第61話 反響する叫び声
※須藤北斗視点
ど、どうなってんだこれはァ!!!
今度こそ選りすぐりの精鋭を集めてきたっていうのに、アイツ一人にやられてんじゃねェか!!!
でも最後の一人は裏社会で実戦経験を積んできた相当な手練れ。
だってのに……九条の圧に怯んでる⁉⁉⁉
つーかなんだアイツの雰囲気は!
さっきまでと、これまでと全然違う!!!
全身から漂う殺気!
遠くにいる俺でさえ、こんなに鳥肌が立ってやがる!!!
俺の計画が、また……クッ!!!
「おい! いつでも逃げれる準備をしておけ!!!」
「は、はいッ!!!」
さっきアイツ、俺の方見てたしなァ……。
でも、ただで負けんじゃねェぞ。
いや、負けるな! 何をしても、宮子を俺のとこに連れてこい!
それで自ら俺に……ヒヒヒヒ!!!
舌を出しながら股を開くんだ……!!!
だから何としてでも、そいつを屈服させろォッ!!!!
♦ ♦ ♦
一歩ずつ男に近づく。
男の額には先ほどまでにはなかった汗が滲んでいた。
顔も恐怖と緊張が滲んでいる。
「な、なんだお前。やるつもりか?」
「萌子ちゃんを解放しろ。そうすれば何もしないでやる」
「ず、随分と威勢がいいみたいじゃねぇか。だけどな、さっきやってわかった通り俺の方が実力はう――」
「――どうかな」
地面を蹴り、一気に間合いを詰める。
「ッ!!!!」
咄嗟にガードする男。
しかし、俺はガードの上から拳を食らわせた。
「うぐっ!!!」
男が俺の打撃を受け止めた腕を見る。
腕は赤く腫れ、俺の拳の跡がくっきりと残っていた。
――まだだ。
再び間合いを詰め、連打を繰り出す。
一、二回目は防がれるも、先ほどのダメージの影響か俺の速度に追いつかず脇腹に一撃。
「グハッ!!!」
さらに足、顔、腹に次々と攻撃を入れていった。
明らかに動きが鈍っていく男。
「なんなんだお前は! さっきと動きが全然……!」
「――これで終わりだ」
完全に反応が遅れる男。
俺は勢いを拳に乗せて、顔面に右ストレートを目いっぱい放った。
「グハッ!!!!!!!」
吹っ飛ぶ男。
ガシャン、とドラム缶に体を打ち、うずくまった。
「クッ……」
あれだけの攻撃を食らったら、さすがにもう動けないだろう。
勝利を確信し、萌子ちゃんを助け出そうと一歩を踏み出す。
――そのとき、傷だらけの男がニヤリと笑みを浮かべた。
「ッ!!!」
立ち上がると、男が萌子ちゃんの下に駆け出す。
危機を察して俺も同時に地面を蹴ったが、男の方が早く。
男は萌子ちゃんを腕の中に収めながら、首元にナイフを突きつけた。
「それ以上近づいたら、こいつを刺す。冗談じゃねぇぞ。それは俺と拳を交えたお前ならわかるよな?」
間違いない。
こいつならやる。人の命を奪うことができる。
「……わかった」
俺が言うと、男は少し間を置いてからケラケラと笑い始めた。
「アハハハハハハッ!!! 惜しかったなぁ若造。確かに強さは認める。けどな、強さだけじゃ掴めない勝利がこの世にはある。この子を守んなきゃいけねぇ今のお前がまさにそうだ」
背後で俺が倒した男たちがのろのろと立ち上がる。
意識を完全に刈り取るまでにはいかなかったか。
そして、あっという間に囲まれる。
「大人しく寝てな。――やれ」
一斉に男たちが襲い掛かってくる。
リーダーの男は萌子ちゃんの首にナイフを突きつけたまま、俺をじっと見た。
手を出せば、いつでも刺す。
……そういうことか。
「オラァッ!!!」
一撃、また一撃と攻撃が入っていく。
俺には何もできない。
ただ攻撃を受けるしかない。
「アハハハハハハッ!!! 残念だったなぁw」
男が勝利を確信した笑みを浮かべる。
警戒が少しずつ緩んでいく。
俺には何もできない。
ただ、男たちの攻撃を受けるしかない。
――今、は。
――ガシャンッ!
大きな音が響き渡る。
その瞬間、物陰に隠れていた人たちが一斉に飛び出し、男たちをあっという間に制圧していった。
「グハッ!!!」
真っ先に萌子ちゃんにナイフを突きつけていた男が吹き飛ばされ、ナイフが地面を滑る。
「大丈夫⁉ りょうちゃん!」
駆け付ける瞳さん。
よかった……“作戦通り”だ。
「荒瀧組の人たち、呼べたんだね」
「そりゃそうだよ! 組員襲われて、しまいには監視対象を連れ去られて、相当責任感じてるみたいだったし。それに……」
「困ってる人がいたら、放っておけねぇからな」
「荒瀧さん……!」
俺の視線を受けて、荒瀧さんがにっと笑う。
強面な顔だが、そこには確かな温かさがあった。
うちの店にやってくる常連さんは、みんな父さんと同じようにこういう顔を持っている。
「とりあえず安心しろ。これで制圧完了だ」
「ありがとうございます」
拘束された男たちを見渡しながら立ち上がる。
「大丈夫⁉ いきなり立ったら……」
「大丈夫だよ。全部急所は外してるし、傷も浅い」
「あははっ、さすがだな。良介くんは」
さて、これで一件落着か。
一応、全員いるか確認して……ん? 八人?
おかしい、全部で九人いたはずが……。
「九条ッ!!!!」
突如入り口から声が聞こえてきて振り返る。
するとそこには瀬那の姿があって。
ゆっくりと時間が流れる。
俺の方に向かって駆け出す一人の男。
手には先ほど飛ばされたナイフが握られていて、気づいた頃には俺のすぐ近くに来ていた。
後ろには瞳さんがいる。
これはもう――避けられない。
――ドンッ!
体に強い衝撃が加わる。
ぽたぽたと地面に垂れる赤い血。
「九条っ!!!!」「りょうちゃんっ!!!!」
二人の苦しい叫び声が、倉庫内に響き渡った。




