でこそないがしっかりした造りだった。中を見る限りどこもきれいに整頓されており、少なくとも生物なまものが放置されて腐っているということは無さそうだった。それにも関わらず人だけがいなかった。神隠しにでもあったかのように。とりあえず柵を乗り越えて二人に報告しに行く。


「茜、どうでした?」

「鍵がかかってて中には入れなかったけど、人はいないみたいだった」

「うーん、買い出しにでも行ってるのかなぁ」


 春花ちゃんが疑問を口にする。それに対し、玲乃ちゃんは考え込む。


「どうしたの?れのちゃん」

「……ううん、何でもない」


 そうは言っても何か引っかかるのだろう。その後もしばらく考える素振りをしていた。


「とりあえず今日はここに泊まろっか。他人の家を勝手に使うのは気が引けるけど、物置くらいなら使っても怒られないでしょ」


 納得したのか諦めたのか、玲乃ちゃんは思考を切り上げて次の行動に移る。


「賛成です。ここには井戸もありましたし、もう少し探索したいですしね」

「とりあえずやらなきゃいけないのはー、水を汲んでくるのと………そう言えば、食料ってどのくらい残ってたっけ〜?」


 春花ちゃんの言葉にリュックを確認する。


「えーっと……ぎり4食分………いや、3食分しかないかも……」

「………食べ物、少しくらい貰って行ってもいいかな」

「……」


 誰も何も言えなかった。実際食料は不足気味だが…………住人がまだ生きているのか、生きていなかったとして勝手に持っていって良いのか。うかつに賛成できないし、軽々しく反対できない。そんな時、玲乃ちゃんがこんな提案をした。


「それじゃあ食料をもらう替わりに、何か別のものを置いていこう」

「物々交換ってこと?」

「そう!食料はどうしても必要だし、かと言って自分達の都合だけ考えるのも良くないでしょ?今できるギリギリのラインだと思うんだけど……どうかな?」


 3人で顔を見合わせる。結論はすぐに出た。


「そうしましょう。勝手に持って行くよりずっと良いです」

「今できる精一杯をやるしかないよね〜」

「うん。そうしよう!」


 しかし、そうなると何を置いていくかが問題である。異世界の人でも喜びそうな、かつ置いていっても問題ない物なんてあっただろうか。できれば一目で贈り物だとわかるものが良いのだが。


「鍋とかどうかな〜。実用性アリで一つか二つくらい、いっそ全部交換しちゃっても問題ないんじゃないかなー!」


 ……見知らぬ人から鍋を贈られたら嫌じゃないか?しかも肝心の食べ物は消えているなんて呪いの鍋だろう。鍋に恨みでもあるのだろうか。……あるのか。


「ハルハル、お鍋で叩き起こされたのが嫌だったからって無理やり置いて行こうとしなくてもいいんだよ?」

「……そんなんじゃないしー」

「今朝は万が一に備えてお鍋を持ってたけど、れのもできれば優しく起こしてあげたいしね?」


 その割には随分と躊躇がなかったような?と思ったが黙っておく。その時、閃いた。


「缶詰置いてくのはどうかな!長持ちするしきっと食べたことないから喜ばれるよ!」

「……食料が足りないのに食料を置いてくの?」

「………………………あ。」

「とんぼちゃんって時々、頭良いのか悪いのか分からなくなるよね。でも、れのはそんなとんぼちゃんが大好きなんだぁ」


 玲乃ちゃんが優しい目を向けながら頭を撫でてくる。凄く辛い。春花ちゃんは反応に困っているようだ。凄く辛い。何事も無かったかのようにあおちゃんが質問をする。凄く辛い。


「……物々交換は必ずしも私達の持ち物でなければいけないのでしょうか」

「どういうこと?」

「この辺りで手に入れられる物を置いて行くのが良いと思うんです。例えば花を摘んで押し花にするとか。物資に余裕があるわけでもないですし、後はその………生きているかも分からないわけですし」

