お仕置き廃課金祭り
「たっ、ただいま……」
「あら、おかえりなさい! フー姉さん、ジン君とカーちゃんが帰ってきたわよ!」
物凄く気まずい気持ちで玄関に立つと、どたどたと奥から部屋着姿でやってきた林音が、びしょ濡れの俺たちを見て目を丸くした。
続いて、パジャマ姿で顔に保湿用のパックを貼り付け、完全に「休息」の態勢になっていた風夏も廊下の奥から顔を出し、同じく珍妙な表情を浮かべた。
「えっ、どうしたの二人とも? なんでびしょ濡れ?」
「ああ、うん……ちょっといろいろあってな……」
「いろいろあった、って、LINEに書いてた痴漢騒ぎのことでしょ? それは大変だったでしょうけど、ジン君もカーちゃんも傘持ってるじゃないの」
「うん、まぁ、そうだな……」
「本当にどうしたの? 二人とも、なんだか気まずそうじゃない?」
「い、いや、そんなことはないんだけどな……」
そこで火凛が視線を上げ、お前が説明しろよ、というように俺の顔を見た。
俺の方も、お前のせいでこうなったんだろ、と非難する視線で火凛を見た。
それと同時に、火凛の色素の薄い唇がなんだかいつもよりも赤く腫れているように、淫らに見えてしまって、慌てて俺は視線を逸らした。
同時に、火凛の方も全く同じタイミングで気まずく視線を逸らした。
その反応を見て、声を上げたのは風夏だった。
「あーっ! さてはカーちゃん、ジン君に課金シたな!?」
「うぇ――!? ふっ、フー姉、なんでわかった!?」
――本当にこの人は、なんでこんな簡単にボロ出すんだ?
俺がなにか言おうとする前に、どすどすどすどす、と風夏が玄関までやってくるなり、俺の身体をペチペチと平手で叩き始めた。
「うわ――! いっ、痛て……! なっ、なんだよフー!? どうして俺を叩くんだよ!」
「んもぉーっジン君のスケベ! スケコマシ! 昨日の私やさっきのカミラちゃんだけじゃ足りなくて、今日はカーちゃんともイチャイチャしてたの!? しかも雨に濡れながら! アレか!? 二人で燃え上がりすぎてずぶ濡れになってるのも気にならなかったってことなのかっ!!」
当たらずとも遠からずのことを言われてぐうの音も出ない俺がとりあえず攻撃から逃れようとすると、「なっ、なんだと――!?」と、今度は火凛が憤った声を上げた。
今度は火凛かよ! 俺が泣きたくなったその瞬間、両足の間に膝蹴りを叩き込まれ、ドアを背にした顔の横にドンッと手をつかれ、俺は乙女のようにうひゃっと悲鳴を上げた。
「ジン、お前ぇ――! さっきは二度も課金シてやったというのに、その前にカミラと浮気してたのか! フー姉やリン姉ならともかく、カミラはカタギだろう! 何回だ、カミラはお前に一体何回課金シたんだ!?」
「だから朝倉会長と俺とは何もねぇ! お前ら二人揃って何を勘違いしてくれてんだ! 大体課金とかいうふしだらなシステムを朝倉会長が知ってるはずねぇだろ! いい加減フーもカーも落ち着いて……!」
「そうそう、ジン君の言う通り。ここは落ち着いて? フー姉さん、カーちゃん」
――と、そこで林音が落ち着き払った声を発し、二人がかりの攻撃が止んだ。
おおっ、流石は林音! ここは生徒会副会長を務めた経験で俺を救ってくれるんだな!
俺がそう期待していると……トトト、とスリッパのまま玄関に降りた林音が、玄関の内鍵をかけ、ドアチェーンまでかけたのを見て、俺は目を見開いた。
「……さて、これで逃げられる心配はなくなったわね。それで、ジン君」
「おっ、おう」
「私ね、今日のジン君には少しキツいお灸が必要だと思うの」
くるり、と、そこで俺を振り返った林音の表情を、なんと表現すべきだっただろうか。
ニチャア、という感じで貼り付いた、どす黒い情念に凝り固まった笑顔。そしてその笑顔から放たれる、異様な、としか言えない、歪んで屈折しきったオーラ――。
これぞ「歪み姉ぇ」の本領発揮と言えそうなどす黒い怒りのオーラを纏った林音に、うわっ、と仰け反って逃れようとする一瞬前。
突然、林音が俺の首っ玉に両手で抱きつき、有無を言わさず俺の唇に貪りついてきた。
「んん!? んんんん――――――――っつ!?」
じゅるじゅるじゅるじゅる、と、まるで俺自身に聞かせるかのように音を立てて俺の唇を吸った林音は、たっぷり十秒ほども俺の唇を蹂躙した後、ぷはっ、と音を立て唇を離し、服の袖で口許を拭った。
途端に俺は腰から力が抜け、びちゃびちゃに濡れた玄関の床に尻餅をついた。
「んっ……んふふ♪ お仕置き、できたかしら?」
「りっ、林音、おっ、お前、突然何を……!?」
「今のはお仕置き課金。あんまり浮気性のジン君には罰と対策が必要でしょ?」
お仕置き課金。その言葉に、風夏も、火凛も、同時に色めき立つ気配を感じた俺の背中に怖気が走った。
「今日のジン君ったら、私たちに対して随分とナマイキよねぇ? こんな仲良しこよしが三人もいながら、アレだけ堂々とカミラちゃんと浮気しまくった上、カーちゃんをも弄んだんだから。ここいらで一発、ジン君はとっくのとうに私たちのモノなんだって、身体に……いや、魂に刻み込んでおく必要があると思うの」
「なぁーにをトチ狂ったこと言ってんだお前!? ワケわかんないこと言うな! おっ、俺はもう帰る! たっ、頼むから帰してくれぇ――!!」
「おおっ、流石はリンちゃん、いいこと言うねぇ。ここいらでナマイキなジン君をカミラちゃんの下に走らせないように釘刺しておく必要があるよね!」
「ああ、今日のジンはジンの癖に随分とナマイキだな。フー姉ぇもリン姉ぇも、ここいらで一発イっとくか? ジンへのお仕置き廃課金祭り――!」
廃課金。その言葉に、俺はこれから来る天国――否、地獄を予想して震えた。
顔に貼り付いたパックを無造作に投げ捨てた風夏、濡れた頬をひくひくと痙攣させている火凛、そしてニコニコ笑顔の林音に追い詰められ――俺はその時、冗談ではなく、涙を浮かべて哀願した。
「あっ、あのっ、ほっ、本当に勘弁して! そっ、そんな三人がかりで廃課金なんかサれたら、いくら俺でも……! う……うわぁ、誰か助けて!! いやああああっ!! あ―――――――――れ――――――――――っつ!!」
――雨のしと降る夜の八時半、御厨家の玄関に俺の悲鳴が響き渡った――。
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