会合
令美との交際が始まって、早くも一週間が経った。短かったような、長かったような。とにかくこのわずかな期間の間に、俺は彼女についてかなり知ることができた。
まず、国民的女優並みに可愛いこと。これが一番驚いたことだろう。目から鱗というか、二階から目薬というか、河童の川流れというか……うまい表現が見つからないが、とにかくおったまげた。
そしてそれと同じくらい意外だったのが──彼女が意外と恋愛に対して積極的だったことだ。正直なところ、会話さえままならないだろうと失礼ながらも思っていたので、これには面食らった。
他にも色々とある。ゲームなどといった共通の趣味があったし、好きなアーティストも共通していた。おかげで彼女との会話は絶えることがない。
そんな怒涛の一週間を俺は終えたわけだが、その間に何があったのか気になったのだろう。放課後になって俺はタケシとカスクラに呼び出された。
「で、高橋とはどうなってるんだよ?」
教室に残っていた最後の生徒が帰るのと同時に、カスクラが食い気味に訊ねてきた。
「まあ、上手くやってるぜ」
「え、まじか!」
俺の返事に目を丸くしてみせたのはタケシだ。
「会話も続けられないかと思ってたわ……」
「それ偏見な。あー見えて令……高橋、結構面白い子なんだよ」
「へぇ、人ってやっぱ見かけによらないものなんだな」
カスクラが感心したように頷く。
「んで、デートの高橋はどんな感じだったん? 服とか、見た目とか。学校であれだと、やっぱ多少はギャップとかあったんじゃねーの?」
「それは……」
ここで俺は言葉を詰まらせた。
果たして彼らに、メガネをとった彼女のことを伝えてもいいのか。
なんやかんや言って俺はこいつらのことを信用しているし、真剣な話をベラベラと言いふらさない奴であることも知っている。
だが、あの姿の令美を拝めるのは自分だけにしたい、という独占欲もまた俺に働きかけていた。
俺が返事を迷う間、カスクラは1人でベラベラと話し続ける。
「いやー、実はさ俺、高橋ってあー見えて絶対可愛いって思うんだよね」
「え、どこにそんな要素があるんだよ」
カスクラの意見にタケシが突っ込む。俺はというと、カスクラの勘が存外鋭いことに目を見張らせていた。
「いやさ、普段はあのメガネのせいで目元が見えないんだけど、ちょっと上から覗き込んだら少しだけ見えるんだよね」
「女子を上から覗き込むって……なかなかきしょいなお前」
「はいはい、どうせ俺はど変態ですよ……まあとにかくな、そんときに一瞬見える目がめっちゃ可愛いわけ。普通にそこら辺のアイドル泣かせられるぜあれは」
「お前の妄想が生み出した幻覚じゃねーの?」
なおも信じられないようにタケシが訊ねる。そんな彼の問いを無視しながらカスクラは俺へと視線を向け、瞳を輝かせながら「で、どうだったんだよ!?」と聞いてくる。
……やっぱこいつには敵わないな。
「お前の言う通りだ。メガネとったら半端じゃなく可愛い」
「あーくそっ! やっぱそうだよな〜!」
悔しそうに頭を掻きながらカスクラが言う。
「自分の勘信じてアタックしときゃよかったぜ。多分横山よりも可愛いだろ、高橋」
「それは間違いない」
横山というのは、学年最大の女子グループのリーダーの名前だ。なんでも女優を目指しているらしく、学年1の美少女を自負している。そしてそれはその通りだろうというのが、学年男子大半の意見である。噂によればファンクラブも存在するらしい。
俺はすぐに他のグループの女子に攻撃する排他的な態度が苦手であまり好いていないのだが、確かに学年で1番可愛いなとは思っていた。もっとも令美の登場で2位に陥落したわけだが。
「いや、狙ってたんならなんで流星に告白させたんだよ」
タケシが的確なツッコミを入れる。カスクラは、答えに窮したように「いやー……」と頭を掻いていたがやがて、
「いや、とりあえずこいつに毒味させて、良さそうだったら寝取ろうと思ってな」
「さすがクズ、人間性のかけらもねえな」
俺が吐き捨てるように言うと、カスクラは慌てて取り繕うように、
「いや、安心しろよ! 流石の俺も両思いカップルを引き裂いたりはしねーって」
「信用出来ないな」
「前科持ちだし」
「うっ、それは言わないお約束……」
返す言葉を失ったように彼は言葉を詰まらせたが、それからすぐにあからさまに話題を変えてきた。
「まあとにかく、俺に感謝しろよ! 俺が告らせたおかげで高橋をゲットできたんだからな」
「あぁ、それは俺も思っているよ」
そしてカスクラはきっと俺の方を見据えると、改まって襟を正し、いつになく真剣な声色でさらに言葉を連ねた。
「……彼女のこと、ちゃんと幸せにしてやれよ」
「お、おう」
妙に神妙な顔で言うカスクラに俺は困惑しつつもそう答え、何気なく時計を見る。
……あ。
「やっべ!!!」
「どうした?」
「部活あんの完全に忘れてた!!」
「まじかよお前……」
2人が呆れたように俺を見るなか、俺は慌ててリュックを担ぎ、「悪りぃ、今すぐ行って来ねえと!」と断りを入れてから廊下へと駆け出した。
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