第77話 バレた裏の顔
文化祭二日目が始まった。
うちのクラスの客入りは昨日よりも多く、相変わらず忙しなく働いている。
どうやらクラスの出し物一位を狙えるくらいに大盛況らしかった。
その結果発表は校庭に設置された野外特設ステージにて、プログラムの最後にされるらしく、すでに配信もスタート。
校外からもかなりの人数が来校していて、配信でステージの模様を見ている生徒も多いようだった。
「もうすぐ文化祭終わっちゃうねー」
「寂しいね~。あんなに楽しかったのにさ~」
「あたしたちにはまだ来年あるけど……名残惜しいのは間違いない」
パンケーキを焼きながら、ボーっとそんなことを話している花野井たち。
確かに名残惜しい。
こんなにも学校行事で充実していて楽しかったのは初めてだ。
きっと今日という日を俺は忘れないだろう。
「あれ? 須藤来てない⁉」
慌てた様子でやってくる男子生徒。
「須藤くん? 来てないと思うけど……」
「マジか! もうシフトの時間になってるっていうのに……あと千葉も! あの二人全く参加しないな……ほんと、どうなってんだよ……」
男子生徒が頭を抱える。
「なら俺が残るよ。次休憩だけど、別に回りたいところないし」
「私もこのままいるわ。このお客さんの数で二人足りないの、相当痛手でしょう?」
「九条、一ノ瀬……! ありがとう! よろしく頼むよ!!!」
むしろこっちとしてはこうして働いている方が楽しいしな。
何もしてなければきっと気になってしまうから。
ふとスマホを見る。
時刻は十三時を過ぎたあたり。
……そろそろ、か。
「良介、あの人たち来てないって言ってたけど……大丈夫よね?」
一ノ瀬が不安そうな顔で俺を見てくる。
一ノ瀬も嫌な予感を感じているらしい。
「大丈夫だ、絶対に」
俺は自信を持ってそう言う。
それが伝わったのか、一ノ瀬は安心したように笑みをこぼした。
「そう、ならよかったわ」
抜かりはない。
何も心配になる必要はない。
すでに準備は整っている。
あとは“須藤が”どうするか、だ。
♦ ♦ ♦
※須藤北斗視点
個室トイレの中。
俺はじっと配信を眺める。
ニヤニヤが止まらない……止まらないよぉ!
下っ端曰く、あと少しで実行されるらしい。
「これで評価が覆る。アイツを見る目が全部ひっくり返るぜ……クックックッ」
俺がやろうとしていること。
それは配信を乗っ取り、とんでもねェ動画を流すこと。
昨日アイツに殴られる映像は撮れなかった。
……けど、今の技術があればいくらでも捏造可能なんだよなァwww
だから俺は、急いで下っ端にフェイク動画を依頼。
アイツの顔に加工された男が女をめちゃくちゃに犯す動画やクスリでキマる動画。
そのほかにも雑魚をボコボコに殴りつけ、ケラケラと笑う動画など、アイツの評判が地に落ちるモノばかりを用意した。
これが配信で流れ、一瞬にして全校生徒……いや、もっと広く拡散されることでアイツの社会的地位が終わる!
「ヒッヒッヒッ、これでアイツは終わりだァ……!」
下っ端から連絡が入る。
『実行します』
思わず口角が上がる。
……よしィ。
これで終わりだァ……!!!
「いけェッ!!!!!!!!」
配信の映像が乱れる。
そして映像が切り替わり、俺の用意した動画に……。
――この映像はマジで意味ねぇモンだけど、万が一のためにない方がいいからなwwwだから……こうさせてもらうぜッ!!!
――アハハハハハハッ!!!! 残念だったなァ!!!!
「……へ?」
これは体育祭後、俺がアイツのスマホを割った……。
あれ?
なんでこの動画が?
つーかなんだこれ? うぇ?
――俺のこと好きだったんだよな? なら九条より俺を優先しろよ! なァ、弥生……!!!
――うわぁあああああああああああッ!!!!!
こ、これは俺が弥生に言った……。
なんだこれ……なんだこれェッ⁉
――毎回毎回、俺の邪魔ァしやがって……
――口答えしてんじゃねェ!!!!
――クソ野郎がァ……
これはテスト後の……。
なんでこの動画が流れてんだ⁉
俺が用意した動画は⁉
アイツを貶める動画は⁉⁉⁉
――俺様は負けねェんだ……最後は全部、俺様の思い通りになんだよォ……
――俺のォ、俺のォ……俺様の女ァ!!! なのに何で、どうして……九条サイドにいやがんだァ!!! なァ! おいッ!!!
こないだの病院でのォ……!
「ハァ⁉⁉⁉ どうなってんだァ!!!! なんでアイツじゃなくて俺様の動画が流れてんだァ⁉⁉⁉」
つーかこれ、全校生徒に配信されて……。
「アァ……アァ! アァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
慌ててトイレから飛び出し、廊下に出る。
「ね、ねぇなにこの動画」
「須藤くんだよね?」
「これマジヤバくね?」
「キモすぎだろアイツ……」
「私須藤くんのこと好きだったのに……」
「マジありえねぇわwww」
「終わってんなアイツ」
「俺は前から信じてなかったけどな」
「わかるwww」
「最近おかしかったもんな」
「きっしょーww」
「私須藤くん推すの辞めるわ」
「私も」
や、ヤバい。
知られた……俺の“裏の顔”が、全校生徒にィ……!!!
うぐっ、クッ……!!!!
「グァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」
どうなってんだよこれはァアアアアアアア!!!!!




