早速誘う
その後とりあえずLINEを交換し、用があるという彼女を玄関まで見送った後、俺は教室にて待機する2人のもとへと向かった。
なんとも言えない気持ちを抱えたまま教室に入ると、足を踏み入れるや否やというところでカスクラが、
「どうだった!? うまくいったか!?」
と食い気味に訊ねてきた。
「お、おう。まぁ、上手くいったよ」
「え、まじ! よかったな」
カスクラは嬉しそうに言う。
後ろに立つタケシは喜んでいいのか決めかねると言った微妙な表情を浮かべていた。
「ま、まぁ。とりあえずおめでとうなのかな?」
「そうなるんかね。俺も分かんねえや」
困ったようにタケシが言うのに、俺は苦笑を漏らしつつ答える。
カスクラはどうして俺らが微妙な表情を浮かべているかピンと来ていないらしく、
「え、なんでお前らそんな微妙な表情してんだよ。告白がうまくいったんだぞ? 普通、喜ぶだろ」
「さて、誰のせいでしょうかねー」
こいつは頭が良いのか悪いのか、よく分からない。
多分両方だろう。
カスクラは尚も釈然としていないようだったが、それからすぐに表情をまたパッと明るくさせながら俺に問いかけた。
「そんなことよりお前、いつデートに行くんだよ!」
「んー、そうだな。とりあえずそのうち……」
正直今は何も考えたくない。
とっとと帰って、無心にゲームをやりたい。
ところがカスクラは、そんな適当な返事は許せぬとばかりに鼻息を荒くさせながら、
「何適当なこと言ってんだよ! 鉄は熱いうちに打て、だろ! 今週末とっとと行っちまえ!」
「え、そんな無茶な……」
「どうせ暇だろ?」
「まぁ、そうだけど」
グイグイ迫ってくるカスクラ。
俺は助けを乞うようにタケシの方を見るが、彼は肩をすくめるばかりだ。
「俺も早く行った方がいいと思うぜ。例え嘘でも、相手を傷つけるわけにはいかないだろ?」
「んな無茶苦茶な……」
お前もそっち側かよ。
てか、相手が傷つくことを気にするくらいなら最初から嘘告なんてさせんな!
そんな俺の内心なんて構わず、カスクラはさらに迫ってくる。
「まあまあ、細かいことは気にせず! ほら、LINE貸してみろよ。どうせ交換してんだろ?」
「まあ、一応な」
「ならいけるって。ほら、貸して貸して」
「あー待て待て、ちゃんと誘うからLINEは見るな」
変な会話とかはしてないはずだが、万が一のためだ。こいつに変な会話を見られたら2秒で拡散されるからな。
カスクラは「チエッ」とわざとらしく舌打ちをしながらそっぽを向いた。
そして、ちょうどそこで5時を知らせるチャイムが鳴った。この高校は定時制の生徒も通うため、5時になるまでに教室を受け渡さなければならない。今日は部活もないし……。
「……帰るか」
その日はそれでお開きとなった。
**
そのまま真っ直ぐ家に帰った俺は制服を着たままベッドに飛び込むと、「はぁ〜〜〜」と全身を脱力させた。
「……疲れた」
今日はなんだか色々ありすぎた。
人生で初めての告白をして、上手くいって、彼女ができてしまった。
一応彼女がいたことはある。
だがその子とは短命に終わってしまったので、実質これが初めての彼女である。
その相手が、高橋になるとは。
嫌ではないが、なんだか意外だ。
人生何が起こるか分からないものである。
「そういえば、ちゃんと誘わないとな」
そう独りごちると、俺は学ランの胸ポケットに仕舞われていたスマホを取り出し、LINEを立ち上げる。
高橋のアイコンは一番上に表示されている。
さっき追加したときに、儀式的に「よろしくねー」とスタンプを送り合ったからだ。
そのアイコンをタップして、チャットを表示させる。キーボードを立ち上げ、文字を入力する。
【いきなりだけどさ、週末空いてる?】
……いいのだろうか、これを送っても。
送信ボタンを押そうとしたところで、俺の動きはピタッと止まった。
いくらなんでも、急すぎやしないか?
向こうは大人しめの子だし、グイグイと攻められるのは嫌かもしれない。
ここは少し間を置くのが得策ではないか。
「……なんでもいいや」
こんくらいで嫌われる筈がないし、万が一これでフラれても俺の凹みで済む。
別に失敗したって死ぬわけではないのだ。気楽に行こう。
そう悟りを開いた俺はさっきのメッセージをそのまま送信し、スマホの電源を切ってそれを頭の脇に置いた。
さて、いつ返信が来るか。
一生帰ってこないかもな。
「ははっ」
そんな不吉な想像をしつつ、俺は一人で笑う。
そしてその時。
スマホのバイブレーションが「ブブッ」と鳴った。
誰だ?
疑問を感じながらスマホを立ち上げ、ロック画面に表示されたメッセージを確認する。
【《れみ》空いてますよ!!】
「……既読はや」
俺は思わずそう呟いてしまった。
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