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葛藤


「なぁ、龍星。ちょっといいか?」


 通話の翌日。その日の授業を終え、さっさと部活に向かおうとしていた俺はタケシに呼び止められた。


「ん? どうした?」

「いや、あんま大きな声で言えることじゃねえんだけどさ……」


 そう言って彼は辺りを窺うようにチラチラと視線を左右に揺らすと、少し声をひそめるように話し出した。


「4組の横山、いるだろ?」

「あぁ、あの……」


 例の性格が悪い美少女である。


「横山がどうかしたん?」

「いやさ、俺ちょっと4組に用事があって行ったんだけどな。そこで横山が女子達にでっかい声で話してるのを聞いちゃったのよ」

「聞いちゃったって、何を?」

「それは、その……」


 彼は少し言いづらそうに視線を彷徨わせていたが、やがてさらに声を小さくして囁くように俺に告げた。


「……高橋が『陰キャ』って、ものすごい馬鹿にしてたんだわ。俺もちょっと胸糞悪くなるくらい」

「…………」


 あーね、あーね。あの性悪女のことだ、そんくらいのことやってるとは思ったよ。

 でも多少の予想がついていても、本当にそう言うことがあるのだという事実が告げられるとやっぱり少しショックだ。思わず閉口する。


 それに、常にカスクラと一緒に行動しているせいで若干倫理観がバグりつつあるあのタケシですら、胸糞が悪いと感じたのだ。

 それはそれは、大いに馬鹿にされていたのだろう。


『一組のあの陰キャ知ってる〜?』

『知ってるよ〜、えと、名前なんだっけ?』

『知ってるわけないよ、あんなド陰キャの名前』

『てかあいつまじキモくね。いっつも暗いし。ほんと視界に入れたくないわ〜』

『分かる〜』


 大方こう言った感じだろう。以前聞いたことがある横山とその取り巻きの会話から再現させていただいた。


 はっきり言うと、俺もやっぱり胸糞が悪い。今すぐにでも4組に乗り込んで胸ぐらを掴んでやりたい。


 確かに誰かを苦手としたり嫌ったりすることはしょうがないことだ。現に俺だって横山を苦手としているしな。

 でもそう言ったマイナスの感情を、あえて悪口として悪びれることなく堂々と発信する行為が俺は大嫌いだ。


 だから一発、殴りを入れてやりたい。


 しかし、そうやって激昂する自分とは別にもう一人──冷静な自分がいた。


 そうやって自分の感情に任せて相手に殴り込んで、本当に令美のためになるのか? やばい奴の彼女だとして、令美の方が攻撃を受けたりはしないか? 


 彼女が悪く言われているのだから、なんとか仕返してはやりたい。しかしリスクや倫理を考慮すると、それはあまりに馬鹿らしすぎる。


 どっちを取ればいい。


 俺は心中で1人葛藤する。そんな心の動きが分かっているのだろう、タケシは特に何も言わず、ただ心配そうに俺を見ていた。


 結論は数十秒ほどで出た。感情に身を任せては、悪口を言う彼女らと同レベルになる。ここはクールでダンディーな英国紳士に徹するべきだ、と。


「……教えてくれてありがとな、タケシ」

「おう、気にすんな」

「もし少しでも高橋が危なくなったらどうにかするけど……それまでは様子見かな」

「それがいいと思うぜ」


 タケシが俺の肩を軽く叩く。


「ま、俺も横山に注意しとくわ。俺も正直あいつ苦手だから」

「サンキュー、頼んだわ」


 そこで俺はタケシと別れ、もやもやとした気持ちを抱えたまま部活へと向かった。



**



 その後部活を終え校門へと向かうと、いつものように令美がいた。


「ごめん、いつも待たせちゃって」

「うぅん、全然大丈夫」


 俺らは並んで歩き出す。タケシの話は伏せておくことにした。そう言ったことを伝えて、彼女を無駄に傷つけたくはないのだ。

 代わりに俺は昨日の話の続きを確かめるべく、彼女にそのことを訊ねることにした。


「なぁ、令美。昨日の通話のことなんだけど……」

「あっ、私、最後の方どうなってた? あ、あんまり記憶がなくて」

「ん? あー、なんか今までにない甘え方されて……猫みたいですんごい可愛かったよ」

「えっ、恥ずかしい……」


 令美は耳まで真っ赤にしながら、それを隠そうとするように両手で顔を覆った。

 う〜ん、可愛い……でもそうじゃない。


「じゃあ、あれも覚えてないよな」

「あれ?」

「いや、令美がさ、最後大事そうな話をしようとしてたんだけど、途中で寝ちゃって……」

「大事そうな話……」


 彼女は首を傾げて「うーん」と唸る。


「ご、ごめんね、覚えてないや」

「だよなー」


 まあ覚えてないんならしょうがない。もしかしたらそのうち思い出すかもしれないし、今は深追いするべきではないだろう。


 そう考え俺は昨日のことを頭から追い出し、またいつものように雑談に花開かせた。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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