惨状
「じ、神秀――!? なんだよその有様!?」
「どっ、どうした!? お前、何があった!?」
朝、教室で顔を合わせた村上と九条は、俺の顔を見るなり仰天した表情を浮かべた。
俺はサッとスマホを取り出すと、以下の文字を入力して、二人に示した。
『なんでもない。ちょっと転んだ』
「ちょっと転んだ、って――! どう転べばそうなるんだよ、お前!?」
「朝っぱらからボロボロじゃねぇか! 転んだ先に蜂の巣でもあったのか!?」
まぁ、そう疑いたくもなるよね――俺は今の己の姿を思い浮かべてそう思った。
首筋に貼り付けられた無数の絆創膏。
それでも隠しきれない、顔周辺に重点的につけられた無数の痣、というか、キスマーク。
あんまり吸われすぎてふやけ、充血して腫れた唇を隠すためのマスク。
噛み合わせがおかしくなって上手く開け閉めできない顎と、痺れて上手く喋れなくなった舌。
昨日の夜のことを思い出す度に滲み出してくる鼻血を吸い取らせるために突っ込んだティッシュの鼻栓。
あまりの「重課金」によってすっかりとギンギンになり、その後一睡も出来なかったことによる、目の下の色濃い隈と、血走った白目、前かがみになった腰。
昨日の御厨三姉妹による「お仕置き廃課金祭り」により、今の俺は幕内力士十人に散々もみくちゃにされた直後のような、まことに酷い有り様になっていたのである。
『そんな事実はない。とにかく大丈夫なんだ』
「いやいや嘘だろ! どう考えたって白々しい嘘にしか聞こえねぇよ!」
「学校じゃなく病院行けよ! 連れてってやろうか!?」
『お気持ちだけ受け取っておく。とにかく大丈夫だからありがとうな』
それだけスマホに打ち込んで示し、俺は自分の席に座った。
クラスの連中はまるでフランケンシュタインの怪物のようになった俺を見て怯えている。俺だって逆の立場なら怯えるに違いなかった。
『天これ』をプレイする気にもなれず、俺は膝に手を乗せて、授業開始までの時間を潰すことにした。
村上も九条も、お互いに「大丈夫なのか」という顔を見合わせてから、おずおずと己の席に戻っていった。
寝不足の頭に、ようやくいつも通りになりかけたクラスの喧騒が爽やかだった。
俺がうとうととまどろみながらその囀りに耳を傾けていた、その時――。
「なぁおい、昨日の楽天イーグルスの試合見たか!?」
「見た見た! 凄かったよなあのサヨナラ満塁ホームラン!」
「あの変化球を真芯で行ったんだよな! まさにこう、カキーンって感じで……!」
カキン。その言葉に、ガタンッ、と俺は腰を椅子から浮かせて取り乱した。
そんな俺をぎょっとした表情でクラスの男子が見つめてきた。
ガタガタ……と震えた俺は、それでもまた何事もなかったかのように椅子に腰を落ち着けた。
しばらくすると――またうとうとと眠気がやってきた。
すると同時に、今度はクラスの女子の会話が聞こえるともなく俺の耳に聞こえてきた。
「みっちゃんってホント料理上手だよね! 誰に教わったの?」
「お母さんが昔小料理屋で働いててさ。それで習ったの」
「へぇー、小料理屋! いろんな料理作れて羨ましいなぁ! 得意料理とかあるの?」
「得意なのは天ぷらかな。特にエビとかキスの天ぷら……」
キス。その一言に、再び俺は椅子から転げ落ちんばかりに怯えた。
うわっ、とクラスの女子が悲鳴を上げて飛び退り、俺はすまんすまんとジェスチャーで伝え、椅子に座り直した。
――やべぇ、すっかりとトラウマになってんな、これ。
俺は憔悴しきった頭の片隅で考える。
いくら幼馴染といえど、あんなに美人で超絶スタイルの美少女三人に繰り返し「課金」されると、ここまで人間はダメージを負えるものなのか。
俺は真剣に驚き、そして同時に、昨日起きたことを思い出して恐怖した。
何度も何度でも言うが、御厨三姉妹は校内外にその名を轟かせる、この街では超有名な美人姉妹だ。
そんな美人姉妹三人とは幼馴染であるとはいえ、男なら誰もが羨むだろうその唇に、何十回……否、何百回も唇を貪られ、実に二時間近くひぃひぃヨガり狂わされたなんて、このクラスの男子連中が聞いたら大半が血を吐いて憤死することだろう。
何しろ昨日はもう思い出したくないぐらいスゴかった。あの三姉妹に密着され、繰り返し繰り返し唇を奪われ、舌を絡められ、痕をつけられ、唾液を吸われ、飲まされ、もうやだ無理、と息も絶え絶えに哀願しても決して勘弁してもらえなくて……。
ふと、ぽた、ぽた……と、机の天板に鮮血が滴り落ちてきて、俺は目を見開いた。
鼻に詰めたティッシュの鼻栓がすっかりとふやけ、とうとう血を吸いきれなくなったらしい。
慌ててポケットティッシュを取り出して天板を拭いていると、村山と九条がやってきて、心配そうな表情で俺の背中を擦った。
「……なぁ神秀、もう無理だって。何があったかしらないけど、今日は早退しろ、な? そんな状態じゃ授業受けてる間に失血死するぞ」
「ああ、ノートは俺たちが取っといてやるから。そんで家帰って、御厨姉妹におかゆでも作ってもらって介護してもらえよ」
御厨姉妹。その一言に、俺の顔からあっという間に冷や汗が滴り落ち始めた。
それを体調不良のサインと誤解したらしく、九条が心配そうに俺の顔を覗き込んだ。
全てを観念して、俺は以下の文字をスマホに打ち込んだ。
『村山、九条、本当にすまん。今日は早退するから後はよろしく頼めるか』
とうとう折れた俺の敗北宣言に、そうしろそうしろ、と村山と九条は頷いた。
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