「……そうだね。今はそれくらいにしておこうか。生きている人に会ったら、その時にちゃんとしたお礼をしよう!」


 確かにそれなら私たちの負担が大きくなり過ぎることはないだろう。それに気持ちも十分伝わりそうだ。


「そうと決まれば早速行動だね、ここからは分担しよっか。お花を集めてくるのはハルハルとあおちゃんに任せてもいい?」

「いいよ~」

「分かりました。ついでに周囲の様子も確認してきます」

「れのちゃん、いい加減頭撫でるの止めて?」


 そうして、1〜2時間ほどで戻ってくることとあまり遠くへ行かないことを約束し、私たちは二手に別れた。………余談だが、玲乃ちゃんは名残惜しそうにしていた。



 私と玲乃ちゃんはとりあえず食料を探すため、それぞれ近くの民家にお邪魔する。靴を脱ぐスペースが無いため、家でも靴を脱がないのが普通なのだろう。正面にはテーブルときれいに並べられた椅子があり、テーブルの上には空の花瓶だけが置いてあった。また部屋のあちこちにテニスボールくらいのガラスの瓶が吊るされている。何に使うのだろうか?そして、改めて見ると片付き過ぎているような気がする。旅行でしばらく留守にする時に近いような……とりあえず、布で仕切られたキッチンスペースに向かう。


「何か残ってると良いんだけど」


 そう呟きながら恐る恐る中に入る。キッチンにはかまどと薪があったが、火をつけるための道具は見当たらなかった。そしてこれは……石臼か。実物を見るのは初めてかもしれない。こういった道具は異世界でも割と似通っているようだ。他には包丁とか袋とかが壁に掛けられていたり、床に壺と木箱が置いてあったりした。壺は頭がすっぽり入りそうな大きさで、水を入れていたのだろう。


「食べ物は……この箱かな?」


 木箱を開けてみると中は空だった。


「保存食くらい残ってないかと思ったんだけどなー」


 キッチンにはこれ以上めぼしい物も無いため、他の部屋を見てみることにする。入り口から見て右の方に扉があって、それを開けると簡素な造りのベッドが目に入る。


「ここは……寝室か」


 どうやらこの家は1LDKとなっているようだ。寝室に食料があるとは思えないが、他にも何か見つかるかもしれないので一応調べてみる。


「……何の染みだろう。まさか血じゃ…ないよね?」


 ベッドに近寄ってみると藁のようなものを詰めた袋が敷かれており、そこには赤黒い染みがあった。少し気分が悪くなりながらも探索を続けると、一冊の本が見つかる。昔はかなり高価なものだったと聞いたような気がするが、この世界ではどうなんだろうか。そう思いながら表紙を見ると、そこには見たことのない文字が書かれている。


「絵を見る限りお花の図鑑かな?」


 開いてみると見開きの左側に挿絵があり、右側はおそらくその説明だろう。一通り捲ってから本を元の場所に戻し、再度周囲を見回す。ほとんど寝るためだけの部屋といった感じだ。他に気になるところもないので玲乃ちゃんと合流することにした。



「とんぼちゃん、どうだった?」

「食べ物は無かったけど本があったよ。文字は読めなかったけどお花のことが書いてあるみたいだった。そっちは?」

「れのの方も食べ物は無かったよ。なんか住人はいるけど留守にしてるみたいな感じ」


 玲乃ちゃんの方も芳しくなかったようだ。さらに詳しい情報を話し合ったが、おおよそ同じような内容だった。どうやら玲乃ちゃんの方も血痕らしき汚れがあったらしい。そのまま次の家に向かう。


「うーん、やっぱり食べ物はないか」


 次の家の探索はすぐに終わった。というのも、食料どころか物自体がほとんどなかったのだ。先程の二軒については、所有者はいるがたまたまその場にいないという印象だった。しかしこの二軒はそもそも所有者がいないような雰囲気だ。とはいえ何も無かったわけではなく、どちらもリビングの中央に空のガラス瓶だけが置かれていた。


 そうして私たちはお屋敷を後回しにして、倉庫の方を調べることにした。ちゃんと数えてみるとお屋敷の柵内に一つ、畑の方に二つあって、まずは畑の方を見てみることにした。


「ここは……農具とかを置いてるみたいだね」


 二つは隣接していて、一方を覗いてみるとクワや鎌と思われる道具が置いてあった。


「れのちゃん、何か気になる?」


 先程から農具をまじまじと見つめている玲乃ちゃんに声をかける。


「やっぱり、しばらく使われてないみたいだね」


 そう言われて見てみると、確かにホコリをかぶっている。


「本当だ。畑も荒れてたし、人がいなくなってから結構経ってるのかな?」

「最初に調べた家はまだきれいだったから、人が居なくなったのは最近じゃないかな。多分畑仕事が出来なくなってからこの集落を出たんだよ」

「?」


 確かに、家の様子からはそう考えた方が辻褄が合うかもしれない。しかしそうなると、疑問が減るどころか増えてしまう。なぜここに人がいないのか、そしてなぜ畑を放棄したのか。なんだかジグソーパズルのようだ。なかなか当てはまるピースが見つからなくて悶々としているうちに、ピースが揃っていないのではと疑い始めてしまう。ここは一旦、箱に残ったピースが無いか探すことにしよう。


