授業中
いつも通りやって来る翌日。
いつも通り行われる数学の授業。
「えー、この円順列というのはですね。並べるものの数から1引いた数のね、階乗になります」
太陽のような頭が目を焦がす数学の教科担任が、どこで使うのかも分からない単元を熱心に教えている。
普段通りの俺だったら「あー、だるいなー」なんて思いつつも真面目にノートを取っていただろう。
だが今日は違う。
シャーペンを手に取り、ノートに書き込もうとする。だがそこで、脳裏をチラついて集中を邪魔するものがいた。
そう、昨日のLINEである。半日後に並んで帰れるのだと思うと、どうしても集中力が散らされてしまう。
またこの前みたいに、手を繋げるのかな。
そんな想像をしては、思わずニヤけると同時にちょっと顔を赤くする。
何やってんだよ俺。1人で想像してニヤけるとかなかなかキモいぞ。思春期の中学生じゃああるまいし……いや、大して変わらんか。
脳内でそんなやり取りを交わしつつ、俺はチラリと高橋の方へと目をやった。
勝手に想像して勝手にニヤけている俺とは違い、彼女はいたって真面目に授業を受けていた。先生の話に耳を傾け、ノートにカリカリと書き込みながら時々顔をあげる。
やっぱ真面目なやつだな。ぜひ見習いたい。
そういえば、高橋の成績ってどんな感じなんだろう。あれほど熱心に取り組んでいるのだ、間違いなく俺よりは上だろう。
一応前回の定期考査の成績上位者は張り出されたはずだが、なんだかドタバタして確認しそびれた。もちろん俺の名前が載っていないだろうけど……。
最近成績も低迷気味だし、是非とも彼女に勉強を教わりたい。どっちかの家に行って、机越しに向かい合いながら勉強。うん、最高じゃないか。100パー集中はできないだろうが、それでもいい。
それでその後に、あんなことやこんなことを……。
……ハッ!
いかんいかん。思春期花巻が顔を出してしまった。落ち着け、俺はクールでダンディーな男。そんな破廉恥な妄想なんかはしない。
だが内面は整えられても、やはり外見では隠し切れていなかったらしい。
思わず頬がニマーっと緩み、そして運の悪いことにそこで先生とバッチリ目が合ってしまった。
「おいおい、随分幸せそうな顔してんなー、花巻。ついに数学の快感に目覚めたか?」
呆れたように先生が言う。
「え、はい! 実はそうなんですよ。なんていうか、階乗の気持ちよさ? たまんないんすよね」
「そうかそうか、そりゃ良かった」
担任は嬉しそうにうんうんと頷き、それから悪そうな笑みを浮かべて、
「それじゃあ花巻には、特別にスペシャル問題出しちゃおうかな〜」
「えええ! いやいや、お気持ちだけで十分ですよ」
「遠慮するな。階乗が好きならたまんない問題だぞ?」
「そ、そんな……!」
クラスが暖かい笑で包まれる。
よ、よし。授業中にキショい笑いを浮かべていたことはなんとか隠せたぞ。こちら作戦本部! 作戦成功しました!
代わりに余計な被害を生み出してしまったが……。
ヒューと息を吐きつつ、俺はチラリと高橋の方を見る。彼女は小さくくすくすと笑っていた。
うーん、かわいい。
その笑いが見れただけで、さっきまでは嫌だったスペシャル問題に対して感謝の気持ちが湧いてきた。
ありがとう、階乗。お礼にテストでは間違わないようにするよ。
……そのわずか数分後に俺はスペシャル問題という皮を被った地獄を見ることとなるのだが、この時の俺はまだ、何も知らない。
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