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一緒に帰る


 その後なんとか授業と部活を乗り切り、ジャージから制服にいそいそと着替えると、俺は部員の誘いを断って早めに更衣室を去った。


 部活が終わったら、正門の前で待ち合わせることになっている。部活が終わるのが予定より遅くなってしまい、俺はやや駆け足で高橋が待っているだろう場所へと向かった。


 息を弾ませながら正門から飛び出すと、そのすぐ脇に高橋は立っていた。慌てた様子の俺に驚いたのだろう、彼女は体を一瞬ビクッと震わせて戸惑いの表情を浮かべながら俺に訊ねた。


「ど、どうしたの?」

「い、いや。ま、待たせるのは、悪いと、思ってさ」


 一応運動部とは言え、俺は走ることとは縁のない弓道部員。100メートルをダッシュで駆け抜けるのは少し息が上がる。息を整えつつ、俺は答えた。


「ごめん、だいぶ待ったよな」

「ぜ、全然そんなことないよ……」


 高橋は顔を少し上げて返事する。分厚いメガネ越しに彼女の綺麗な瞳が輝いているのが見えた。思わず胸をドキリとさせる。


「そ、そうか……ここにいたら寒いし、早めに行こう」

「う、うん」


 俺らは並ぶように歩き出した。弓道部が1番終わるのが遅かったので、他に生徒の姿は見当たらない。なんだか2人きりであることがすごく特別に感じられ、俺は1人テンションを上げた。


「高橋はなんか部活とかやってるの?」


 歩きつつ俺は訊ねる。俺が部活をしている間、彼女が何をして時間を潰していたのか、ふと気になったからだ。


「ぶ、部活はやってないよ」

「え、じゃあ何をして俺のこと待ってたの?」

「自習室で勉強……」


 うーん、偉すぎる。


「偉いな、ほんと見習わないとやばいわ」

「わ、私なんか見習わなくていいよ! 全然、大したことないし……」


 えへへ、と自嘲気味に彼女は笑う。その様子は確かに可愛いが、俺の胸はなんだか強く引っかかるものを感じた。


「大したことないって……テストは何位だったの?」

「うーんと、た、確か4位だったかな」

「……え?」


 おにょ? サラッとすごいことを言ってのけた彼女に俺は思わず訊き返してしまった。


 聞き間違いじゃなかったら、今4位って言ったよな? そりゃまあ確かに上位には食い込んでるだろうなとは思ったけど、4位ですか。それは流石の俺でもびっくらぽんですよ。


「そ、総合で4位!? すごすぎでしょ」

「まだ上がいるんだから、ぜ、全然すごくないよ」


 いやいやと謙遜する彼女。うーん、もっと威張っていい成績だと思うんだけどな。

 うちは超とまでは行かないもののそれなりの進学校なので、そこで4位となるとかなりのものだ。きっと模試の成績なんかもいいのではないか。


「すげーな。なんか俺、恥ずかしくなってきたよ」

「な、なんで?」

「ほほーう、わざわざ口から合わせようとするとは……そんなに俺を辱めたいか」

「いや! そ、そんなつもりは……」


 あからさまに拗ねてみせる俺に、彼女は少し慌てた様子をみせた。それがまた可愛らしく、俺は思わず頬を緩めて「ははっ」と笑いながら、


「冗談だよ、分かってるよもちろん。俺の成績はな、まぁ、うん。平均には達してないってだけ言っとく」

「え!」


 俺の返事に高橋はその大きな目をさらに大きく、丸くさせた。


「もっと上かと思ってた」

「どこからそう思ったんだか」

「だって、いつも先生の質問、答えてるし……」

「正答率は宝くじの一等並みだと思うな」


 なんて話しているうちに、俺らの行手は信号に阻まれた。そしてこれは、ただの信号ではない。


 一昨日の、あの現場である。


 その事に気づき、俺らの会話は途絶えなんともくすぐったい沈黙が代わりに訪れた。

 授業中の妄想が思い起こされる。一昨日のあの感触がありありと思い出される。


 …‥手、繋ぎたい。


 そんな欲望が胸を覆う。もちろん俺はそれを口に出そうとする。だが、俺が声を出そうとする前に──


 彼女はすでに動き出していた。


 ギュッ。


 そんな効果音が聞こえてきたような気がする。同時に感じる温もり。俺は手の方へと目をやり──


 俺の手に重ねられた彼女の手を見出した。


 グハッ! 不意打ち!!


 理性に攻撃が加わるが、流石に2回目と会ってダメージは半分程度に抑えられた。上部では平静を繕いながら俺は彼女を握り返す。


「高橋──」


 冷静なところを見せようと、俺は適当な言葉を彼女にかけようとする。

 だがそんな俺の動きを防ごうとするかのように、彼女は頬を赤く染め、メガネ越しに上目遣いをしながら俺に言った。


「れ、令美って呼んでほしいな……」

「…………」


 油断していた俺の理性は、いともたやすく打ち砕かれた。会心の一撃なんてレベルの騒ぎじゃない。ポ○モンボールごと木っ端微塵にされ、そのままプレイヤーにダイレクトアタックが入ったレベルだ。


 返事もできず俺はしばらく口だけをパクパクさせていたが、なんとか言葉を捻り出すように言った。


「……令美」


 彼女は少し嬉しそうに笑いながら俺の呼びかけに答えた。


「嬉しい……龍星くん」


 名前を呼ばれた。たったそれだけのことで、こんなにも嬉しくなるものなのか。新たな発見に俺は心を震わせる。

 そして2人で照れ照れしている間に信号は変わり、俺は高橋……もとい令美と手を繋いだまま、横断歩道へと一歩踏み出した。

 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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