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裏の顔がヤバいイケメン君が狙う美少女を助けてから、気づけば彼のハーレムごとブチ壊して美少女全員オトしていました  作者: 本町かまくら


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第80話 あたしたちにできること


 大盛況の教室で、必死に手を動かす。

 

 それは終わったはずなのに嫌な予感を感じる自分を、どこか紛らわせようとしていたのかもしれない。

 少し忙しさも緩んだタイミングではっと気が付く。


「……一ノ瀬?」


 さっきまでいたはずの一ノ瀬がどこにもいない。

 


 ――ドクン。



 なんだ、これは。

 嫌な予感がさらに増す。

 そのとき。



「おい、なんだあれ」

「見ろって屋上!」

「え? なにあれ」

「須藤じゃね?」

「一緒にいるのは……一ノ瀬?」



「ッ!!!!!!」


 慌てて校庭側の窓から顔を出す。

 しかし、ここからじゃ状況がわからない。

 クソッ! でも今、確かに一ノ瀬って……。



「――みんなッ!!!」



 慌てた様子でやってきた実行委員。


「大丈夫⁉ 顔が……」


 実行委員の顔には殴られた跡のようなものがあった。

 


 ――ドクン。



 強く脈打つ心臓。

 実行委員は鬼気迫る様子で言った。





「一ノ瀬さんが須藤に攫われた! それで今、屋上に!」





「ッ!!!!!!!」


 その瞬間、俺は教室を飛び出していた。

 考えるよりも先に体が動いていた。


 何してんだ俺は……!

 忙しさにかまけて、須藤に一ノ瀬を攫われてんじゃねぇか!

 情けない……情けないッ!

 どうしてあれだけ須藤の醜さを理解していながら後手に回ってるんだ。

 一ノ瀬は俺にとって大切な存在なのに……。


 脳裏にちらつくのは、須藤に燃やされた家。

 何もできずに、ただ燃えていくのを見ているだけしかできなかった。

 あれと全く同じだ。

 俺は……クソッ!

 急げッ! 急げ……ッ!!!


「良介くん!」

「九条!」

「九条くん!」


 花野井たちが俺の後に続く。


「一ノ瀬さんが攫われたって!」


「屋上だよね!」


「あぁ!」


「でも……」


「ッ⁉ くっ……」


 人で溢れかえる廊下。

 通り抜けられるスペースはなく、なかなか進めない。

 さらに……。



「ねぇ聞いた? 須藤くんの話!」

「今ヤバいんでしょ?」

「特設ステージから見えるって!」

「早く行こ!」

「でも全然進めないよ!」

「押さないで!」

「早く進めよ!」

「何ちんたらしてんだ!」

「前の方早く行ってくれ!」



 人の大きな流れは屋上に続く階段とは逆方向で、より進むのが難しい。

 しかもみんなこの混雑状況や須藤のことも含め混乱しており、完全に詰まってしまっていた。


 マズい……!

 このままじゃ手遅れになる!

 せめてみんなが落ち着いてくれれば……!


「一ノ瀬……!」





     ♦ ♦ ♦





 ※瀬那宮子視点



 人の流れに逆らいながら進んでいこうと人ごみをかき分ける。

 

 しかし、みんなが混乱していて全然進むことができなかった。

 それでも進もうと、九条が必死に階段に向かっている。

 けど、廊下が人で溢れかえっていて階段にたどり着きそうにない。


 今すぐ北斗のところに行かなきゃいけないのに。

 九条はそれを望んでいるのに……。



「一ノ瀬……!」



「ッ!!!」


 九条の真剣な表情。

 それはいつものように私たちを助けようとしてくれるときの顔でありながら、でもどこか違う。

 いや、明らかに違う。


 間違いなく“特別”な思いのこもった表情だ。


「……そっか」


 わかっていた。

 けど、まさか今この瞬間に確信しちゃうなんて……あまりに急すぎる。

 それでも覚悟はできていたことだから。

 それにあのとき、空き教室の前であたしたちは思ったんだ。


 好きな人が幸せであることが、一番大切なんだって。


 それがあたしたちの幸せ。

 九条に助けてもらって、好きになった“あたし”が唯一できるお礼だ。


「彩花、弥生!」


「「……うん!」」


 二人と顔を合わせると、今度は人の流れに乗って教室に戻る。

 そして窓枠に身を乗り上げると、なるべく大きな声で、ほんと告白するみたいに。

 気持ちいっぱいに叫んだ。




「みんな落ち着いてーーーーーーッ!!!!!!」




 あたしの声が混乱に満ちた廊下に響き渡る。

 しんと静まり返る廊下。

 

「慌ててたら怪我しちゃうから、一旦落ち着こう!!!」


「大丈夫だよ~~~! ゆっくり、周りの人に優しくね~~~!」


 彩花、弥生が続く。

 するとみんなの足が止まった。



「慌ててもしょうがない、よな」

「ごめん、押しちゃって」

「一旦落ち着こう!」

「怪我したら危ないもんな」



 みんなが落ち着きを取り戻す。

 そのおかげで徐々に人との間に余裕が生まれていった。

 通り抜けられない密度じゃ――ない!




「九条! 今のうちに行って!!!」




 精一杯叫ぶ。



「良介くん! お願い!!!」


「一ノ瀬さんを助けて!!! 九条くん!」



 あたしたちにできることはこれくらいだから。

 だから気にせず行って、九条……!




「みんな……ありがとう!」




 九条があたしたちの方をちらりと振り返ると、階段に向かって進み始める。

 そしてすぐに階段にたどり着くと、一気に駆け上がっていった。


 あっという間に行ってしまった。



「……ありがとね、九条」



 ぽつりと呟く。

 その言葉が少しでも九条の背中を押してくれたらと祈りながら。





     ♦ ♦ ♦





 一ノ瀬……一ノ瀬!


 階段を駆け上がる。

 早く、もっと早く!

 

 腕を振り、息を切らし。

 遂に見えた屋上の扉を、吹き飛ばす勢いで開け放った。




「須藤ッ!!!!!!!!」




 一気に開ける景色。 

 青空が視界いっぱいに広がる。


 そこにいるのは一ノ瀬と――須藤。



「ヒヒッ。よく来たなァ、九条……!!!!!」



 須藤と面と向かい、睨み合う。

 

「待ってたよ。じゃあ始めようかァ……正真正銘、最後の勝負ってヤツをよォ!!!」



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