1話「愛がなくとも上手くやっていくつもりだったのですが」
生まれつき国を護る力を宿しているとされていた私エーメラは生まれ育った国でもあるノーワール王国の王子ノヴェルと婚約していた。
でもそれは愛があっての婚約ではない。
あくまで国の未来を想っての婚約、国のための契約である。
それでも私は彼との関係を良いものにしたくて努力してきた。彼が不快にならないようにと考えて歩んできた。王子である彼に相応しい人間になれるようにとも考えて日々生きてきたのだ。
だが関係が終わる時はやって来てしまう。
「エーメラ、君とはもうやっていけない。……いや、やっていくつもりはない。だからここですべてをおしまいにしよう。ということで……婚約は破棄とする!!」
何か揉め事があったわけではない。
特別なことなんて何もなかった。
私が何かしらの失敗をしたとか浮気したとかそういう理由もない。
なのに突然やって来てしまった、終わりの時。
「婚約、破棄……なぜですか? 私、何か、やらかしていたでしょうか」
「そういうのではない」
「君は聖女だと聞いている。国を護る力を宿している、と。だがこうして付き合ってみればただの普通の娘じゃないか」
いやいや、そんなことを言われても。
国を護る力を宿した聖女と言っても魔法使いでも神でもないのだ。
それは彼だって理解しているはず。
「君のどこが特別なんだ? 君のどこに存在価値があるんだ?」
「え……」
「ほら、答えられないだろう」
勝ち誇ったように言うノヴェル。
その表情はどこまでも黒いものであった。
「ではな、エーメラ。君との関係はここまでだ。……ああそうだ、ついでに、魔王のところへ送ってやることにしたぞ」
「ええっ!?」
「聖女だなんだと怪しいことを言って王家に近づいた悪女だからな、君は」
「そんな! 私が言ったわけではありません!」
「だが君は話に乗ったのだろう? ならば自分でそうだと言っているようなものだ。ま、もういい。何にせよ、君にはこの国から出ていってもらう」
そんな、酷い……。
国内にいることすら許さないと、そう言うの?
私だってこの国で生まれて育ってきたのに。
王家に取り入るためここへやって来た余所者というわけではないのに。
国を捨てろと、そんな酷なことを求めるつもり?