正一郎千里行その四”暴走”
今回は番外編抜きで初めて主観の入らない回?
――――――――”人面”視点――――
どたどたどた
私が自室で寛いでいると外から足音が聞こえてくる
ばたん!
その足音の主は、勢いを付けて扉を開ける
「”人面”様!報告です!!」
「・・・せめて許可されてから入ってきたらどうだ?」
こう急に部屋に入られれば秘密など有って無いようなものだ
「はっ、も、申し訳ありま―――
「いい、報告とやらはなんだ?」
一々聞くのも面倒くさい
「奴に関してです」
「奴?・・・ああ、竹中正一郎か。奴がどうかしたか?」
「はっ!脱走したとの事!」
・・・まあ、その位ならば想定内だよ
むしろ、何もされない方がこちらを変に勘繰らせる
「・・・それで?」
「一度は城外に逃げたそうですが、反転し、現在城内で暴れているとの事!」
「城内で?はて?色々と罠などを作っておいたはずだが?」
落とし穴や粘着床、更には踏めば鉄の網が落ちてくるような物まで
「それが・・・全て力押しで突破されております!」
「力押し?如何言う事だ?」
「ええと・・・報告では落とし穴は穴が開いた瞬間に横に跳んだりして回避し
粘着床につきましてはは踏んでもそのまま前に進んできていると!」
「・・・既に化け物の域だな」
だが、少しも想定しなかった訳じゃない
「・・・それで、現在の位置と被害は?」
「はっ・・・現在三階層目です、被害は・・・数百程です」
数百か、魔法を封じられているなかでそれほどまでとはな
「・・・私が出よう、お前らは回収用意と、重傷者の手当てに回れ」
「はっ!」
そう言うと兵は外に出ていく
・・・・失礼しましたの一言ぐらい欲しかったんだけど・・・
まあ、いいか
まったく、あのばば・・・”人波”も面倒くさい事言うよ
兵とはあんな話し方をしろ、なんて強要してくるんだから
部屋の隅に歩いて行き、そこに立てかけてある弓を取る
現在三階層だったっけ?ならここから近いね
この城は全五階層で出来ている
ちなみに五階層目は、ほぼ全てが王の部屋
残りが謁見の間、という豪華絢爛ぶり
私の部屋は四階層目の階段近くだから、かなり信頼されていると言う事になる
でも・・・部屋を出たら直にいたりしてね
部屋を出る
そこには・・・彼がいた
服が所々破けている以外には特に外傷もない
・・・・というか、ここまでの罠の数を考えればそれで済んでいるのがおかしい
常人だったら例え百回死んだとしてもここまでは辿りつけないだろう
ここは階段のすぐ近くだから見えないだけで
もしかしたら後ろは死屍累々だったりするのかもしれない
・・・・有り得そう、と考えてしまうのは仕方が無いのかな?
「・・・・退け、邪魔すんな」
声を聞くだけで一瞬体が竦み上がる
彼の纏う雰囲気も声も、全てが牢屋であった時と違っていたからだけでは無い
・・・怖い、本能が言っている
”逃げろ、こいつと関わってはいけない”、と
だが、ここで逃げてしまえば彼は王の所に行くだろう
それだけは回避しなければいけない
私みたいな人間でも拾ってくれた恩に答えるために
「残念ね、退くつもりは毛頭無いわ!」
「そうか、残念だ」
そう言うと彼は腕を上げ、構える
私も構える
彼は、一瞬の隙をつき、前傾姿勢で一気に距離を詰めようとした。
いきなり見せた急な動きに、一瞬息を呑み、構えた矢の軸が少しずれる
ヒュン
矢は、彼の少し横を飛んでいく
私は急いで第二射の用意をする
その間にも彼は凄まじい速度で迫って来る
あらかじめ用意しておいた第二の矢をつがえ、放つ
今まで何度も繰り返してきた事だ
だが、今はそれが遅く見える
極限状態になると、周りが遅くなり、自分が速くなるという事はよくある
私も何度か経験はした事がある
だが、今回は全く状況が違った
・・・私が遅い!?
そう、私の動きが遅くなっているように見えてしまう
だが、そんな中でも彼は普通の早さで迫って来る
弾けて飛んでいった小石の遅さから見るに、私も早くなっているのだろう
だが、彼の圧倒的な早さで、私の方が遅く見えてしまう
それでも何とか放つ
だが、それも簡単に回避し、接近を許してしまう
「まず―――――
短剣を抜こうとする
「”突閃”」
しかし、それは許されなかった
腹部に強烈な一撃を喰らう
「・・・これで二度目だね」
そんな事を呟く
体が傾き、意識が朦朧としていく
床に倒れこんだ時には彼女の意識はもう無かった
止まらない正一郎!
ケ「一体どうなる!?」
ラ「次回!正一郎千里行その五!」
セノリ「期待しておれ!」
”人波&面”「国王様御乱心!?」
(・・・男には変態しか居ないのか?)