第65話 四人からの拒絶
「――そこまでよ」
「ッ!!! 彩花、弥生……雫ッ!!!!!!!」
三人がやってきて、俺たちの横に並ぶ。
「どうしてみんなが?」
「瞳さんから良介くんが病院行ったって聞いて! 心配で飛んできたんだよ!!!」
「色々あったって聞いたよ~。でも、宮子ちゃんも無事みたいでよかった~」
何でわざわざ三人に教えたんだ瞳さんは。
……なんだろう。
瞳さんのからかい精神というか、そういうものが働いている気がする。
それはひとまず置いておいて。
「安心するのはまだ早いわ。目の前にいるでしょ? ――モンスターが」
「モンスターって」
確かに、精神崩壊した須藤には学校一人気者の面影なんてないし、爽やかさの欠片も感じられないけど。
「雫ゥ、彩花ァ……弥生ィ!!!」
須藤が三人を順に見る。
「俺のォ、俺のォ……俺様の女ァ!!! なのに何で、どうして……九条サイドにいやがんだァ!!! なァ! おいッ!!!」
「一つ訂正したいのだけど、元々私はあなたの女ではないわ。もちろん、彼女たちもそうよ。ちょっと仲よくしたくらいで勘違いするなんて……“俺様”も大したことないわね」
「うぐッ!!!!」
一ノ瀬の切れ味のいい言葉が、須藤を切り刻む。
「いい加減現実を見たらどう? あなたがどれだけ喚いたってこの状況は変わらないし、力づくで支配しようとしたって無駄よ。そんなのこの世界では許されてないし、私たちは屈しない。それに――良介がいる。あなたがどう頑張ろうと不可能よ。諦めなさい」
「ッ!!!」
さらに葉月が口を開く。
「聞いたよ~。もしかしたら宮子ちゃんの妹さんを攫ったのが須藤くんかもしれないってさ~。もし本当だとしたら、絶対に許せないよね~。ほんとに、心の底からね~?」
ニコニコしながら言う葉月だが、目が完全に笑っていない。
それに醸し出す雰囲気があまりに恐ろしく、普段ぽわぽわした葉月だからこそ、より怒っていることが分かった。
「そもそも~、宮子ちゃんにしつこくメール送るとかすごく気持ち悪いと思うな~。自分がダメだって、気持ち悪いってわからないのかな~?」
「ッ!!! な、何言って……」
「須藤くんの行動、行き過ぎてると思う」
「あ、彩花ァ……」
花野井が慎重に言葉を選ぶ。
その顔には、確固たる意志が感じられた。
「良介くんのスマホ壊したりとか、自分の思い通りにいかないと怒ったりとか……それで人は好きにならないよ。むしろ……嫌いになると思う」
「へぇッ⁉⁉⁉ き、嫌い⁉ 嫌いィ⁉⁉⁉」
「私も、ほんとに須藤くんが萌子ちゃんを攫ったんだとしたら許せないし、これまでの行き過ぎた行動の全部を絶対に忘れない」
「あや、か……」
須藤の表情が絶望に変わっていく。
そんな須藤の前に、一ノ瀬が一歩踏み出した。
「はっきり言わないとあなたはわからないようだし、諦めないだろうから。だから私たちからちゃんと言わせてもらうわ」
すると花野井が、葉月が一ノ瀬の横に並ぶ。
そして須藤をとらえると、力強く言い放った。
「あなたを私が好きになることはないわ。――この先一生、ね」
「私たちに関わらないでほしい。好きになることはもう――ないから」
「大人しくしてくれる~? ありえないからさ~――好きになるなんて」
「グハッ!!!!!!!」
三人の言葉が、須藤の心と体に突き刺さる。
完全な拒絶。
これまで三人に、瀬那を含め四人に固執してきた須藤にとって、この言葉たちがどれほどのダメージなのか……もはや想像もできない。
しかし、自尊心の高い須藤の心をへし折るにはあまりに十分だった。
「俺、は。俺様、はァ……」
須藤が胸を押さえる。
それでもまだ四人のことを見るのか、お前は。
でも、ここで終わらせなければいけない。
これ以上、須藤のせいで悲しむ人を増やさないためにも。
ここで須藤の心を完全に折り、諦めさせなければいけない。
瀬那が三人に並ぶ。
どうやら瀬那も同じ気持ちのようで、須藤を力強く睨んだ。
俺は四人の前に出て、須藤を見下ろす。
「もう一度言う。これで最後だ、須藤」
そして自分が出せる最大級のプレッシャーを放ちながら言った。
「二度と四人に関わるな。もし、また手を出してきたら――容赦はしない」
「ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
須藤が再び尻餅をつく。
するとじわーっとズボンの股の部分にシミができ始めた。
あまりの恐怖に失禁してしまったらしい。
「おい! いたぞ!!!!!」
背後から声が聞こえてくる。
荒瀧組の組員数名が、須藤を見て走り出した。
「北斗様ッ!!!」
運転手と男数人が須藤を担ぎ、車に連れていく。
運ばれる間、須藤は魂が抜けたような顔でだらんと脱力していた。
あの顔。きっともう須藤には、俺たちに手を出す度胸も力も残ってないだろう。
「終わった、か」
夏の空に向かって、一言呟く。
――しかし、これで終わりではなかった。
むしろ終わりの始まりで。
俺はそのことを、最も“最悪”な形で思い知らされるのだった。




