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君を信じる。
彼月のその言葉は、わたしの強い支えになった。
誰も信じてくれなかった水月の存在を、彼月は、本当に全面的に信じてくれた。
水月は魔導力の集合体のようなものだとしたら。
魔導人形という器を失って、この世界にはもう留まっていられなくなったんじゃないか。
彼月はそう言った。
けれど、魔導力は形を変えることはあっても、失われることはないから。
水月も、きっとこの世界のどこかにいるはずだ。
彼月のその言葉を聞いたとき、わたしは、涙が止まらなくなった。
僕は、君の大切な人を、取り戻してあげる。
彼月はそう宣言した。
わたしは、彼月にそんなことをしてもらうわけにはいかないって思ったけど。
彼月は笑って首を振った。
天使というのは、自分じゃない誰かを幸せにするのが使命なんだ。
だけど、そうすることは、僕自身も間違いなく、幸せにする。
自分よりももっと幸せにしたい誰かがいるのは、とても幸せなことなんだよ、って。
弥生朔日。
今年もまた、その日が近づいていた。
千の鶴の祭りは、新しい世界の幕開けの日として、今年も盛大に執り行われることになっていた。
夏生と晶は、今年も祭りの準備に大忙しだった。
二回目の今年は、去年より、もっと趣向を凝らした行事がたくさん行われるようだった。
街には願い事を書いた折鶴が溢れ始めた。
少し暖かくなった風に、色とりどりの折鶴がやわらかく吹かれていた。
ちょうどそのころ、彼月の映像が広告塔に流された。
後の月の月の彼月です。
彼月は純白の衣を纏い、その手に一枚の白い紙を持っていた。
僕からみなさんにお願いがあります。
今年の千の鶴の祭り。
どうか、一枚ずつ、余分に鶴を折っていただけないでしょうか。
彼月はそう呼びかけながら、丁寧に鶴を折っていた。
ただ、自分ではなく、誰かの幸せになりますように、と。
その願いだけ込めて折った鶴を、一羽、吊るしてもらえませんか?
それはとても短い呼びかけだったけれど。
あっという間に、街には、白い折鶴が溢れた。
自分じゃない誰かの幸せを祈る。
そんな優しい気持ちは、こんなにたくさんあるんだと思った。




