3 邪悪な顔
古文書が示すエルフの宝を求め海を渡る[鋼鉄の鍋]
漁師の操る小舟の先に見える小島は大金への扉か死への門か。
「迎えに来るのは、本当に10日後でよろしいんで?」
荷物や食料を降ろした後、チャーターしていた漁船の漁師が尋ねてきた。
「あぁ、構わない。だがラチア島であまり触れ回らないでくれ。」
[鋼鉄の鍋]のリーダー、ドワーフのディッツが報酬の銀貨の入った小袋を渡しながら話す。
ラチア島までの船旅は嵐に会うなど散々だったが、乗り合わせた1号船は予定通り島に着いた。
行方不明になった2号、3号船がどうなったかは我が[交易の神]のみがご存知だろう。
「もし、迎えに来た時、誰も浜に戻ってなかったら、3日後にもう一度来て欲しい。それ以上は求めない。」
漁師は困った笑みを浮かべながら、幸運を祈ると告げ、島から離れた。
ムッカ島に上陸して直ぐ、ラアナが辺りを見回し警戒を強めている。
「ディッツ。この島は、そんなに危険には思えないが?」
チカカが辺りを見回しながら言う。
魔術師のルースも狭い小舟から降りて伸びをしており、フォニ司祭に至っては露骨にラアナを馬鹿にした視線を向けている。
ラアナは態度の大きさに比べ内心は臆病なのではないかと私も思うが、ディッツの評価は違った。
「ゴブリンの出迎えがねぇ。ビンゴだぜ、この島は。」
ドワーフは、それだけ言うと担ぐ荷物をメンバーに割り振り始める。
同行者とはいえ、これには例外はなく私にも山の様な荷物が割り振られた。
逆にラアナに割り振られた荷物は極端に少なく、ルースから不満が出る。
「旦那、うるせぇクソ共に一度説明してやんな。このままじゃ帰りの舟に乗れるのは借金まみれの旦那とアタイだけになっちまう。」
ラアナは苛ついた声を出す。
それを受けてリーダーのドワーフは大きな溜息を付き説明を始めた。
「初めての遠足前に、小冊子でも配るべきだったな。」
「いいか、ひよこ共。この辺りの水が出る島には例外なくゴブリンやハーピーなどの妖魔が住みついている。そうじゃなきゃ人間が居る島だ。」
確か魔族の言葉に[ゴブリンと人間は駆除しない限り何処にでも住み着く]というのがあった。
「だが、この島ムッカ島だけは違う。水が出るにもかかわらず、何も住んじゃいない。何故だと思うチカカ?」
話を振られた戦士は口籠る。
「ゴブリンを駆除する何かがいる。」
彼女の相棒の司祭が答えた。
魔族の言葉通りだ。
そしてこの島には魔族の遺跡があり、それは機能している可能性が高い。
「その通りだ。で、そいつは勿論人間も駆除する。そいつをすり抜けなきゃお宝は掴めない。わかったら出発だ。」
ドワーフが手を叩き出発を促す。
「ボルドーの旦那、もう少しマシなクソは集められなかったのか?」
ラアナの指摘に、私は少し苛ついた。
砂浜を後に、[鋼鉄の鍋]と私は森の中を進んでゆく。
「野生化しちゃいるが、この森は食える植物ばかっりだ。」
「そうですね。やはりエルフの森だったのは間違いなさそうです。」
ラアナの言葉に返事を返したのはルースだ。
そして、それにも関わらず無人島。
今になって、その異常さが伝わり私は緊張している。
「水音がする。確か遺跡の側に泉があんだよな?ルース」
「はい。」
「泉の側にベースキャンプを作る。駆除者が何かは分からないが、生きてる儂らは水が無きゃ始まらねぇ。」
ドワーフの指示に皆黙って頷いた。
「そういえば聖王国の建国伝説には南の島のエルフが出て来ましたね?この辺り一帯のエルフの事でしょうか?」
ルースが誰となしに話す。
「あぁ知ってるぜ。アタイは聖王国の産まれだからな。だが嘘ばかりだぜ。王家の血にエルフの血が混じっているらしいからな。」
ラアナが、そう言って笑い言葉を続ける。
「まぁ実際、建国王もハーフエルフの1人や2人こさえたかもな?王家の血を引く性人形なんて、贈り物には最適だぜ。」
それを見てフォニ司祭が微妙な顔をする。
そして、それを見たチカカが声を出す。
「正義を司る聖王家がそんな事をするとは僕には思えない。」
「正義とやらが、あったなら、こんな島に居ねえだろう?お互い。」
「よさねえか!ラアナ。チカカもだ。」
悪化しそうな雰囲気を察してドワーフが釘を刺す。
ハルピアでは、一代雑種なのを利用してハーフエルフを育成、販売している店がある。
高貴な血を引くハーフエルフならさぞ高値が付くだろう。
血統書つきハーフエルフ。
商売のネタにならぬものだろうか?
「皆、邪悪な顔をしている。」
フォニ司祭がボソリと呟いた。
私の黒歴史がまた1ページ。