「れのちゃん、隣も見てみよう?」


 そう声をかけて隣の倉庫に向かう。大きな両開きの扉を二人で開く。ギギと音を立てながら倉庫の中に少しずつ光が差し込んでいく。右の隅の方には空の布袋が積み上げられていて、左の隅の方にはいくつか中身の入った袋が置いてある。


「何が入ってるのかな?」

「多分()()()だよ、とんぼちゃん!」


 あたり?そう思いながら袋を開けてみる。中に入っていたのは念願の食料、穀物だった。



 あおちゃん、春花ちゃんと合流してお互いの成果を共有した。


「取り敢えずいくつか花を摘んできました。……結構大変でした」

「あんまり群生してなかったからね〜。失敗した時のことも考えて多めに摘んできたからあちこち歩き回っちゃった」


 二人とも軽く息が上がっている。しかしその甲斐はあったようで、美しく可憐な花が顔を覗かせている。


「後はお墓みたいなのを見つけたかな~。周りは畑ばっかりなのに、そこだけ木の棒が立てられてたんだよね」

「それ以外は畑しかありませんでした。そっちはどうでしたか?」


 玲乃ちゃんが答える。


「お屋敷はまだ調べてないけど、とりあえず畑の方の倉庫に穀物があったよ。家の方には調理器具もあったからそれを貸してもらったらいろいろできると思う」

「半分は留守にしてるって感じで、もう半分はそもそも人が住んでないって感じだったね。……そういえばやたらとガラスの瓶があったけど何に使ってたんだろう?」


 ガラスの瓶?とあおちゃんが訝しげな表情をする。


「……良く分かりませんが住民の手掛かりというわけではないんですよね?気にしなくても良いんじゃないですか?」

「そう言われればそうなんだけど…………まあそうだね」


 確かに、考えても分からない事ではあるのだ。いったん納得して次に進むべきだろう。


「そろそろいい時間だし、お昼にしよっか」

「それじゃあ私お料理するよ~。お料理って言っても茹でるだけだけどね~」

「私も手伝うよ!」


 近くのお家に躊躇なく入っていく春花ちゃんを、小走りになりながら追いかけた。



「ほへらあほのあおわおおいまう?(それじゃあこの後はどうします?)」

「も~食べながらしゃべっちゃダメなんだよ~?」


 そう言いながら春花ちゃんはあおちゃんの口元を拭いている。


「私とれのちゃんはお屋敷を調べに行こうかな。はるかちゃんはどうする?」

「私はここで押し花作ってるよー。もう歩き疲れちゃったし、短時間で作るとなると結構大変だと思うからねー」


 春花ちゃんはあおちゃんに麦?で作ったお粥?を食べさせながら答えた。


「ほへらあわらひも(それじゃあ私も)……っ…ここにいます。良く分からない場所で春花を一人にするのは不安ですし」

「そんなこと言って〜w自分が怖いだけでしょ〜?ww大丈夫だよ、れのはちゃーんとわかってるからw」

「…………茜、すみませんが探索は一人でやって下さい。コイツはここで仕留めます。もうッ!二度とッ!舐めた口きけないようにしてやります!!」


 二人の追いかけっこを見ていると、「若い子って元気だなぁ」なんて考えてしまう。玲乃ちゃんもあおちゃんも背が低い方なのでどうにも年下を見ている気分になる。保育士さんはこんな気持ちなのだろうか、お世話になったあの先生はどんな声をしていたかな、なんて考えていると春花ちゃんの視線に気づく。なんというか……言葉を選ばずに言うなら気持ち悪い視線だ。


「ど、どうしたの?」

「いや~とんぼちゃんもいい顔をするようになったなぁ〜と思って」

「……気持ちの整理がついてなかったっていうか………でも、一日経って少し落ち着いたっていうか………心配かけたよね。もう大丈夫だよ!」

「そうじゃなくてー、なんていうか同族の気配を感じるなーと思って。こっちにおいで?一緒にひな鳥を愛でよう?」

「………やめとこうかな……ほ、ほら早く食べないと冷めちゃうし………」

「遠慮しなくていいんだよ。それともとんぼちゃんは愛でられる方が好みかなー?春花お姉ちゃんって呼んでごらん?いい子いい子してあげるよー」

「ひっ………止めて下さい。気持ち悪いです。怖いです!いや~来ないでぇー!」


 思わずあおちゃんみたいな口調になってしまった。というかひな鳥って……こんなに可愛い単語でこんなに恐怖を感じたのは初めてだ。とりあえず逃げるしかない。当然春花ちゃんも追ってくる。


