1話 何だこれは…
居酒屋で「異世界転生したらみんな成功してるのおかしくないか?」ってところからできたこのお話。
主人公がもがき苦しむ様をぜひお楽しみください。
太陽は空高く上り、時刻はそろそろお昼ごはんを食べようかというくらい。
森の中にある湖と言うには小さい気がするが池と言うには大きいように思える湖(仮)の水際に人影が1つ。
木に囲まれていることもあり、風に煽られた木々の葉が揺られる音くらいしか聞こえないはずのその場所に男の叫び声が響く。
「ざっけんな!!夢なら早く覚めろよ!」
男の叫び声に答えるものは居なかった。
周りには男以外の人影1つ見えないからそれもそのはずである。
男はただ叫んだだけなのにふーふーと肩で呼吸をしている。
水面に映った自分の姿を見て頭を抱える男は何かをブツブツとつぶやき続ける。
「なんだ…これは…これは…誰だ?それにさっきの…何なんだ…わけがわからない…」
頭を抱え自分の姿を見続けていただけだった男は何かを思いついたかのように池に飛び込んだ。
男の体は遠目から見ていても整っているとは言えない肥満体型だった。
でっぷりと飛び出している腹の肉はそれはそれは贅沢な暮らしをしてきたのではないかと思えるものだった。
そういえばこんな話を聞いたことがあるだろうか。
「肥満体型の人間は潜ることが出来ない」
脂肪が多い人間は潜ろうとしても体が勝手に浮いてきてしまい潜ることが難しいと言われているのだ。
さて、今湖に飛び込んだ彼はどうだろうか。
ばしゃばしゃと水しぶきをあげながら必死に潜ろうとしているようだが、潜ろうとしている途中で体がひっくり返ってしまって上手く潜ることが出来ていないようだ。
何度か試した後に諦めたのか岸に這い上がってきた。
運動は苦手なようであれだけの運動でも息が完全に上がっている。
自分の体を水面より上に腕力だけで持ち上げるのは難しかったようで、転がるようにしてなんとか上がると仰向けになって空を眺めていた。
呼吸は荒く大きな腹も激しく上下しているのがわかる。
「ふー…ふー…。何なんだこの体は…全部アイツのせいだ…」
よろよろと重そうな体を持ち上げてゆっくりと立ち上がると男は池の周りをあるき始める。
どうやら考え事をしているようだがすぐに歩き疲れて座ってしまった。
「状況を整理しよう。まず…さっきの話だと…【ステータス】」
その声に反応して男の目の前に半透明のプレート状の物体が現れる。
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フトリ=ニッケーリ
男 20歳
レベル1
体力1 魔力1
攻撃1 防御1
俊敏1 運 1
知力? 精神力?
その他
【女神の悪意】:体型が変わらなくなる
【女神のわがまま】:レベルが上がるまでに2倍の経験値が必要
【女神のきまぐれ】:毒耐性・マヒ耐性・自死不可
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「くそったれ…何が女神だ…」
男はそう言って再び立ち上がると近くに落ちていた小枝を拾った。
「こんなのは耐えられるわけがない…」
手に持っていた枝の尖った部分を胸の左側に当てつぶやく男。
グラッと態勢を崩して前に倒れ込み始める男。
どうやら自分の意思はあるが事故による死を選んだようだ。
何が彼をそうさせるのかはわからない。
何故彼がここでそのような思考に至ったのかはわからない。
わかるのは彼が自らの意思で前に倒れ込もうとしていることだけだった。
男が手に持っていた枝が地面につくかと思ったその時…
ビタッと彼の体は静止した。
とある歌手のダンスの一部で前傾姿勢になってから戻るというものがあったがこれはそんなものではない。文字通り静止したのだ。
かかとが地面に付いているわけではない。
地面に付いているのはつま先だけ。それなのに彼の体は枝が地面に当たる直前の状態のまま静止しているのだった。
ふわっと光の玉のようなモノが彼の体の周りを飛び回る。
「意思を持っての行動と判断したため【女神の気まぐれ】により行動を制限させていただきました。これ以降も同様の行動を取ろうとした場合には今回のように行動を制限させていただきます」
それだけ告げると光は玉はふっと消えた。
ゴロンと体が回転して男は再び仰向けになり空を見つめていた。
今度は背中が地面に接している。
先程の行動は本当に制限がかかっていたのだろう。
「これでもだめなのか…意思がなければいいのか?だけどどうやって…そんなの不可能なんじゃ…」
今度は転がるように湖に入り、そのまま何もせずに浮かんでいる男。
空は青く、白い雲がゆっくりと広い空を漂っている。
「俺は…誰なんだろうな…」
この物語はこの肥満体型の男の物語である。
男が何故ここに居るのか。何故死のうとしているのかはまた後ほど。
最後までお読みいただきましたありがとうございました。
これだけ読んでもぶっちゃけ何もわかりませんよね。フトリ=ニッケーリがなぜここにいるのか。どうして死のうとしているのかなどなど…
次回の話である程度は分かると思うのでお楽しみに。