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遅いよ、ダーリン

 声をかけた瞬間、風夏が目を丸くして俺を見た。


 と同時に、日に焼けて末期ガン患者のような肌色をした男子生徒が三人、俺を振り返って険悪な目をした。




「あ? お前誰? 今取り込み中なんだけど……」

「わかります。けれど彼女、困ってるんですよ。そろそろ解放してあげてください」

「はぁ? いきなり現れて何だよお前。取り込み中だって言ってんだろ。どっか行けよ」




 不機嫌さを丸出しにして、おそらくリーダー格なのだろう男の一人が片眉を持ち上げた。


 思ったよりガラは悪くないが、どれもこれもあまり気の長そうなタイプには見えない。


 なおかつ、今の言葉には明らかな苛立ちが含まれていて、あまりいい雰囲気ではなかった。




 仕方なく――俺は背後の風夏に目配せした。




 かきん。


 その口の動きに、瞬時困ったような表情を浮かべた風夏が――次の瞬間、はっと何かを察したような表情になった。


 その動作に、他校生はますます苛立ったようだった。




「は? なんだよ? 何を俺ら抜きで勝手に会話してんの? いいから早くどっか行かねぇと――」




 男子生徒の言葉が終わるより先に、地面を蹴り、囲いを飛び出した風夏が俺の胸に飛び込んできた。


 それを両腕で受け止めると、さっと顔を上げた風夏が俺の目を一瞬だけ覗き込み――それから意を決したように背伸びしてきた。




 ちゅっ、と、右の頬に一瞬だけ温かく湿った感触がして――すぐに離れた。


 離れてから、風夏は実に手慣れた所作で俺の左腕を取り、媚びるような視線とともに顔を見上げてきた。




「遅いよ、ダーリン」




 ダーリン――もっと気の利いた呼び名はなかったのかよ。


 その呼び名にはゲンナリとしたが、他校の男子生徒たちは案の定、目を見開いて固まってしまった。


 俺と風夏は一瞬だけ視線を交わしあった後、男子生徒たちに同時に向き直った。




「あの、こういうことなんです。わかりましたよね?」




 敢えて詳しいことは言わずにそう宣言すると、しばらく呆気にとられていた様子の他校生たちの中、リーダー格なのであろう男が、明らかに威勢を削がれた表情で頭を掻いた。




「ん、んだよ、彼氏と一緒だったのかよ。なら早くそう言ってくれればいいのによ……」

「ごめんなさいね。この人はこういう人なんです。なんとか皆さんに失礼がないように断ろうとしてたようなんですけど――」

「ちっ、悪かったよ。彼氏さんの前でナンパなんかしちまって。悪く思わないでくれよ」




 そう言って、他校の男子学生たちはあーあと聞こえるようにため息をつきながら、足早にその場を去っていった。


 後には、俺と風夏だけが残された。




 詰めていた息を吐き出し、隙間なくくっついていた風夏から離れようとすると――俺の左腕を抱き締めていた風夏が、離れまいかとするように腕に力を込めた。


 少し驚いて風夏を見下ろすと、にまーっ、という感じで風夏が笑みを深めた。




「おつかれジン君、助けてくれてありがとね」

「全くもう、お前ぐらいナンパにひっかかりやすい奴はいないぞ、フー。なるべく明るいところ歩いて、声かけられても取り合うなっていつも言ってるだろ?」




 俺は風夏の頭を撫でながら、まるで小さい子に言い聞かせるかのように説教した。




「俺がいたからいいようなものを。お前は少しは他人を警戒するってことを覚えろ。子供の頃からいつも他人に対して無警戒なところは相変わらずなんだから……」




 そう言って俺がやんわりと左腕に纏わりついた風夏を引き剥がそうとすると、ぎゅっ、と、逆に風夏の腕に力が入った。


 途端に、むぎゅう、とばかりに俺の腕を押し潰す脂肪の圧力が高まり、俺は少し驚いた。




「な――なんだよ」




 風夏は視線を上げないまま、そこで風夏が少し沈黙した後、ぼそり、という感じで言った。




「大きくなったでしょ、私のおっぱい」




 ――突然何を言うんだ。


 その一言に、俺は目をぱちくりと瞬いた。


 にひひ、と、何かたちの悪いいたずらを思いついた表情で風夏が笑みを深めた。


 それと同時に、俺の腕に感じる柔らかな感触が更に圧力を増し、流石の俺も恥ずかしくなってきた。




「さて、帰ろっか。ほら、エスコートしろし」

「だ、だから、腕を離してくれ。あ、あのな、当たってんだよさっきから……!」

「ふふっ、今時懐かしいフリするねぇジン君。あててんのよ」

「おっ、お願いだからからかわないでくれ、幼馴染相手でも流石にこういうのはちょっと……」

「なによ、今はダーリンなんだから当たり前でしょ? ほれほれ、よいではないかよいではないか」

「もっ、もう……! これを誰に見られて勘違いされても知らねぇからな! 帰るぞもう!」




 俺はとうとう根負けし、物凄く巨大な物体に腕を挟まれる柔らかな感触にどうにか耐えながら、俺たちの家がある方に向かって歩き出した。





「面白かった」

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