2話「国を去ることとなってしまいました」
ノヴェルに婚約破棄された私は魔王のもとへと送られることとなってしまった。
城から追い出されるだとか国から追放されるだとか、それだけでも驚きだし辛いことだ。にもかかわらずそれだけでは済まず。悪の親玉であるとも言われている魔王のもとへ送られることになってしまうなんて。
彼はどうしてそこまで私に罰を与えようとするのだろう?
……もう、よく分からなくなってしまった。
「どうぞ、こちらへお乗りください」
「……はい」
今日、私は生まれ育った国を去る。
自分の意思など一切なく。
親とも会わせてもらえず。
強制的に追い出されてしまうのだ。
乗せられた馬車の小さな窓から最後に見たのは、夕暮れの切なげな空だった。
◆
「……ぶ、大丈夫ですか!?」
聞き慣れない声がして、ふと目を覚ます。
どうやらベッドに横たえられているようだ。
少し考えてから、あれ、と思った。
私は馬車に乗っていたはずなのだ。なのに今の私は馬車内にはいない。明らかに馬車内ではないと思われる環境におかれている。
「えと、私は……」
視線を横へやって。
「ひっ!!」
うわづった声をこぼしてしまう。
なぜなら視界に入ったのがキノコに顔をつけたような生き物だったからだ。
「あ、スミマセン、驚かせてしまい」
キノコは申し訳なさそうな顔をしていた。
「な、なな、ななな、何者ですか……!?」
「自分はポポと申します」
「あ……や、えと、あの……どなたですか」
「ですからポポです」
「え、でも……き、キノコ……です、よね……?」
するとポポはふふと笑う。
「そうです、自分はキノコ族です」
その真っ直ぐさのある笑みに、恐怖心はいつしか消えていた。
「貴女は倒れていらしたのです。それで保護されまして。ここは魔王城、しかし気になさることはありませんよ? 怖いことはありませんので!」
種族は違えど意志疎通できるのであれば関わることはできる、そんな気がする。
「ありがとうございます……」
取り敢えず礼を言っておこう。
「ところで貴女はエーメラ様ではないですか?」
「え。はい、そうですけど……って、あれ? でもどうして? どうして私の名を?」
「魔王のもとへ来てくださる女性が見つかったと、そしてその方はエーメラ様というお名前なのだと」
そこまで言われた思い出した。
前もってそういう話になっていたのだった。
ならば彼らが私の名を知っていても不自然ではない、か。
「そうでした……そういえばそういう話になっていたのでしたね」