告白
翌日。
朝、早めに学校に行くと高橋はもう席に座っていた。
相変わらず髪には寝癖が付いており、ドヨンとした空気を放ちながらノートに何か書き込んでいる。
近づいて覗いてみると、そこにはびっしりと書かれた数式。今日の授業の予習に取り組んでいるのか。
やっぱ悪い奴じゃないんだよな。
休み時間には黒板消しているのをたまに見かけるし、ただ話が苦手なだけで性格はいいに違いないのだ。
だが俺は、今からそんな奴を今から傷付けなければならない。正直なところ、チキりたい。
そんな事を考えながら、俺は後ろをチラリと振り返る。そこで自分の席に座っていたカスクラと目が合い、彼は「早くやれ」というジェスチャーをしてみせた。
「はぁ……」
小さくため息を吐く。
やるしかないのだろうか。
……そうだ。高橋が俺のことを振ってくれさえすれば、俺が少し凹むだけで事態は丸く収まる。
彼女は恋愛沙汰には疎そうだし、それどころか嫌っているかもしれない。そうなったら俺はきっとフラれるだろう。
そうなることを信じて──
「やるしかねぇか……」
小さくそう呟くと、俺は意を決して彼女に話しかけた。
「──なぁ、高橋」
彼女は一瞬体をビクッと震わせると、シャーペンを持ったまま震える目で俺を見上げた。
「え? は、花巻くん?」
「大事な話があるからさ、昼休み屋上来れる?」
彼女は言葉の意味を理解しかねるように視線を宙に彷徨わせていたが、やがて小さくコクリと頷いた。
「わ、分かった……」
そう小さく言うのが聞こえる。やることを終えた俺は「ありがとう」とだけ返すとすぐさまその場を離れる。
後は、放課後まで待つだけだ。
**
普段よりさらに退屈に感じられた授業も終わり、とうとう昼休みがやってきた。
授業の終わりを高らかに知らせるチャイムと同時に俺は屋上へと真っ直ぐ向かい、彼女が来るのを待ち構える。
タケシとカスクラには場所のことを伏せてある。たとえ嘘であれ自分は今から告白をするのだから、その現場を知り合いに見られるのはなんだか恥ずかしかったのだ。
普段だったらイチャつくカップルが大量に湧くスポナーとなっている屋上だが、今は珍しく誰もいない。
チャイムが鳴ったばかりだからだろうか。
なんにせよ、好都合だ。
そんな事を考えているうちにドアが開けられ、高橋がその姿を現した。
「は、話って、なに……?」
軽く俯いたまま、小さな声を振り絞るように彼女は訊ねる。
俺は覚悟を決めるように大きく息を吸うと、とっとと伝えるべき事を伝えようと口を開こうとする。
だが、言葉が出ない。
なんて言えばいいんだ?
告られたことなら何回かあるが、自分からいったことはない。どうすれば正解なんだろう。
あー、カスクラに聞けばよかった。
あいつはクズだけど、そういうことには詳しい。
だが今更頼ることなんてできないし、せっかく来た彼女を待たせるわけにもいかない。
……もうどうにでもなれ。
適当に思いついた言葉を言おう。
「高橋。お前が好きだ。よかったら、俺と付き合ってくれ」
なんか高圧的な言い方になってしまった。
ま、まあ、合格点ではないか?
とにかく後はフラれるのを待つだけだ。
一度も話したことがないのだ。
OKされる確率の方がは低いだろう。
そう考えつつ、俺は彼女の動きを注視する。
俺の言葉に大いに驚いたのか、彼女は顔を少し赤らめた。そして少し俯いたまま両手を合わせてそれを口元に当て、何と返事すればいいのか決めかねたように押し黙った。
辺りを覆う沈黙。
俺は何も言わず、とにかく彼女がフッてくれるのをひたすら待った。
こう言うとまるで相手を嫌っているかのような言い方になるので釈明させてもらうが、俺は決して嫌ってなどいない。
ただそれが、彼女を傷付けないための最善な選択であるだけだ。
しかし、いつだって思い通りにならないのが人生。
10秒近く考え込んだ末、彼女はポツリと呟くように答えた。
「わ、私なんかで良ければ……」
──あ、終わった。
俺は意識が軽く遠のくのを感じた。
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