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通話

昨日投稿できずすみません!

代わりに明日は二話更新します。


 その後部活を終え、俺はいつものように校門で待っている高橋と並んで帰った。これも徐々に日課となりつつある。


 他愛もないことを話しながら地下鉄に乗り、最寄駅で降りて彼女の家へと向かう。途中、どちらからともなく手を繋ぎながら、である。これも段々と日課になってきた。


 そして20分ほど歩くと、もう令美の家に着いてしまった。


「じゃ、また明日な」


 そう言って、俺は少し物足りなさを感じながらも帰ろうとする。だがそんな俺を呼び止めるかのように令美が、


「ちょ、ちょっと待って!」


 と小さく叫んだ。


「どうした?」


 俺は歩みを止め、クルリと彼女の方へと振り返った。彼女はちょっと俯いてモジモジとしていたが、おもむろに顔を上げて、


「きょ、今日さ。この後……時間、ある?」

「時間? まあ、俺はいつでも暇だけど……」


 それがどうしたのだろう。

 首を傾げる俺に、彼女はゆっくり言葉を選ぶように話を続けた。


「こ、この後さ……一緒に、通話しない?」

「…………」


 俺は一瞬返事をするのが遅れてしまった。



**



 そんなわけで俺は令美と通話をすることになった。ここに来てのビッグイベント。テンションは爆上げである。


 令美と別れると、俺は爆速で路地を駆け抜け家へと向かい、家に着くや否やすぐに部屋へと飛び込んだ。


 やや荒ぶる息を整えながらもスマホを取り出し、令美とのチャットを立ち上げる。


【家に着いたよ】

【いつから始められそう?】


 そんなメッセージを送る。返信はすぐに帰ってきた。


【《れみ》いつでもいいよ!】


 じゃあ、もう少し息を整えてからかけよう。流石にゼーハー言ってる中で電話するのは気が引ける、興奮してるって思われるかもしれないからな。


 ちなみに最初はLINEでは敬語だった令美も、近頃はタメ口で話すようになっている。緊張が抜けてきた証だ。よしよし。


 そんな事を考えて顔をニヤつかせているうちに息も整ってきた。もう頃合だろう。


【じゃあかけるね】


 そう断りを入れてから、俺は右上の通話ボタンへと指を伸ばす。一瞬聞こえてくる軽やかな音楽。だがそれから程なくして音楽は途切れ、代わりに可愛らしい声が聞こえてきた。


「も、もしもし?」


 うーん、可愛い。機械を隔てて聞こえてくる声には、なんだかいつもと違う可愛さが感じられる。


「もしもし? 大丈夫そう?」

「うぅん、大丈夫だよ。龍星くんはいつ頃まで通話できるの?」

「そうだなぁ……ま、いつでも大丈夫だと思う」

「……ならいっぱい話せるね」


 電話越しに令美が小さく「ふふっ」と笑っているのが聞こえる。

 グハァッ。その台詞、童貞にはちと強力過ぎます。


 オーバーキルを食らいながらも、俺は平静を装って話を続ける。


「そ、そうだな。てか、なんで急に通話しようと思ったの?」

「言わせないでよ……龍星くんともっと話したかったの」


 照れた声色で彼女が言う。思わず顔が熱くなるのが感じられた。


「……可愛いな」

「ちょ、変なこと言わないで……!」


 電話越しに少し戸惑っているのが分かる。

 というか思ったのだが、対面で話している時よりずっと会話がスムーズな気がする。顔を向い合わせない方が話すのが楽なのかもしれない。


 少し言葉を詰まらせながら話す彼女からは「頑張っている」という感じが伝わってきて無性に愛らしさが湧くのだが、これはこれでいいな。


 なんて考えながら、俺らはまた取り止めもない雑談に花を開かせ始めた。


 途中、もうすぐ日が変わろうかという時に母がやってきて少し咎められたが、相手が彼女である事を伝えると、


「あらあら、しょうがないわね」


 と、ニマーッとした妙な笑いを浮かべながら後は何も言わずに部屋から出て行った。


「そう言えば令美は夜遅くまで通話しても大丈夫なの?」


 ふと気になってそう訊ねる。


「お母さんは仕事で家にいないから、全然大丈夫」

「そっか……大変だね」


 あんま家にいない感じなのか。ということは自分の夕飯なんかは自分自身で用意しなければならないのだろう。俺は両親にすっかり依存しているので、相手にそう言ったしっかりとしたところがあるとやはり尊敬してしまう。