「れのちゃん助けてぇー!」

「とんぼちゃん!?いや、むしろ助けて欲しいのはこっちって言うか……」

「そうですか……。茜は玲乃の味方ですか。ならば二人纏めて成敗します!」

「え、ちょっ、ちょっと待って!今それどころじゃなくて!別にれのちゃんを助けようとかじゃないから見逃して!」

「え!?………助けて…くれないの?」

「うっ」

「やっっぱり敵じゃないですか!騙そうとしたんですね!絶対にゆr」

「あおちゃんだ〜。この際誰でも良いからいい子いい子させて〜」

「!」

「とんぼちゃんはれのが守るー!」


 …………そうして、突如始まった鬼ごっこは混沌と化し、いつの間にやら誰が追う側で誰が逃げる側かもわからなくなったのだった。



 全員の疲労が限界に達したところで鬼ごっこは終息した。息も絶え絶えになりながらなんとか元の場所に戻ってきて、昼休憩のはずだったのに追加で一息吐くことになった。そうして動ける程度に疲れがとれた頃、朝から歩きっぱなしで悲鳴を上げる足を引きずりどうにかお屋敷の前にたどり着いた。


「どうしてこの家だけ大きいのかな?偉い人が住んでるとか?」

「多分この辺りの土地を持ってる人なんじゃないかな。土地を貸し与える代わりに農作業をさせたり作物の一部を徴収してるんだと思う。ほら、そういうの授業で習ったじゃん?」

「……そうだっけ。何はともあれ、中を調べるには入る方法を考えなきゃね!」


 都合の悪い話題になりそうなので話を変える。生暖かい目を向けられるが気にしない。


「そうだね。でもどうしようか。こじ開ける?それとも窓割る?」


 正直玲乃ちゃんからその意見が出るとは思わなかった。解決策の提示が迅速なのは素晴らしいが、少々強引過ぎないだろうか。そもそも不法侵入である。……それは今更か。


「ちょっと手荒過ぎない?」

「そうは言っても、他に方法がないんじゃないかな~。れのもこれ以上罪を重ねたくはないけど……ほら、実は生存者はいるけど中で倒れてるのかもしれないじゃん!人命救助だよ!」


 いや流石に……でも他に方法も……なんて考えていると、玲乃ちゃんは窓ガラスを割って中に入って行ってしまった。


「れのが中から鍵開けるから、入り口から入ってきて~」

「ちょっ!さすがに駄目だって!」


 その言葉が届く前に玲乃ちゃんは行ってしまったようだ。どうしようもないのでとりあえず入口の方に向かう。


「れのちゃん!さすがにやばいって!」

「うーん、れのも所有者が生きてそうなら無理に入ることもないかなと思ったんだけどさ」


 生存者が居そうなら?まるでその可能性が低いかのような言い方だ。玲乃ちゃんが重々しく口を開く。


「……確証はないけど、もう誰も生き残ってないと思う」

「……」

「別に、もう所有者が居ないから何してもいいとは思ってないよ?お花を置いていくのだってすごく良いと思う。でもこのお屋敷はなんとしても調べるべきだと思うんだ」


 どういうことだろうか。何かここに()()()()()でもあると言うのだろうか。……特別なもの?


「もしもこの集落に()()があるとすれば、ここだと思う」


 そうだった。私たちはこの世界の生存者を探しに来たのでもなければ、異世界の冒険を通して礼儀やマナーを身につけに来たのでもない。この世界で生き抜くことすらも手段に過ぎないのだ。私たちの目的は、遺物なのだ。


「……そうだね。私、忘れかけてた。遺物を探してるんだから、あからさまに目立つところを調べないわけにはいかないよね。流石れのちゃん!」

「もしかして尊敬した?れののこと尊敬しちゃった!?えへへぇ照れるなぁ〜。うっかりさんなとんぼちゃんの分も、れのがちゃんと考えてあげるからねー!とんぼちゃんがどんなに天然ちゃんだったとしても、どんなにお勉強ができなかったとしても、どn」


 ムカつくのでひっぱたく。おっといけない、つい手が出てしまった。けれど頭を押さえる玲乃ちゃんを見て少しだけスッキリした。さて、中を調べるとしよう。そうして私たちは、堂々と玄関から入っていったのだった。

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