早退
幼馴染たちからキスされまくったせいで早退――世の中にこんな奇妙奇天烈摩訶不思議な早退理由があるだろうか?
俺は朝の出勤・登校ラッシュが収まりつつある通学路を寝不足の頭で眺めつつ、足を引きずりながら通学路を家に向かって歩いていた。
もう夏が始まりつつあり、気温も着実に三十度超えを目指そうと、日夜じりじりと気温を上げてきていたのに、全く汗をかかなかったのは寝不足のせいだろうか。
家、家、ベッド、寝る……と脳内で繰り返しながら、俺は駅までの道を歩き、様々な商業テナントが立ち並ぶ商業地区の一角まで来た。
《期待の新星・朝倉カミラ、迫真の主演舞台稽古に潜入!》
ふと――そんな文言が目に入り、俺はその声が聞こえた方を見た。
最近では地方都市でも珍しくなくなった街角の大型ビジョンに、あのアホ金髪が映っていた。
ビジョンの中の朝倉カミラは何かの舞台の稽古中らしく、Tシャツ姿で台本を手に発声練習に勤しんでいた。
また舞台を主演することになったのか、あの人。本当に忙しい人だ。
いつだか、事故で早世した母親の跡を継ぎ、将来は立派な女優になりたいんだと言っていたっけ。
そう思うと、もや……と、俺の心の中にわだかまる何かが、一瞬だけ存在感を増した気がした。
それに引き換え、俺はいまだに、人生の目標というものを見つけられていない。
あんなに眩しく輝く綺羅星のような人の隣に三年もいたのに、俺という男は、その輝きに背を向けて逃げた。
元々いた暗がりに戻りたいと願って戻ってきてみれば、今度はそのダンゴムシ仲間とばかり思っていたあの肉団子どもも、曲りなりにも自分の将来を見据えて動き始めているのを知ってしまった。
俺だけがなんだか取り残されてしまったかのように、よくわからない焦燥は日々募るばかりだ。
数秒間、大型ビジョンの中で演技したり、ダンスしたりしている朝倉カミラを見つめてから、俺は歩き始めた。
ああ、ダメだダメだ。寝不足のせいで、多少おセンチな気分になっているらしい。
このモヤモヤも、将来に対する漠然とした焦りも、きっと家に帰ってぐっすり寝れば、きっとスッキリする、そうに違いない。
ぶんぶんと頭を振り、頭に絡みつく思考を振り払った、その瞬間、スマホがLINEの通知音を奏でた。
ん? 誰からだろう、とスマホを取り上げた俺は。
そこに映っている文言を見て目を見開いた。
《【山吹】おとうとくんたすけて》
はっ――!? と俺はその文面に仰天し、すぐさま返事を送った。
《何があった?》
じれったくなるような気持ちで返信を待っていると、三十秒ぐらい経って返信が来た。
《おなか》
たった一言、それだけの返信が来た。
俺はすぐさま『腹がどうした?』と返信してみたが、三分ほど待っても、以後の返信はなかった。
「ああもう、そんな大変なら俺じゃなくて救急車呼べよ――!」
俺はがりがりと頭を掻き毟った。
ちくしょう、こっちだって寝不足で体調不良なのに、本当にあの人は……!
数秒、迷ったけれど、今までの経験的に、助けてやる他になさそうだ。
弟とは忍耐の生き物である――その一言を胸に引き結んで、俺は【山吹】なる人物が住まいを為す方角へと歩き始めた。
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