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勝負

ページを開いていただきありがとうございます。

まだまだ駆け出しですので、ご容赦ください。


「よし、じゃあ一斉に見せ合うぞ」

「あぁ」

「望むところだ」


 放課後。

 白湯高校の1年1組教室には、俺──花巻龍星(はなまきりゅうせい)を含む3人の男が机を囲むように集まっていた。


 黒髪で眼鏡をかけた真面目そうな奴が合田(ごうだ)。何故とは言わないが、みんなから「タケシ」と呼ばれている。もちろん本名ではない。


 そしてその隣にいる茶髪のイケメンが支倉(はせくら)。小中高全て俺と同じ学校に通っている、俺の幼馴染だ。モテるが故に平気で女をたぶらかすクズであることから、俺らは「カスクラ」と呼んでいる。

 

 俺がいつもつるんでいる2人だ。

 そして今日、わざわざみんなが帰るまで教室で待機していたのには訳がある。


 汗ばむ俺らの手に握られている、細長い紙切れ。

 先日実施された定期考査の結果が書かれたものだ。


 それを今から互いに見せ合うのだ。

 俺らが何をしようとしているのかはおおよそ察しがつくだろう。


 点数勝負である。


「じゃあ『せーの』でいくぞ」

「とっととしろよ」

「ビリだけは嫌だな〜」


 教室が緊張で包まれる。タケシの「ゴクリ」と生唾を飲み込む音が耳に付き、カスクラはその手がかすかに震えている。

 かと言う俺も、緊張で冷や汗が止まらない。


 ただの点数勝負にここまでガチになっているのは何故か。


 理由は単純である。


 ビリになった者は一回だけ、勝者のいかなる命令にも従わなければならないからだ。

 たかが一回とはいえ、法律に触れない限りどんな命令にも従わなければならないので、緊張が生まれるのは必然のことだろう。


 そしてカスクラの「せーの!」と言う掛け声に合わせて、俺らは同時に成績表をビターンと机に叩きつけた。


 ちなみに今回のテストは8教科で実施され、合計800点満点である。


「カスクラは何点だった?」


 タケシが訊ねる。それに対しカスクラは得意げに答えた。


「俺は721点」

「えっぐ! 高すぎだろ……」

「そういうお前は何点だよ」

「ん? 頼むから低いとか言うなよ?」

「言わねーって」

「……615点」

「ひっっっく!」

「あ、やっぱり言いやがったなこの野郎!」


 2人が楽しそうにじゃれ合うなか、俺は何も言えずにいた。そのことに気づいたタケシが聞いてくる。


「どうした龍星。お前も点数言えよ?」

「俺は……」


 言いづらそうにしている俺に痺れを切らしたカスクラが、俺の手元から成績表を引ったくった。


「あ、おま……!」


 慌てて取り返そうとする俺を手で制しつつ、彼はそこに書かれている総合点を声に出して読み上げた。


「えーと、花巻龍星! 総合点は──」


「……486点」


 一瞬場がシーンとなる。だがすぐにタケシがプッと噴き出し、2人は声を揃えて笑い出した。


「お、お前どうしたんだよこの点数! 平均点すら超えてねーじゃねぇか」

「あ〜、言うなよ恥ずかしい! 俺だって気にしてるんだから!」


 カスクラが煽ってくるのに、俺はクシャクシャっと頭を掻きながら言い返す。

 タケシは少し気の毒そうな表情を浮かべつつ、


「なんだ、解答欄でもズレてたか?」

「いや、本番の時に急に頭が痛くなったんだよ」

「言い訳だな」

「言い訳だ」

「ちげぇよ!!」


 2人が顔を見合わせて言うのに、俺は声を荒げて反論する。

 タケシは「やれやれ」と肩をすくめながら、


「まぁとにかく、罰ゲームは龍星に決定だな」

「いやー、羨ましいぜ」


 パチパチと拍手をしながら、カスクラがわざとらしく悔しそうな声で言う。


「バカにしやがって……」

「お? バカだからこうなってんじゃねーのか?」

「くそっ、言い返せねぇ……」


 返す言葉もなく、俺は地団駄を踏みながら悔しさを噛み締めることしかできない。


「ほら、とっとと負けを認めろよ」

「ここにきてチキっちまうのか? 情けねー」


 2人が俺を煽り立てる。


「……はいはい、俺の負けです。どんな命令にも従いますよ」


 結局なんだかどうでもよくなり、俺は「はぁ」と諦めのため息をを吐きつつ、両手を軽く上げて降参の意思を示した。


 2人が息を揃えて「よっしゃ」とガッツポーズをする。


「さて、罰ゲームは何にしようかな〜」

「あ、俺いい案あるぜ」


 カスクラが手をスッとあげた。


「お? なんだよ、言ってみろ」


 タケシに訊ねられると、カスクラは「コホン」ともっともらしく咳払いをした後に答えた。


「それはな……龍星。高橋に告れ」

「……え? 高橋って、あの?」


 思わず訊ね返してしまった。

 彼が言う「高橋」とは、多分あの人のことだろう。


 頼む! そうではないと言ってくれ……!


「もちろん、1組の高橋だよ」


 ……やっぱそうなりますよね。


 ここで言う「高橋」は、学年の中でそれなりの有名人である。察しの通り、あまりいい理由ではない。

 別に素行不良というわけではないが……一言で言うなれば「陰キャ」なのだ。


 高橋令美(れみ)

 牛乳瓶のそこのような眼鏡をつけ、背中の中ほどまである黒髪には常に寝癖がついている。

 スカートもすねの真ん中ほどまであり、常に暗いオーラを見に纏っている。

 コミュニケーションが得意ではないらしく、話しかけられるといつも挙動不審げに「あ、その……」と言葉を詰まらせてしまう。


 そんな人だ。

 中には「学年1の陰キャ」と呼ぶ人もいるくらいである。


 もちろん俺は嫌ってなんかいない。

 俺は陰やら陽やらといった区切りは嫌いだし、そういった印象で相手を決めつけたりしないようにしている。


 だが。


「お前、話したこともない奴に嘘告しろって言うのかよ!」


 流石にそれは俺の人格が疑われる。

 互いを傷つけるだけの行為には流石に気乗りしなかった。

 だがカスクラは惑うことなくキッパリと答えた。


「だって、そうでもしねーと罰ゲームになんねぇじゃん?」


 あー、そうだった。

 こいつ生粋のクズなんだ。


「流石カスクラだな……」


 タケシも呆れてしまったらしい。

 カスクラは何故自分が呆れられているの分からないらしく、困惑した表情を浮かべながら、


「え、だって告るくらいならいいだろ? 一回デートに行って、それで『やっぱ合いませんでした』って振ればいいじゃねーか」

「うわ、マジかよお前。人格悪いな」

「何でこんな奴がモテるんだか……」


 あまりのクズ発言に俺とタケシはドン引きする。


 だがいずれにせよ、今回の勝者はカスクラだ。

 彼の命令には、絶対従わなければならない。


 そう言ったわけで、俺は翌日に高橋に告ることになった。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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