3話「魔王のもとへ挨拶に行きます」
こうして私は魔王のもとへたどり着いたのだった。
「体調はもう大丈夫そうですか?」
「はい。ありがとうございますポポさん」
キノコ族のポポは今のところ親切さしかない。彼は見た目こそ人間とは違っているが、その性質は非常に善良だ。そして異種族である私に対しても温かく思いやりをもって接してくれている。
「では陛下のもとへ案内いたしますね!」
「……ありがとうございます」
そうして私はついに魔王がいるという部屋の前に至る。
ポポがゆっくりと扉を開ける。
見るからに重そうな扉の向こうに広がる世界は荘厳な空気に満たされていた。
広い魔王の間、その一番奥に位置する黄金の座に座っていたのは、長いつのが側頭部から右左各一本ずつ生え顔を黒い布で隠している人物だった。
……いや、人物という言い方は変だろうか?
「陛下、エーメラ様をお連れしました」
ポポが告げれば。
「ああそうか」
陛下と呼ばれた彼は低い声で短く返した。
「はじめまして、エーメラと申します」
「…………」
なぜか沈黙。
「ええと、その……ご無礼がありましたでしょうか?」
そう確認すれば。
「……いや」
短くそれだけ返ってきた。
それからまた沈黙があった。
静けさに少しばかり苦を感じつつも黙って待っていると。
「……聖女、だそうだな」
やがて向こうが声を発し始めた。
「国外追放とは、災難だったな」
……あれ?
もしかして……悪い人ではない?
「お気遣いに感謝いたします」
「……いや、当たり前のことだ」
会話はなかなか続かない。
言葉の往復を継続することがとにかく難しい。
……不器用、なのかな?
「では陛下! エーメラ様は一旦お部屋へ!」
「ああ」
「それでは失礼いたします!」
「そうしてくれ」
魔王の間からの帰り道、ポポに話しかけてみる。
「陛下は静かな方なのですね」
「あ、はい。親しくない方の前だとああなってしまうのです。それはもう、ずっと前、昔からですよ。先代魔王がご健在であった頃から、あのお方はあのような感じでした」
ポポと話すことにはもう慣れた。
今や種族の壁なんてものは存在しない。
「人見知り、なんですか?」
「……はは。まぁそうですね。そんな感じですかね」
「失礼でしたらすみません」
「いえいえ! 問題なしですよ! むしろ気を遣わせてスミマセン!」
彼に出会えて良かった。
彼がいてくれて良かった。
そして、初めて会う異種族の者が彼で良かったとも思う。
彼は敵意を向けなかった。
優しくて、温かくて、いつだって明るくて。
だからこそ私は異種族を恐れることなく今日に至れている。
彼の存在は偉大だ。