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争奪戦

 その後、御厨家では――。




 三人分の「課金祭り」を拒否した神秀が自宅に逃げ帰った後、三姉妹は食事を終え、いつも通りに入浴を済ませ、午後十時頃には全員がパジャマに着替え、寝るまでの時間を思い思いに過ごそうとしていた、その時だった。




「ねえみんな、注目!」




 ――突然、長姉である風夏が冴えた声でそう言い、姉妹全員の視線が風夏に集まった。


 風夏は得意げな顔で提案した。




「今日は記念日! カーちゃんがジン君に『初課金』した記念日じゃん! ということで、いよいよジン君争奪戦が本格的に開始になったということだね!」




 争奪戦。

 

 その言葉に、姉妹全員が顔を見合わせた。


 にひひ、と意味深に笑ってから、風夏は続けた。




「ということで、今日は三姉妹合同、前哨戦として一緒に語らおうではないか! リビングに布団出してきて、一緒に寝るヤツ、夏休みとかよくやってたじゃん! アレをやろうではないか!!」




 その声に、うふふ、と次女の林音が妖しく笑った。




「記念日――そう言えばそう言えるかもね。わかったわ、フー姉さん。私は乗った」




 林音がそう言うと、長い髪をようやく乾かしきった火凛が、気恥ずかしそうに頷いた。




「そうか、記念日、か。私もとうとうジンに『課金』してしまったんだしなぁ――いっちょ前哨戦と行くか?」




 その言葉に、姉妹全員が微笑みを浮かべた。


 「だらし姉ぇ」とは言え、流石は長姉と言える風格と声で、風夏はパジャマ姿のまま偉そうに腰に手を当てた。




「よーし、では早速、布団を持参した後、全員リビングに集合! 今日は朝まで寝かさないぜ! 覚悟しとけよ!」







「なんか、久しぶりだよね。昔はこういう風にそれぞれの家でお泊まり会とかよくやってたよね」




 テーブルを退け、三人分の布団を敷き詰めたリビングの中、風夏がそんな事を言う。


 その言葉に、薄暗いリビングの中から次々と声が上がった。




「そうそう、ジン君なんてはしゃいじゃってね。朝までずっと眠らなかったわよね」

「アイツはこういう雰囲気が好きだからな……誰かがもう寝ようと言っても、もう少しおしゃべりしようってしつこかったな」

「あーあ、またジン君とお泊まり会したいなぁ。……ねぇ、今から呼んだら来ないかな?」

「ダメよ、フー姉さん。さっきは結構本気で怯えてたし。今はそっとしておかないと今後『課金』できなくなるわよ?」




 課金。


 その言葉に、姉妹の間からえへへとスケベな笑い声が上がった。




「ねぇ、ジン君、いつ私たちの気持ちに気づくかな?」




 突如――意味深に低くなった風夏の声に、林音が答える。

 



「さぁね。しばらく気づかないんじゃない? なんてったってジン君、この期に及んでまだ私たちを単なる幼馴染だと思いたいみたいだからねぇ――」




 林音の妖しい声に、ふん、という火凛の憮然とした声が応じた。




「全く、スケベな姉どもめ。なんやかやと理由をつけてはジンに繰り返し『課金』して……料理はともかく、私たちが家事が出来ないふりもそろそろ限界だろう」




 その声に、何を言ってるの、という風夏の声が聞こえた。




「そうは言ってもカーちゃん、ずっとジン君に『課金』シたがってたじゃん。私たちが『課金』するたびにそっちばっかりズルいって……初課金、どうだったの?」

「ばっ、馬鹿、そんなこと聞くな! 誰が答えるか……!」

「あー、カーちゃん顔真っ赤! やっとジン君の唇に『課金』できたんだもんね、そりゃ嬉しいよね!」

「ま、まぁ、その、なんだ。強いて、一言で言えば、思った以上に悪くなかった、というか……ああもう、言わせるなよこんな事……!」




 赤面し、毛布で顔を隠しながらの火凛の言葉に、あははは、という笑い声が姉妹の間から上がった。


 その後、少し沈黙があり――再び口を開いたのは風夏だった。


 




「とにかく、これで私たちは全員ジン君に課金シたってことだね。争奪戦の勝利条件はたったひとつ、誰がジン君と一番最初に、課金じゃない、恋人同士のキスが出来るか――」






 そこで風夏が人差し指を立て、自分の唇に押し当て、ちゅっ、と音を立ててみせた。




「わかってると思うけど、ルール違反とかズルはダメだよ?」




 その一言に、うん、と姉妹全員が頷いた。




「争奪――なんだかヤらしい響きよねぇ。なんだかここまでモノ扱いしたらジン君が可哀想かもねぇ」

「何が可哀想なもんか。アイツ、私が『課金』したらスケベな顔して喜んでたぞ。男なんてみんなサルと一緒だ、誰でも喜ぶさ」




 うふふ……という笑い声がリビングを揺らした。




「でも、ジン君も鈍いよねぇ。私たちのもう誰も、ジン君をただの幼馴染だなんて思ってないのにね」




 その言葉に、うんうん、と三姉妹はそれぞれ頷いた。




「本当よね。毎回あんなにこっちから迫ってるのに、意識するどころか自分から課金シてくれとすら言わないし……」

「幾ら私たちでも、なんとも思っていない男にあんなことするわけがないだろうになぁ。相変わらず、妙なところで鈍いんだよなぁ、アイツ」 




 火凛の言葉に、姉妹たちが再び揃って頷き、思い出していた。


 そう、それぞれに訪れた、その時のこと――森崎神秀という男が、彼女らにとってただの幼馴染ではなく、異性として意識すべき一人の男に変化した、その時のことを。


 この奇妙な『課金』制度が始まることになった経緯について、各々が過去を思い出すような、短い沈黙があった。




 その沈黙の後――へへへ、と風夏が笑った。




「ねぇ、今頃ジン君、どうしてるかな?」




 風夏のその言葉に、既にまどろみかけている林音が怪しい呂律で答えた。




「そうねぇ――今頃、布団の中で悶えてるんじゃない? 私たちの『課金』を思い出してね……」




 最後に、ふふふ、という火凛の涼やかな笑い声が薄闇を震わせた。




「そりゃあな。さっきはあれだけ『重課金』してやったんだ。多少は悶々としてもらわないと甲斐がないというものだな――」




 何やらとんでもない話題の話は、その後彼女たちが深い満足感の中、寝落ちするまで続いた。





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のこったボロネーゼの争奪戦はあったのかしら
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