7 案内者
不用意に仕掛けを動かしたものの、無事潜入を果たした[鋼鉄の鍋]。
だが、自らが監視されているとは気が付かない。
[鋼鉄の鍋]に案内人が付くが……。
「バカヤロウ!調べもしねえで、いきなり起動させる奴があるか!」
ディッツがルースを叱り飛ばす。
「ダンナ静かに。タッチパネルとやらが何か喋ってるぜ。」
ラアナが苛立だしげに指摘する。
[見学者の方は順路に従い見学をお願いします。また指示に従っていただけない場合、怪我などをする恐れがありますので、ご注意ください]
「何て言ってンだルース?」
魔族語のアナウンスがわかるのはルースだけだ。
「指示に従って見学しろと言っている」
「で、帰りにゃ、記念品でもくれるってか?」
ラアナが顔を歪めて笑う。
「この遺跡は稼働していやがる。自由に動くには、職員コードが必要だな」
ディッツがドワーフらしからぬ明晰さを見せ指摘する。
いや、ドワーフが明晰ではないと言うのは偏見だと分かってはいるのだが。
「見て、変なのが来るよ。」
チカカが片手剣に手をかけて指摘する。
「武器を抜いてはダメです。チカカさん。あれは案内係のゴーレムです。」
近づいて来た小型スチールゴーレムが埋め込まれたガラス玉を光らせながら喋る。
まるで1つ目の生き物の様だ。
「ニンゲンとドワーフの見学者様ですね。案内音声はニンゲン語でよろしいですか?」
「それで、頼みます。」
ルースが答えると、またガラス玉が光る。
「では皆様。こちらに」
ゴーレムが歩きだした。
「あまり離れますと、清掃用スライムの巡回に遭遇した時、攻撃を受ける恐れがあります。ご注意下さい。」
ゴーレムが告げる。
先程のタッチパネルといい、ゴーレムといい口が無いのに普通に喋る。
魔族の魔法技術は人間には及びもつかない。
「なぁルース、スライムって何だ?」
チカカがルースに尋ねる。
「スライムも知らねぇのかよ?これだから田舎もんは……。」
「都会にはスライムが普通にいるのか?」
思わず噴き出した。
チカカは本当に純粋で、物を知らない。
「都会は確かに人外魔境だが、スライムはいねえな。それにラアナ、お前がヒヨッコだった時も似た様なもんだった。」
ドワーフが間に入った。
「清掃用スライムは、その体液で金属以外の物を溶かす有益な魔獣です。またその静音性から不当に侵入した冒険者などを駆除する役割もあります。ただ可燃性の為、不用意に火を近づけないで下さい。当研究所では冒険者対策に難燃化したスライムと逆に爆発的燃焼するスライムを開発し実験的に運用しています。」
ゴーレムがチカカの問に返答した。
「素晴らしい!このスチールゴーレム、研究所のネットワークに接続してますよ。出来れば持って帰りたい。」
ルースが興奮気味に話す。
「ありがとうございます。ただし備品の持ち帰りは、ご遠慮ください。」
ゴーレムの返答に皆、笑った。
我々は気がついていなかった。
いや、理解していなかったが正しいだろうか?
ゴーレムが研究所のネットワークに接続している事がどういう意味を持つかを。
私の黒歴史がまた1ページ。