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付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話。  作者: 頼瑠 ユウ
二巻目

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第十六話:彼女の宝物


 上条悠斗は一ノ瀬綾乃に手を引かれ、昼から缶ビールを呷る彼女の父に挨拶をする間も無く、綾乃の部屋に連れて来られた。


「ちょっと待ってて」


 綾乃に促され、悠斗は宿題をする時のいつもの位置に腰を下ろす。


 今や自分の部屋以上に様に寛げる部屋だが、クローゼットを開けてゴソゴソと整理をし出す彼女の背に、悠斗はソワソワと落ち着かない。


 彼女に自分の夢と不甲斐無さを伝え、どこかスッキリした様な恥ずかしい様な気持ちだったが、半ば強引に連行されて戸惑っていた。


「えっと……それで、どうしたの?」


「うん、見て欲しい物があるの」


 不安気に声を掛けると、綾乃は収納ボックスを抱えて悠斗の前に置いた。


「……?」


 小首を傾げる悠斗に綾乃は苦笑して、


「私の宝物よ」


「宝物?」


「うん。まぁ、今の一番は……こっちなんだけどさ」


 綾乃は自分の首にかけた指輪に手を添えて小さく微笑んだ。


「でも、コレだって今でも大事な宝物なの」


 彼女は収納ボックスの蓋を開け、悠斗はその中を覗き込む。


 押し花の栞。ビーズのネックレスやブレスレット。そして数冊のノート。


 どれもが古び、他人が一見すると整理されたゴミ箱の様。


 だが、二人は様々な思い出が蘇り、自然と微笑んだ。


「懐かしいな、色々一緒に作ったっけ。にしても、よくこんなの残してたな」


「残して置ける奴だけでもね。どれも大事な思い出が一杯だから、こんなの言うなー?」


 不満気に唇を尖らせる綾乃を可愛く思いつつ、悠斗はその中の栞を手に取った。


 ラミネートフィルムで挟まれた四つ葉のクローバー。


「それ、覚えてる?」


「確か、俺から言い出した。その日の占いで綾乃のラッキーアイテムがそうだったよな。河原で一緒に探してたっけ……昼から夕方まで。あの時は母さんにこっぴどく怒られたよ。『いつまでも女の子をそんな事に付き合わせるな』って」


「でも、押し花で栞の作り方を教えてくれたわね」


「な。俺も綾乃が作ってくれた奴、今も使ってるよ」


 他にも、綾乃と一緒にビーズ手芸をよくしていた。当時から彼女は器用だったのを思い出す。


 対して、自分が綾乃にあげたネックレスはサイズを合わせて作った筈なのに、妙に大きくなってしまった。


 それでも、彼女は喜んでくれていた。


「……大事にしてくれてたんだな」


「うん。それで、見せたかったのがコレ。色々、一緒に作ったり遊んだりしてたけど、一番嬉しかったの」


 気恥ずかしそうに微笑みながら綾乃は一冊のノートを悠斗に手渡した。


 受け取った彼はその表紙を見て、絶句する。


『ゆうしゃユートとアヤノひめのぼうけん』


 太いマジックで汚く幼い字だった。


「……――」


 恐る恐るページを捲る。


 歪な絵、汚い字、拙い文――。


 それは『ごっこ遊び』の延長にある『冒険譚』。


 勇者になった自分が、姫になった彼女と共に冒険をする超スペクタクル(子供の妄想)


 どこかで拾って来た聖剣をブンブンして、なんか色々都合よく解決していくファンタジー(落書き)


 子供の頃、自作の絵本を得意げに綾乃に見せていた思い出(黒歴史)を思い出す。


「――ゴハっ!?」


 吐血でもしたかと思った。……気のせいか、ちょっと体調も悪くなって来る。


「え、なんでダメージ受けてるの!?」


「いやだって、おま――なんでこんなのまで残してるんだよ、流石に捨てようぜ……」


 眉を顰める悠斗の手から綾乃は慌ててノートを奪い返す。


「捨てないわよ、ばか。宝物だって言ってんでしょーが!」


 必死な綾乃に、悠斗は目を丸くした。


「……別に面白いもんじゃないだろ?」


「そんな事ないもん……」


 どこかムスッと綾乃は呟いて、


「なら、ユートの『面白い』ってなに?」


「……ブックマが多くてランキングで上位になったり……大賞で受賞して書籍化したり、とか?」


「それは『評価された』ってだけよ」


 戸惑いながら答える悠斗に、綾乃は苦笑する。


「私はね、心に残る物語が本当に面白いんだと思うの」


 彼女は大事そうにノートを抱きしめて、


「読んだ人が、喜んだり、怒ったり、哀しんだり、楽しんだり……心が動かされて、また読みたい、続きが気になる、終わって欲しくない、けど結末を見届けたい――読んで良かったって思う物語がその人にとって、どんなベストセラーよりも面白いって、私は思う」


