第73話 文化祭が始まる
着々と“準備”が整っていく中。
学校でも俺はとある準備をしていた。
それは……。
「あと数日で文化祭! やっぱりこの準備期間が最高だよね!」
「授業もないしね~」
「ちょっと二人とも、手止まってるよ。看板とかまだ終わってないんだし、話すにしても手は動かす」
「そ、そうだった! 頑張ろうっ!!!」
「お~~!」
看板づくりを一任された瀬那を中心に、作業を進めていく。
そう、夏休みが終わってすぐにある一大行事――文化祭が間近に迫っていた。
今は授業もない準備期間に入っており、学校全体が浮ついた文化祭ムードに包まれている。
去年は教室の隅で折り紙を折り続けるという苦行を課されていたが、今年は花野井たちと一緒に作業だ。
「良介、ハサミ取ってくれる?」
「はい」
「ふふっ、ありがとう。大丈夫? 終わりそう?」
「俺の分はちょっと放課後に残るかもな」
「なら私も残って手伝うわ。私の分はもう終わりそうだし」
「いいのか?」
「いいわよ。だってこういうのは助け合いだもの」
「そっか。ありがとな」
「どういたしまして」
できるだけ放課後に残さないように、今のうちに頑張らないとな。
一ノ瀬と並んで床に座り、黙々と作業を続けていると……。
「「「じーっ……」」」
すぐ近くに座っている花野井たち三人に見られていることに気が付く。
「ど、どうした?」
「……いや、別にぃ?」
「ま、別にあたしはまだ負け認めたわけじゃないし?」
「ただまぁ、なんていうか~って感じだよね~」
「え?」
三人が何を言っているのかわからない。
首を傾げていると、瀬那が俺の方にすり寄ってきた。
「あたしも放課後、手伝ってあげる。なんなら一ノ瀬さんいらないかもね?」
「……は?」
一ノ瀬が瀬那を睨みつける。
しかし瀬那は負けじと一ノ瀬に視線を返した。
「私の方が手先器用だし。手伝うって言う点で言えば適任はあたしの方だよね?」
「そこまで効率重視しなきゃいけない作業量じゃないわよ。でもあなたがそんなに“暇”なら別のところ手伝ってあげれば? 手先器用なんでしょ?」
「……あ?」
「あ?」
俺の間で争うのやめてくれ……。
すると今度は葉月が、二人が争っている隙に俺のところにやってくる。
「二人とも怖いね~。九条くんも、ほわほわって感じで作業できる方がいいよね~?」
「え?」
「いいよね~?」
「そ、そうだな」
「なら私が適任だね~。ゆるゆるっと一緒に作業しよっか~」
「ちょっと弥生⁉ 何抜け駆けしてんの⁉」
「ほわほわとかゆるゆるとかいらないから。これは遊びじゃなくて仕事なのよ?」
「メリハリも必要でしょ~? それにほら、もっと笑顔じゃないと女の子は可愛くないよ~」
「「なっ……!」」
葉月の言葉が響いたのか、一ノ瀬と瀬那がぎこちない笑みを俺に向けてくる。
「ど、どう九条? ちゃんと笑顔でしょ?」
「私も笑顔よね? というか、私の方が笑顔よね?」
「えっと……」
「笑顔に上とかないでしょ。何言ってんの?」
「あ?」
「あ?」
やめて!
俺を間に争うのやめて!
すると今度は花野井が、もじもじしながら俺の方にやってくる。
「なんか三人揉めてるし、私が手伝ってあげるよ! ほら、その、色々……えへへ」
「「「っ!!!」」」
「このむっつりスケベ!」
「彩花、あんたいくらおっぱいが大きいからって誘惑するのは……」
「破廉恥だね~」
「破廉恥⁉ そういう意味で言ったんじゃないってばーー!!!」
目の前で繰り広げられる喜劇のような光景に、思わず笑みがこぼれてしまう。
「みんな、ありがとう」
俺が言うと、争いをやめる四人。
そして顔を見合わせてふっと笑うと、柔らかな表情で答えるのだった。
「「「「どういたしましてっ!」」」」
♦ ♦ ♦
看板に使う材料が足りなくなったということで、五人で廃材を取りに外に出る。
すると昼を過ぎたあたりだというのに、校門から見知った二人が歩いてきた。
「おぉ、九条じゃねぇかw元気にしてたか」
「っ! 須藤……!!!」
「久しぶり、花野井さんw」
「千葉さん……」
千葉が須藤の腕に密着し、花野井に対して勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「元気にしてた? って元気なわけないかw私がこうして須藤くんをもらっちゃったわけだしwww」
「おい佳奈子。それ以上はやめとけ。可哀そうだろw」
「あははっ! そっかぁ、じゃあやめとくね?♡」
「いい子だ」
そう言いながら須藤が千葉の尻を揉む。
「あぁんっ♡ 北斗様ぁ♡」
恍惚とした表情を浮かべる千葉。
須藤がにやりと笑みを浮かべて俺を見る。
「俺がいない間、楽しめてたか? ほら、色々と」
「……そうだな。で、なんで急に学校に来たんだ?」
「文化祭があるからな。クラスに少しでも貢献しようと思って。それに見たい奴が何人かいたからなァwww」
須藤が下卑た笑みを浮かべながら一ノ瀬たちを見る。
そして満足した様子でふっと笑うと、歩き始めた。
「ま、せいぜい楽しもうぜ。お互いに、なwww」
俺たちの横を通り過ぎていく須藤と千葉。
その後ろ姿を眺めながら、俺は拳をぎゅっと握りしめた。
始まるんだ、文化祭が。
そして――
俺と須藤の最後の“勝負”が。




