「愛」の課金制度
改めて、俺――森崎神秀は、今わけあってこの三姉妹が住まいを為す魔窟、御厨家のハウスキーパー兼、あの御厨三姉妹の「下僕」を務めている高校一年生だ。
世界的なフォトグラファーであるらしい俺の母親は、今も日本中、あるいは世界中を飛び回ることを至上の喜びとしているような変人奇人で、俺が幼い頃からまず家に寄り付かない人だった。
そのせいで、俺は隣家であり、母の幼馴染であり親友である御厨家のおじさんおばさんの下にほぼ一年中預けられ、そのご両親のご厚意と庇護の下で、なんとかこの歳まで生きてこられた。
それ故、俺と一歳年上の御厨三姉妹はオムツが取れたぐらいのころからほぼ一緒に育ち、共に遊び、共に喧嘩しあい、途中、とある事情から俺が引っ越し、進路が別れた中学時代の三年間を除き、今までほぼ姉弟のように育てられた。
しかし、俺が御厨姉妹のいる高校に入学してすぐのこと。
御厨のお母さんのご両親、つまりこの姉妹の母方の祖父母が高齢となり、ご両親はこの家を空け、田舎で同居することになったのだ。
私たちももう高校生、立派に自活できると主張して両親を見送った三姉妹だったけれど――俺はそれが完全なる嘘・でまかせ・虚言の類であることは、彼女たちと付き合いの長い俺は内心で察していた。
とにかく――この三姉妹が曲者なのだ。
揃いも揃ってものぐさで、面倒くさがりで不器用で。
顔と身体のよさだけは他校まで轟くぐらい抜群なのに、家事なんか出来たとしてもやろうとしない自堕落な姉妹――それが彼女たちの弟分として育ってきた俺の印象である。
そんな色とりどりの肉団子が三つもくっつけば、ぷよぷよじゃなくてもこの家は遠からず草木に埋もれて消滅するだろうことを、俺は早くから確信していた。
そういうわけで、俺はもっぱら隣りにある自分の家から勝手知ったる御厨家に出入りし、今やその家事一切を取り仕切っているというわけである。
いままで育ててくれた御厨の両親への恩返しと考えれば、それはむしろ俺が進んでやらなければならないことと思えたし、家事の類もどちらかと言えば得意な方なので、学業との並行は全く苦痛ではなかった。
だが――俺がこの家の家事を取り仕切るようになってすぐ、俺と御厨姉妹の間で、とある奇妙な制度が始まった。
それが「愛」の課金制度――。
つまりキス一回の報酬で、三姉妹が俺に「愛情」を課金し、その対価として俺に様々な雑用・面倒事を押しつけてくる制度である。
最初こそ、馬鹿正直に一回一回身体を固くしてそれを受けていた俺だったけど、最近は慣れたもので、むしろそれは労働の対価として当然の権利だと開き直るぐらいにはなれたと思う。
しかし――いくら小さい頃からの幼馴染、否、半分姉弟のようなものとして育ってきたからと言って、俺だって年頃の男の子だ。
何しろ御厨三姉妹は、ほぼ弟のような存在である俺の目から見ても、顔と身体だけは抜きん出て完成されている美人姉妹なのである。
事実、俺たちの住む街で御厨姉妹と言えば知らぬものはいない有名人であり、もし彼女たちが男から言い寄られるたびに十円ずつでももらっていたら、今頃ひと財産になっているだろうぐらいの姉妹――それが御厨三姉妹なのだ。
それ故、幼い頃に共に全裸になってプールではしゃいだり、一緒の布団で寝たりしたのも今は昔の話。
進路が別れた中学時代の三年間で、彼女たちが急激に女としての成長を見せたこともあり、俺は今ではこの曲者姉妹からの「課金」を、なんだか内心ドキドキしながら受け止めざるを得ないという、生殺しに等しい日常を過ごしているのだった。
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