え、誰?
再掲ごめんなさい!
彼女はLINEの方が現実よりも話しやすいらしく、話しはトントンと進んだ。
その結果、土曜日にちょうど今話題になっている映画を観に行くことになった。
普通のカップルだったら出だしは順調と言える。
だが……。
「嘘告きっかけじゃなぁ……」
なんだか相手を騙している気が──というか間違いなく騙しているので、すごい罪悪感を感じる。
まあとにかく、土曜日のデートには行こう。
そんなことを考えているうちに、いつの間にか俺は眠っていた。
**
元より告ったのが木曜日というだけあって、土曜日はすぐにやってきた。
俺は集合場所である、ここらで1番大きな駅の中に位置するとあるモニュメントの前に立っていた。
この駅は巨大な駅ビルを併設しており、そこに映画館や多くの店が集っていることから人気のデートスポットとなっている。
時刻は9時半。
集合時間までまだ30分もあるが、男として女性を待たせるわけには行かないなと考え、俺は随分と余裕をもってやってきた。
季節は夏の終わり。気候がちょうどいい頃だ。
辺りには俺と同じように相手を待っているらしいリア充の姿がチラチラと見受けられる。
普段だったら憎むべき相手として認識していたが、今は自分もその一人なんだと考えると、なんだか感慨深かった。
そんなことを考えているうちに時間はあっという間に過ぎていき、集合時間の5分前となった。
「そろそろかな」
腕時計から目を離すと、俺は辺りへと目をやる。
まだ高橋らしい姿は見かからない。
どんな格好で来るのだろうか。
学校に行くときですら、あんな無頓着な風貌をしているのだ。あまり期待しない方がいいかもしれない。
寝癖が立っていることくらいは覚悟した方がいいだろう。
別に服装なんて、人前を堂々と歩けるレベルだったら何でも構わないしそこまで気にしていないのだが、それより心配なことがある。
「会話、続くかな……」
もちろん見た目がいいに越したことはないが、会話さえ弾めば、俺は彼女として十分合格点に達していると思う。
彼女は一緒にいて楽しい相手であるべきであって、決して飾りではないのだ。
しかしその逆のことが起こると──共に過ごす時間は苦痛になってしまう。俺はそういう関係になるのが何より嫌だ。
そうなるくらいなら、素直にスパッと切ってしまった方がお互いの為だろう。
学校の様子を見るに、あまりコミュニケーションは得意ではないらしいし、会話が続かないことは覚悟したほうがいいかもしれない。
とりあえず今日一日関係を持って、話してて楽しいと思えたら関係を続け、逆にほぼ続かなかったら──
カスクラの言うやり方で振ろう。
一方的に告って一方的に振るただのクズ男に成り下がってしまうが、それを罰ゲームとして受け入れるしかない。
そうやって、今日するべきことを頭の中で整理した、その時。
「あ、あの、花巻君だよね……?」
誰かが後ろから俺に話しかけてきた。
時間ぴったり。たぶん高橋だろう。
そう思い、俺は振り返る。
だがそこにはびっくりするような美人がいるだけで、高橋らしい姿は見当たらない。
気のせいだろうか。
そう思い、俺は視線を戻そうとする。
だがそう考えていられたのは、ほんの一瞬の間だけだった。
なぜなら──
「ごめん、待った……?」
目の前の美人が、明らかに俺に話しかけてきたからだ。
……え?
ちょ、え?
「え、もしかして高橋?」
「そ、そうだよ」
もじもじしつつ、目の前の美人──高橋が言った。
俺はと言うと、現実を理解できずに口をあんぐりと開けて物も言えずにいた。
何故か。
学校にいる時とあまりに見た目が違うからだ。
あの寝癖だらけの髪は綺麗にヘアアイロンがかけられ、美しい黒髪ストレートになって艶々と輝き、頭の上にチョコンと乗ったベレー帽が可愛らしい。
上にはややブカブカのパーカーを羽織り、そこに黒い肩掛けカバンをかけている。下には黒いミニスカートを履いていて、そこからスラっと伸びる生脚が目を焼く。
そして顔はというと──そこらのアイドルや女優の数十倍可愛かった。
小ぶりな顔に、スッと通った鼻筋。あの牛乳瓶メガネのせいで目元がよく見えなかったので全く気づかなかったが──
「……目、綺麗だね」
思わず口に出てしまった。
その言葉に、高橋はポッと顔を赤くして恥ずかしそうに俯いた。
「そ、そんなことないよ」
「いや、ある。ほんと別人にしか見えないよ」
目はぱっちりと大きく、二重は美しい曲線を描き、瞳は薄く茶色かがっている。軽く化粧をしているから、というのもあるだろうが、間違いなく元が良すぎるのだろう。
今まで見たことのない、可愛らしい目だった。
「ごめん、気づけなくて! 学校にいるときとあんまりにも違うからさ」
とりあえず一瞬気づけなかったことを素直に誤る。
彼女は「うぅん」と軽く首を振りながら、
「ぜ、全然大丈夫だよ。初めてので、デートだから、張り切っちゃって……」
そして彼女は俺のことを上目遣いで見上げながら、
「変じゃ、ない?」
その時俺は、自分の中で何かがスコーンと音を立てて落ちたのが感じた。
その目で唐突の上目遣いはマジ反則! これを自然とやったのだろうから恐ろしい。まさしく天然の童貞キラー。
俺はあまりの可愛さに何も言えずにいたが、ハッと我に帰って、
「いやいや! 全然変じゃないよ。むしろ超可愛い」
「〜〜!!」
俺が手放しに褒めると、高橋はプシューと湯気を吹くのではないかと思うほど耳まで真っ赤にして俯いてしまった。
その照れる様があまりに可愛く、俺も釣られるように少し顔を赤らめてしまう。
「じ、時間もないし! とっとと行くか!」
照れを隠そうと俺が言うと、高橋は「う、うん」と小さく頷く。
そんなわけで、俺のドキドキツアーは幕を開けたのだった。
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