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苦手な相手

「朝倉会長、これ今年度の生徒会の議事録ですけど、これはしまっちゃったらマズいんじゃないですか?」

「んん、どれどれ? ……ああ、確かにこれはマズイね。生徒会室行きのところにまとめておいてくれ」

「了解です。それとこれ、生徒会が三か年計画で取り組んでた課題をまとめた資料っぽいですけど、これも後で必要になる資料ですよね?」

「おっ、それも見つけてくれたか。うふふ、相変わらず実務となるとずば抜けてキミは優秀だなぁ」

「おべんちゃらは結構ですんで会長も手を動かしてくださいよ。全くもう、アンタという人は下々が額に汗して働いてるところを見ると物凄く嬉しそうな顔するんですから」

「んもぉ~、相変わらずキミは発言がドSすぎる。ボクだから怒らないけどね、人にそんなこといつも言ったら友達無くすぞぉ?」

「ちょちょ、肘で脇腹グリグリしないでくださいよ、荷物持ってるんですから……!」




 何故なのかいつも以上に上機嫌の朝倉会長のスキンシップに苦言を呈していた俺は、ふと視線を感じて顔を上げた。


 見ると――風夏と林音が、物凄く湿り気の多い表情で、俺と朝倉会長を見つめていた。




「え、なんだよ?」

「……ジン君とカミラちゃん、さっきからなんかすっごく仲良さそうだね。幼馴染の私たちよりも距離感近くない?」

「あん? 別に仲良くはねぇよ。この人が後々になって押し付けてきそうな面倒を俺が先回りして潰してるからやり取りが多くなってるだけでな」

「それってつまりよっぽど気心が知れてるってことじゃないの。相手のしてほしいこと全部予想して立ち回るとか……」 

「林音まで何を言うんだ。それにこの人の世界観はお前らだって理解してるだろ? この人は南斗鳳凰拳のサウザーみたいな人なんだよ。この人にとって一番使いやすい下僕が俺ってだけで、実際は物凄く不名誉なことなんだぞ?」

「んふふ、さっきから随分ボクのことを悪しざまに言うじゃないか。流石にちょっと不愉快になってきたぞ、このド畜生男め……!」

「――アッ、や、やめてください会長! 今時グリグリ攻撃とか! このご時世に野原みさえですらやらなくなったんですよ! いだだだだ!!」




 朝倉カミラの背後からのこめかみグリグリ攻撃に悲鳴を上げていると、風夏と林音の視線から感じる湿度が更にしっとり感を増し、おや? と俺は眉間に皺を寄せた。


 姉妹の中で一番子どもな風夏の頬がぶうっと膨らみ、林音はなんだかツンと視線を逸らしてしまっている。




「……なんだよ? なんかお前ら怒ってないか?」

「いいや別に、そんなことはないけどさぁ」

「でも、こんなに堂々とくっつかれると流石に、ねぇ?」




 その一言に、あら、と声を上げた朝倉カミラが俺のこめかみから両手を離した。




「ああ、これは失敬。いくらなんでも幼馴染であるキミたちの前でこの男を独占しすぎたのはよくなかったな。見ろ森崎神秀。あんまりキミがボクの手を煩わせるから彼女たちヘソを曲げてしまったじゃないか」

「はっ、はぁ――? 毎度のことですけど流れるように人のせいにしないでくださいよ! アンタが始めたんでしょうが!」

「ああ、すまなかった二人とも。これからは真面目に仕事するから機嫌を直してくれ、な?」




 ようやく真面目に仕事する気になったか……と俺が仕事に戻ろうとすると、風夏が「ちょっと」と耳打ちして俺の服の裾を摘み、書庫の隅の方に引っ張っていった。




「こ、今度は風夏か。なんだよ?」

「ジン君、本当にカミラちゃんが元カノだったりしないよね? 絶対に違うんだよね?」

「え? だっ、だから、そんな事実はない! 金輪際ないんだって! この間からお前は何を疑ってんだよ!?」

「だってさっきから幼馴染の私たちをほっといて物凄く仲良さそうなんだもん! 中学校のたった三年であんなに仲良くなれるのっておかしくない!? なんか私たちより本当の姉弟みたいじゃん!」




 そう言われて、うぐっと俺は唸り声を上げた。




「だから、そんなことはない。あの人と俺は仲良くない、むしろこの間言ったように俺はあの人が苦手なんだ。ホントだよ」

「しらじらしいぐらいに嘘じゃん。今のやりとり見てたら」

「だっ、だから――! あんな雲の上すぎて宇宙人みたいな人と、至って一般庶民の俺だぞ!? 多少接点があったからってそんなお近づきになれるわけないだろ!?」

「お近づきになってるじゃん。既に、十分に」




 ぐっ――! ともう一度唸って、俺は咳払いをしてから、冴えた声を発した。




「とっ、とにかく、お前らが勘ぐるような繋がりはなにもない、なにもないんだ。あの人と俺とは住む世界からして違う、そうだろ? な? 頼むから納得してくれよ」




 俺が自分自身に言い聞かせるように言うと、不承不承、という感じで風夏が頷いて、仕事に戻っていった。


 ふぅやれやれ、と頭を掻いた俺が資料整理に戻ると、またしても後で必要になりそうな資料を見つけた。


 反射的に顔を上げて朝倉カミラを見てから――いやいや、と今しがたのやりとりを思い出した俺は首を振り、近くにいた林音の背中に声をかけた。




「なぁ林音、ちょっと目を通してほしい資料があったんだけど――」




 その声に振り返った林音の顔を見て――俺はうわっと声を上げてたじろいだ。




「んー、何かなジン君? 何の用?」




 その時の林音の表情を、一体どのように例えようか。


 そう、それはまさに聖者の微笑み(アルカイックスマイル)を浮かべた修羅そのもの。


 笑顔の形に保たれている表情とは裏腹に、その背後からは後光のように猛烈な怒気が噴出していて、うひゃっと俺は身を竦めた。




 これは――俺は小学校二年生の春の出来事を思い出していた。


 あの時俺は、御厨家の冷蔵庫の奥の院に安置されていた林音のプリンを勝手に食い、そのままリビングで寝てしまったのである。


 あの後林音から喰らったおよそ二時間の折檻と、その最中にずっと顔に貼り付けられていた不気味な笑顔は、いまだに俺の人生の『思い出したくない光景ランキング』不動の二位なのだ。


 あの時の顔だ――そのことを思い出した俺の全身からぶわぁっと冷や汗が吹き出た。




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