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《 第二部 スタート!》第十三幕 誰がそれを赦すというのか?・・・嗚呼・・・。

コツン、コツッ。

宵闇の静けさに打ち込まれるかのような音を彼の耳が捉えた。

今か今かと、それを待ち構えていたもののように窓辺に駆け寄ると、彼はガラス窓を大きく開いた。


黒闇に溶け込んでいるかのような大きな鳥が窓枠に足を掛けてじいっと彼を見つめる。

「よくきたな。」と鳥を労わるように声をかけると、彼はその大きな黒い鳥を部屋の中へと誘った。


バッサと翼を広げた鳥はスッと執務机の上に降りると慣れた様子で机の右上に置かれた半球体の水晶にコツンと嘴で触れた。

その瞬間、光を帯びながら硬質から軟質へと融解するかのように水晶が薄い膜へと変化していき、その中に織り込まれたかのように文字が浮かび上がってきた。


彼はそれに手を差し伸べると、文字が練り込まれたままのその膜が彼の方に吸い寄せられていく。

彼はそれを掌で滑らすようにして文字を読み始めた。


「そうか。無事に・・・。」


ボソリと呟く彼の表情は安堵のようにみえるが、陰影を帯びた横顔からは彼の内に秘められたものの険しさが伺える。

彼は任務を終えてじっとそこに待機しているかのようにじいっと彼から視線を外さない鳥の視界に自分に瞳をぶつけながら、言葉を放った。


「それで、お前は?」


互いに視線を外さないまま砂時計の中で傾斜が流れ落ちるかのような沈黙の後に、数秒が経っただろうか。


いつの間にか水晶の光は失われており、バッサという音が部屋の静寂を破った。


大きな羽をはためかせて彼の頭上に飛んだ鳥は彼の脳裏に言葉を零すと、自らの翼で仰ぐように生んだ風によって開かれた窓に勢いよく向かって飛ぶとそこから暗澹たる夜に溶けるかのように飛び去っていったのだった。


そう、彼にその一言だけを遺して。


「※《パクタ・スント・セルウァンダ》を絶つ。それだけだ。」

※契約法で用いられる《合意は拘束する》という成句



暗闇に独り佇む彼はそこに遺された言葉の余韻に心が霧散されていくような錯覚を自身に赦すことで、絶望が切望に蕩かされればよいものをとさえ願ってしまう己の愚かさを吐き出すかのように溜息をついた。



ああ。お前が“ユス・コーゲンス”(強制規範)となるというのか?その全てを懸けて?

彼女をその”拘束された運命”から解き放つ為に・・・。




ルキウス・カーミレンド・セレフィロソネアは鳥が飛び去った窓辺に寄ると、開かれた窓から黒闇の空を見上げた。

先程から雲間に閉じこもっていた月が漆黒の夜を柔らかく包む込むかのように天を微笑む様が、彼を覆いつくそうとした沈鬱さを浄化していく。


「では、私は私のすべきことを成そう。それが多少なりとも彼らの枷を溶かす律となるように。」



その夜を境にして皇国は大きく動き始めることとなる。

そう、女王不在のこの時、女王の名において、宰相ルキウス・カーミレンド・セレフィロソネアは皇国四大家門を緊急招集したのである。




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