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御厨の肉団子

 その声に、俺は顔を上げた。


 教室の入口に、艷やかな黒髪を靡かせながら御厨火凛が立っていた。


 その瞬間、クラスの視線が一斉に俺に集中した。


 俺はその視線の一切を無視して、目線の高さに手を上げた。




「おう、なら先に行っててくれ。あと、風夏にはあんまり高カロリーなもの頼むなって言っとけ。八百キロカロリーまでなら許すってな」




 わかった、と涼やかに応じ、火凛はしゃなりとした身のこなしで踵を返した。


 その背筋は凛と伸び切っていて、立ち居振る舞いは本当に女剣士のようである。


 アレで運動の類が全くダメなのだから世の中とはままならぬものだなぁ――と思いつつ俺が視線を前に戻すと、クラスの男子の間から一斉に舌打ちの音が聞こえた。


 舌打ちの嵐が治まってから、村山と九条が、なんだか恐れ入ったように俺を見つめた。




「神秀、お前、いくら幼馴染とは言え、よくあの御厨火凛さんとあんな風に会話できるよな……しかも一緒に学食でメシって……」

「は? なにそれ? どういうこと?」



 

 俺が本気で戸惑う声を発すると、九条が「だ、だってよ……」とどもった声で応じた。




「あのな、あんな近寄りがたいぐらいの美人なんだぞ? しかも制服の上からもわかるぐらいの巨乳で、黒髪も物凄く綺麗でエロい。一部界隈では御厨姉妹を盗撮したスマホ画像が賄賂として流通してるって話だし」

「オイ九条、その話後で詳しく聞かせろ。どこでだ? どこでそんなキショい行為が……!」

「お、おい落ち着け神秀! ただの噂だよ噂!」

「と、とにかくだ。あんな美人と会話するどころか、目線が合っただけで普通の男子ならドキッとするところなんだぞ? しかも何? 火凛さんだけでなく、あの風夏さんと林音さんとも一緒、って……」




 考えただけで恐ろしい、という感じで九条はぶるぶると震えた。


 俺はその反応に呆れも果ても尽き果てる気持ちになった。




「あのなぁ、お前らあの肉団子どもをちょっと神聖視しすぎだ。あいつらは確かに美人だと、俺も思う。けれどアレらはアレらでかなり抜けたところもある。話せばわかるさ」

「だからその会話すること自体を躊躇(ためら)うって言ってんじゃねぇかよ。しかも俺らイケてないグループの人間があの人と会話なんてしたら目も喉も潰れるかもしれんし」

「御厨の肉団子三つは非モテ男子の聖母マリアかなんかかよ」

「実際そんなもんだろ……。お前は慣れちゃったのかも知んねぇけどよ、俺たちは絶対無理だ。ま、まぁ、何かの拍子で仲良くなれるならそれに越したことはないけど……」




 村山と九条はそこで顔を見合わせて、何故なのか卑屈に笑った。


 まるでそれは己の恵まれない容姿と運命とを嗤うかのような、絶望と敗北に慣らされきった、物凄く情けない表情だった。


 


 パチパチ、と、俺は静かに頭の中でソロバンを弾き始めた。


 これはいけない、と俺は思った。それに、さっきの御厨姉妹を写したスマホが賄賂になっている、という噂も気になる。


 ここであの御厨姉妹がちゃんと人間なのだということを知らしめないと、校内の非モテ男子たちの妄想は今後も際限なく加熱してゆくだろう。


 あの至ってだらしない三姉妹を信仰の対象とした地下教団か何かが生まれてしまったら――それはそれで気色が悪い。




 それに――この女子への耐性が全く無い友人たちが、性格はともかく、顔と身体だけは完成されきっている御厨姉妹を前にしてあたふたする姿も見てみたかった。


 ムラ……と沸き起こってきた黒い笑いとSっ気を抑えながら、俺は冴えた声で提案した。




「なら、お前らも一緒にあいつらとメシ食うか?」




 その一言に、へ? と村山と九条が目を点にした。




「いくら俺でも女子と三対一でメシ食うのは気後れする。俺も二人連れてけば三対三で見栄えがいいだろ。それにお前らにあの姉妹がちゃんとした人間だってことを教えたいんだよ。どうだ?」




 俺のその言葉に、それぞれロンドンとパリに向かって離れていた村山と九条の黒目が――急激に真正面を向いた。




「おっ、おお……! 行く行く! 神秀、今のマジだよな!?」

「何を大袈裟な。別に合コンとか行くわけじゃねぇだろ。九条、お前はどうだ?」

「い、行く……! でっ、でも神秀! 俺なんかが秘密の花園に混じって本当にいいのか!?」

「何だよ秘密の花園って。よっしゃ、じゃあ決まりだな。学食行くぞ」




 俺の言葉に、うん! と二人は小学生のような声と顔で、元気いっぱいに頷いた。





「面白かった」

「続きが気になる」

「もっと読ませろ」


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