 心からの言葉だった。


「――なら猶の事、俺には……」


「そんな事無い」


 綾乃は自嘲する様に呟く悠斗の傍に寄り添って手を握る。


「私はユートの書いたこの物語が大好きよ。何度も読み返して続きが気になって仕方がない位。ワクワクしたドキドキもした楽しかったし――嬉しかった」


 真っ直ぐと彼の目を見つめた。


「私が不安でいっぱいだった頃、寂しくて泣いてばかりだった頃。私はユートの物語に救われたんだから」


「――俺の書いた、あんな絵本に……?」


「そーよ。それにユートの物語に元気を貰ったのは私だけじゃないのよ」


 綾乃はどこか悪戯めいた微笑みで自身のスマホを悠斗に見せた。


「感想、ちゃんと全部読んでないでしょ?」


「……最近は、厳しいのが多くてちゃんと見れてない――かも」


 バツの悪そうに苦笑する悠斗に「じゃぁ、私が読んであげる」と綾乃はぴったりと肩を寄せて、スマホを操作する。


「『誤字脱字が多い。時々、誰のセリフか分からない所がある。戦闘シーンも似た様な展開が多い様に思う』。……うん、確かに率直で厳しいかもね」


「はは……やっぱ、ダメなんだって――」


 力無く笑う悠斗を支える様に、


「ですが――」


 綾乃はスマホの画面を彼にも見える様にして、


「『ストーリー自体は、ボク好みです。主人公に好感が持て、ヒロイン達もみんな可愛くて魅力的でした。これからも楽しみにしています』――だって」


 そしてスマホの画面をスクロールさせた。


「『やっと最新話に追いついた! もうすぐラストだと思うけど、最後まで頑張って!』」


 幾つかページを切り替え、スクロールさせて表示させた感想に悠斗は小さく声を漏らした。


『投稿開始から読んでます。このサイトの中で一番好きな作品です。もう少しで最終回とあとがきであり、楽しみの様な寂しい様な不思議な気持ちです。読者としてこの物語の結末を楽しみにしています』


「……どう? 少しは分かった?」


 綾乃は悠斗の表情を見て、微笑んだ。


「ユートの書いたこの小説は、ランキングで一位になれるものじゃないかもしれない。読んだ全員が好き、面白いっていう訳でも無い。書籍化は――難しい、と思う」


 だけど、と。


「ユートの小説はこうやって読んだ誰かの楽しみになってる。まだ、好きって言ってる人は居る、感想は書いてないけど好きだって思ってる人は絶対居る――ちゃんと誰かの心に残ってる。それは誰でも出来る事じゃないもの」


 綾乃は誇る。


「ユートのこの三年は無駄なんかじゃない。ユートの目指した夢は無意味なんかじゃない」


 満面な笑みを浮かべて。


「ユートは素敵な小説が書ける立派な小説家さんで、私の自慢の旦那さんなんだから」


 それが彼に伝えたい事だった。


 悠斗は綾乃と見つめ合うと、次第に視界がぼやけて来た。


「――――」


「あれ、泣いてるの?」


「……泣いてないし」


 悠斗はそっぽを向いて、目を擦る。


 鼻まで啜り出した彼の頭を綾乃は胸に抱きしめた。


「ふふ、私の胸を貸してあげよーう」


 よしよし、と頭を撫でられながら悠斗も彼女に腕を回す。


「俺――小説、書いてて良かったのかな」


「当たり前。毎日、更新してるかなって確認する人だって居るわよ。だから、ちゃんと最後まで頑張ってね『夜神』先生」


「おう。頑張る」


「私も先生の小説読むからね」


「期待はしないでもらいたいな」


「えー、やだー」


 悠斗が綾乃の胸にドギマギしながら眉を顰めると、彼女はおどけてみせた。


「もう私は先生のファンなので、待望の次作は期待しちゃうのです」


 綾乃はぎゅー、とより密着する様に抱きしめる。


「……まぁ、一番好きな作品がエタっちゃったのは残念なんだけどさー」


 自分の胸の中で気恥ずかしそうでいて、抱擁を受け入れる彼を愛おしく思いながら、どこか寂しそうにつぶやいた。


「そんなにあの続きが気になるのか?」


「そりゃ物凄く。今、アンタの遊んでるアプリゲームがいきなり配信終了したらどんな気持ちよ?」


 悠斗の問いに綾乃は向かい合う様に座り直した。


 彼は、フムと短く考えて、


「まだ推しキャラの育成が済んでないし、夏の期間限定イベントも控えてる――超辛い」


「その十倍は辛いと思ってくれて良いわ」


 思い入れの大きさを誇る様に綾乃は小さな胸を張る。


 目を丸くする悠斗に彼女は照れ笑った。


「まぁ、子供の頃の話だから無理も無いんだけどね」


 その寂しそうな微笑みに悠斗は小さな勇気を振り絞る。


「――続きなら、ある。それが最終回なんだけど」


「ぇ……?」


 呆けた綾乃の声に彼は自信なさ気に苦笑する。


「『勇者とお姫様が冒険の末、遂に魔王のお城に辿り着き最後の戦いに挑む』……なんて、酷い内容だよ。あの頃は、もう綾乃と外で遊ぶ事が多くなってたからそのままだったけど、話自体は最初に決めてノートにメモしてたんだ」


 昔を懐かしむ様に悠斗は目を細めた。


「流石に、絵本として完成はもう出来ないけど、子供向けの短編位なら直ぐに書けるから。それでも良いなら――」


「み、見たい! 凄く……見たい!」


 叫びに近い返事だった。


「えらく食い気味だな」


「だって、ずっと待ってたんだもん……」


 揶揄う様な悠斗に綾乃は拗ねた様に唇を尖らせた。


 ――そして、二人は笑い合う。


「随分と待たせちまったな。……ごめん」


 悠斗は綾乃の手を優しく握る。


 けど、と、


「ずっと待っていてくれて、ありがとう。期待に応えられるかは分からないけど、あともう少しだけ待っていてくれ」


 照れ臭そうで、それでいて晴れ晴れとした笑みで、


「俺も、綾乃に見て欲しかったから」


投稿が遅れて申し訳ありません。2巻目も、もうじき完結です。

今しばらくお付き合いして頂けると幸いです。



『面白い』『続きが気になる』と思って頂きましたら、ブックマークを、


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