王たる者に必要な事
「・・・何処も彼処も亜人ばかりだな」
目の前の亜人が振り下ろした斧を軽く避け、お返しに顔面に一撃くれてやる
・・・感触からして、鼻は逝っただろう
「そうですね・・・しかし、こうまで相性が良い相手もいないでしょうね」
「だろうな」
俺は”人波”に言葉を返し、苦笑する
そうだ、この亜人たちは俺と絶対的に相性が悪すぎる
言い表すなら・・・象
対して俺達は・・・狐だ
想像してみろ
象が狙って狐に一撃を与えられるか?
答えは否だ、偶然当たる事もあるかもしれないが
狙っていれば、絶対に攻撃が当たる事は無くなる
「普通に戦っていれば強敵なんだろうがな・・・」
鍛えられているのだろう肉体は、まるで鋼鉄
繰り出される攻撃はそこいらの重戦士の数倍の威力
そして動きは一般人位と遜色ない
これだけ備えているんだ、強敵に成らないはずが無い
だが、あの巨体では驚嘆に値する速度であろうとも、所詮一般人程度
加速まで使っている俺達の敵では無い
更には、奴らのおかげで周りに群がってきていた兵士たちも蹴散らされている
おかげでこの広い広場の中をゆっくりと進むのではなく、駆け抜ける事が出来る
「アレックス様、櫓が見えてきましたよ」
”人面”が目的地が見えてきた事を俺に伝える
見ると、既にもう目の前にまで来ていた
見上げてみる
そこには、数人の亜人に囲まれている父上の姿が有った
「・・・父上、随分苦戦しているようだな」
俺の声が届いたのか、くるりとこちらを向く父上
・・・敵の言葉に応えるために敵に背を向けるなど、言語道断だろうに
「・・・アレックスか、無事だったようだな」
櫓の上から父上が話しかけてくる
背後に居る数体の亜人を一切気にしていないようだ
亜人も、そんな父上に対して攻撃を加えようとはしてこない
・・・最後の親子の対話を邪魔しないだけの、知性と情はあるのだろう
「まあな、これぐらいで苦戦するほど俺と”人天森海”は弱くない」
「・・・これが最後だろうからな、お前に大事な事を聞いておこうと思う」
暗に父上は弱いな、と言われたことも気が付いていないのか
それとも無視しているのか、話を続ける父上
こんな時に?とも考えたが、多分こんな時だからなのだろうと一人で納得する
「王たるものに必要なものとは何か知っているか?」
「媚びぬ事、退かぬ事、省みぬ事、だろう?」
父上の問いに俺は即答する
しかし、父上は俺の答えを聞いて顔をしかめた
「違うな・・・やはり聞いておいて正解で有ったか」
「何が違うって言うんだ?」
「お前が今言ったのは”王者”たるものに必要な事だ」
「十分じゃねえか」
俺からしてみればどちらも変わらない
「違う、”王者”と”王”は違う
お前もその事を理解する時が絶対に来る」
・・・だから、その時の為に教えておく
良く覚えておくがいい―――」
父上は反転し、亜人を見据える
そして、言った
「―――”王たるもの、絶対に自分の行動に後悔はするな”、だ」
それが自分自身に向けられた言葉なのか、それとも俺に向けた言葉なのかはわからない
だが、そう言い切った時の父上の背中はとても大きく見えた
そして、その背中から何本もの剣が突き出してきた
話は終わったと判断した亜人たちが、一斉に父上の息の根を止めにかかったのだろう
まるで剣山のようになった父上の姿を見ても、怒りなどは湧き上がって来ない
当然だ、と思う
あの男は戦争を無駄に長引かせていたんだ、死んだって何も思わない―――
「・・・ん?」
そう考えていた俺の頬に、有り得ないはずの物が垂れた気がした
手で拭ってみると、何か冷たい物の感触が有った
「・・・アレックス様、泣いておられるのですか?」
”人波”の言葉に驚き、思わず反対側も確かめるが、その感触は無い
・・・どうやら一滴だけだったようだ
「違う、雨だ」
「そうですか」
”人波”は俺の言葉にあっさりと納得し、引いた
・・・自分でもこれはつまらない意地だと思う
”人波”だって既に、最初に見た瞬間から理解していたのだろう
だが、誰にだってあまり知られたくない事とは存在する物だ
だから―――これは、俺と”人波”だけの秘密だ
俺が、父上との別れに涙を一滴だけ送ったことは
アノ「・・・ふ、ふはははは!結局貴様も死んでおるではないか!」
セ「馬鹿なッ!何故だ作者よ!
こんなにもダンディズム溢れる儂を何故退場させたァッ!」
いやぁ・・・だって、ねぇ?
アノ「おや?どうしたのかなメインキャラクター(笑)」
セ「儂の扱いがぁっ!」
と、言う事で次回予告!
セ「フォローもなにも無しにか!?」
戦場を離脱した正一郎!
そこにアリスでは無い神が連絡を・・・?
次回!悪戯の神!
期待しててくれよな!