 そして尊敬の念が湧くと同時に「誰もいないのか……」と、けしからん妄想をしてしまうのは男子高校生の性だろう。


 だが向こうは俺がそんな欲にまみれた妄想をいることなんかつゆ知らないので、


「全然そんなことないよ。ご飯と洗濯は少し大変だけど……でも結構気楽だよ」


 と普通に話を続けた。


 そこから話はさらに広がり、いつの間にやら3時になった。流石の俺もそろそろ瞼が重くなってくる頃。だがそれは向こうも同じらしい。最初はしっかりとしていた声も徐々に力が抜けていき、今となっては


「流星くぅん、起きてるぅ?」


 という甘えた声になっている。普段のツンとした感じとあまりにかけ離れたギャップに喘ぎながらも、俺はなんとか「お、おう」と返事をする。


「てか、令美のほうこそ大丈夫か? だいぶ眠そうだけど……」

「えへへ、私は全然大丈夫だよぉ」

「ほんとかぁ?」

「ほんとだってばぁ」

「無理はすんなよ。明日に学校あるし」

「流星くんと話せたら私は十分だよぉ」

「そ、そっか……」


 嬉しいこと言ってくれるじゃねえかチクショウ!


 それから少しの間、スピーカーは声だけでなく沈黙を発するようになった。寝落ちしちゃったかな、と一瞬思うが、そんな俺の考えを打ち消すように彼女はふと俺に呼びかけた。


「……ねぇ、流星くん」

「ん? どうした」

「私さぁ、一つ、言わなきゃならないことがあるんだよね」

「言わなきゃならないこと?」


 一体なんだろう。実はあなたのことそんなに好きじゃありませんでした、とか? いやいや、まさかそんなわけ……待てよ。


 そもそも俺がこうして令美と一緒にいられるのは罰ゲームのおかげだ。だがもしそのことがバレたら? 失望されたとしても、なんらおかしくはない。

 俺は決して胸を晴れる立場にはいないのだ。


 頭が疲れてきているのか、そういう悪い妄想ばかりが頭をぐるぐると巡る。


「実はね……」


 俺が悶々とする傍らで、令美はさらに話そうとする。だがその言葉は、途中でプツリと途切れたきり続くことはなかった。


「令美?」


 急に言葉が切れたので俺は心配になり、俺は声をかける。しかし、返事はない。代わりに聞こえてきたのは、


「スー、スー」


 という可愛らしい寝息だった。もう一度声をかけてみるも、返事はない。今度こそ完全に寝落ちしてしまったらしい。


「まじかぁ……」


 椅子に体重を預け、背中をそらすように天井を見上げる。あんなところで話を切られるとは流石に思いもよらなかった。胸中にもやっとしたしこりが残る。


 しかし、こんなに可愛らしい寝息をたてながら気持ちよさそうに眠っているのだ。起こすわけにもいかないだろう。


 しょうがないので、俺はしばしの間彼女の寝息に耳を傾けた後、「おやすみ」と声をかけてから通話を切った。

 通話時間、8時間25分。やりました花巻選手、自己ベスト更新です!!


 そんなしょうもないことを考えつつ俺は大きくあくびをしてベッドに入る。流石に眠いし、何より明日も学校はあるのだ。さっきの言葉の続きは気になるところだが、それは明日本人に確かめれば良いのである。


 そうやって考えを巡らせているうちに、俺はストンと深い眠りに落ちていった。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

少しでも続きが気になったらぜひブックマークと評価をお願いします!


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その小さな気遣いが、作者の最大のモチベです。


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