5話「魔王と少しお話をしました」
「……実は、質問があるのだ」
その日魔王は突然私のところへやって来た。
特に何も報せられることなくその時が訪れたので少しばかり嫌な予感がしたりもしたのだが。
「ポポと仲良くしているそうだな」
「え? あ、はい。お世話になっています」
「ポポからも色々聞いている」
「あ、そうなんですね。では敢えてここであれこれ話す必要もありませんでしたね」
すると魔王は黙った。
でも何だろう?
言いたいことがある、というような顔をしている。
「ポポと気が合うのならば、これからもポポと仲良くしてやってくれ」
やがて魔王はそんなことを言った。
低い声だ。まさに魔王、というような。悪しき世界の王、そんな世間一般のイメージにぴったり当てはまるような。けれども私は彼が悪人だとは思わなかった。声自体は低い、それこそ地鳴りのように。でもそこには優しさの色は確かにあるし、発している内容も思いやりがあるからこそのものだろう。
「あやつには世話になっているのだ」
「キノコですけどね」
すると魔王は急に笑い出す。
「……はは! そうか! キノコ!」
初めて彼が笑うところを見た。
黒っぽい布越しではあるけれど、その笑い顔はある意味子どものような純真さをまとっていて、負の印象はない。
「では、これからもあのキノコをよろしく頼むぞ」
その日の魔王との会話はそれで終わった。
◆
「そんなことがあったのですか……!」
魔王との会話について打ち明けたところ、ポポはかなり驚いたような顔をしていた。
キノコに埋まったような顔。
でも今はもう細やかな表情まで読み取ることができる。
「そうなんですよ」
「驚かせてしまったのでは!?」
「そうですね、正直びっくりはしました。でも平気です。だって陛下はお優しい方ですから」
◆
その日の晩、穏やかに眠っていたら、侍女に叩き起こされた。
「エーメラ様!!」
侍女の表情を目にして、ただ事ではない、と察する。
「逃げますよ!」
「え?」
「煙が出たのです! キッチンから! なので避難しましょう」
「は、はい」
侍女と共に廊下を駆ける。
ちょうどその途中でポポとすれ違った。
「ポポさんは逃げないのですか!?」
そう叫べば。
「逃げ遅れがいるのですッ」
彼はそうとだけ返した。
彼一人に危険なことをさせるのは嫌だったから、立ち止まって「私も同行します!」と言葉を発する。しかし彼は「来ないでください!」と返しただけ。こちらへ目をやることすらしなかった。そんな彼の背を追おうとした私の腕を侍女が強く掴む。一秒、二秒、経つたびに離れてゆく彼の背中。私はたまらず「離してください!」と攻撃的に言ってしまう。侍女は一瞬驚いたような顔をしたけれど、こちらの想いも一応理解してはくれたようで、強く言い返してくるということはなかった。
「エーメラ様、貴女の命が最も大切なものです」
「そんなの! そんなことを言うのなら、ポポさんの命だって大切なものですよ!」
「……ですが」
「ポポさんはキノコですよ!?」
困ったような顔をする侍女。
「キノコを炭にするつもりですか!?」